じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

田山花袋「蒲団」

2020-07-21 14:42:07 | Weblog
★ 7月18日の朝日新聞「読書」欄。古典百名山の担当は平田オリザさんで、田山花袋の「蒲団」を取り上げていた。

★ 1907年、明治40年に書かれたというこの作品。島崎藤村が「破戒」で脚光を浴び、国木田独歩が美文を究めようとしていた時代、焦る花袋の姿を平田さんは活写されている。

★ 文学史では、藤村と並び、自然主義の作家といわれる花袋。「蒲団」はその代表作だが、現代、果たしてどれほどの人がこの作品を読んだだろうか。私も本棚に備えてはいたが、なかなか読む機会に恵まれなかった(読む気が起こらなかった)。

★ 今回が良い潮時なので、田山花袋「蒲団・重右衛門の最後」(新潮文庫)から「蒲団」を読んだ。

★ 内容は平田さんが紹介されている通り。冴えない中年の作家が「弟子入りしたい」と言ってきた美少女に恋愛感情を抱いてしまう。しかし、作家には妻子がある。それに一応「師」としての体面もあるのだろう。しばらく忘れていた恋情を表には出さず、内面で温めることに快楽を覚えていた。

★ ところがである。その美少女に彼氏ができたという。彼女と同じ年頃の学生で、彼女と同じくクリスチャンであるという。自ら守り育ててきた果実を奪われると、中年作家の嫉妬が燃え上がる。表面上は良き理解者の仮面をかぶりながら、内面ではいつか自らのものとせんという想いが高まっていく。

★ いろいろあって、結局、美少女は父親と共に国元に帰ってしまうのだが、美少女が寝起きしていた蒲団に寝ころび、彼女が身に付けていた衣服の残り香を嗅ぎながら涙を流す中年男は実に気色悪く、それでいて同情を禁じ得ない。

★ 天下国家とは程遠い、それでいて人間の内面を赤裸々に描いている。確かに、花袋は自然主義の一端を担っているのかも知れない。
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