じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

原民喜「翳」から

2020-01-19 10:14:59 | Weblog
★ 今年の大学入試センター試験、国語に原民喜さんの「翳」が出題されていた。

★ 原作を読んでみようと本棚をさぐり、青空文庫を検索したが、掲載されていなかった。講談社文芸文庫「原民喜戦後全小説」に収められているようだ。どうも手に入りにくそうなので、とりあえず入試問題を読んでみた。

★ 作者は妻の死を知らせる葉書を身近な知人に送ったという。「魚芳」にも送ったが、返事が来なかったという。「魚芳」とは近所の魚屋の小僧で、名は川端成吉といった。愛嬌のある男で近所ではなかなかの人気者だった。

★ 時代は日中戦争から、やがて本土空襲が頻繁になる時期へ。御用聞きでにぎやかだった露路も、次々と兵役にとられ、閑散としていく。「魚芳」も最初、中国本土に送られ、除隊になっって一度帰国したが、その後満州で吏員になったという。

★ 妻の知らせも満州に送ったのだが、しばらくして、「魚芳」の父親から封書が届いた。「魚芳」の死を知らせるものだった。満州で病に倒れ、何とかたどり着いた故郷で数日のうちに亡くなったという。作者は在りし日の彼の面影を手繰る。失った妻の思い出と共に。

★ 受験者はそれどころではないが、味わい深い作品だ。

★ 時代の翳、戦争へと邁進する翳、死の翳、明るい平凡な日常に立ちふさがる翳。それは作者の心に重くのしかかっていく。

★ 問題文では省略されている「魯迅の作品の暗い翳」が気にかかる。機会があれば原作を読んでみたい。

★ 話しは飛躍するが、長寿アニメ「サザエさん」。あの明るさがいつまでも続くように祈りたいものだ。
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