見もの・読みもの日記

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法勝寺落慶供養の復元/声明と舞楽・荘厳の調べ

2017-09-11 21:52:13 | 行ったもの2(講演・公演)
国立劇場 第54回声明公演『声明と舞楽 荘厳の調べ:法勝寺供養次第による舞楽法会』(2017年9月9日、14:00~)

 プログラム(冊子)の解説によれば、声明に舞楽を取り入れた伝統的な法要は平安期に隆盛を極めた後、次第に衰退してしまった。国立劇場では、この法要(舞楽法会)方式を何度も上演しているが、声明と舞楽が独立したジャンルとして確立している今日、両者がともに演奏された過去の記録はむしろ新鮮に感じられるという。確かにそのとおりだ。長い伝統に見えるものが意外と新しいと気づかせてくれる点でも、こういう復元の試みはとてもよいと思う。法勝寺は、白河天皇が1075年(承保2年)に造営を開始し、1077年(承保4年/承暦元年)に金堂の落慶供養が執り行われた。なお、高さ約80メートルとされる八角九重塔の完成は、もう数年あとらしいので、本公演のポスターやプログラムの表紙に八角九重塔が描かれているのは、ちょっと不正確なイメージ図かもしれない。

 本公演は「法勝寺供養次第」という文書(『続群書類従』所収)をもとに構成された。プログラムには、その「法勝寺供養次第」が、分かりやすい表形式に整理して掲載されている。ただし表を見ると、今回、上演されたのは、次第のほんの一部であることが分かる。何しろ本来は一日がかりの法会を、2時間程度に圧縮しているのだから。そして、法勝寺供養次第の作者が源経信(1016-1097)であるという解説を読んで、へえ!と思った。かつて国文学を専攻して、この時代の和歌を学んだ私には懐かしい名前だ。『後拾遺和歌集』を批判して『難後拾遺』を書いた、やや性格の悪い歌人として記憶していたが、こんな才能もあったのだなあ。

 ステージ中央には、四隅に赤い欄干を配した舞楽の舞台。その左右に白木のような広い無地の台があって、ここに僧侶が着席する。奥は楽人の座。そして背景には地面から湧き上がる雲文、中天には螺鈿の鏡のような半円が掛かり、仏菩薩の瓔珞のような飾りが垂れている。私の座席は2階の最前列だったので舞台全体がよく見えた。

・集会之鐘(しゅえのかね)

 法会の始めに鐘が打たれる。梵鐘のような籠った音ではなく、西洋の教会の鐘のような軽い響きだった。

・乱声(らんじょう)
・舞楽 振鉾(えんぶ) 三節

 左方からオレンジ色の衣装の舞人、右方から緑色の舞人が現れ、二人で舞う。左方の槍先は金色で、右方の槍先が銀色だった。

・入堂
・奏楽 安楽塩(あんらくえん)
・獅子
・総礼(そうらい)

 舞人の退場後、奏楽が始まったので、僧侶が入場してくるのかと思ったら、左方から獅子が現れた。全身が赤い布で覆われていて、するすると滑るような足取りなので、赤いオットセイみたいだった。派手な動きはなく、舞台に上がると腰を落として座り込んだり、また立ち上げって、ゆっくり徘徊したりする。獅子は悪魔払いの意味があり、平安時代の大法会では二頭登場していたが、今回は一頭で、江戸里神楽若山社中の振付による獅子だという。

 獅子に気を取られていたら、1階客席後方の扉から、2列に分かれて僧侶たちが入場してきた。緑・黄色・紫など色鮮やかな衣の袖をちらりと見せて、遠目にも豪華な袈裟にくるまれている。左列の先頭のひとりだけが、赤い衣に動きやすそうな袈裟を掛け、鉦(?)を叩いて、リズムを計っている。プログラムによると「天台声明七聲会」と(真言宗)豊山声明の「迦陵頻伽聲明研究会」から20人ずつ出演しており、左に着座したのが(真言宗)豊山声明、右が天台声明だったのではないかと思う。法衣の着付けも少し違っていた。

・舞楽 迦陵頻(かりょうびん)
・舞楽 胡蝶(こちょう)

 まず左方が迦陵頻を舞い、続いて右方が胡蝶を舞う。どちらも童舞だが、ほぼ大人並みの身長の子から、その腰くらいまでしかない小さな子までが並んでいて、ほほえましかった。

・唄(ばい)
・散華
・行道楽 渋河鳥(しんがちょう)

 僧侶たちが短い偈文を唱える。同じ章句を、真言と天台それぞれの節回しで唱える。それから華やかな声明とともに、僧侶が台を下り、散華を散らしながら一列になって舞台上を回る。楽人もこの列に加わる。ここで前半が終わり、幕が下りた。後半は、明るかった舞台が暗くなり、螺鈿の鏡のような背景に灯りがともっている。日没まで続いたよう平安の大法会をしのんで、時間の経過を感じさせる演出だろう。

・讃

 やはり天台と真言がそれぞれの節回しで唱える。最後に鐃(にょう)と鈸(はち)が打ち鳴らされる。以前、「声明を楽しむ」の講座で、鳴り物にも宗派の特色があると聞いたことを思い出した。
 
・奏楽 詔応楽(しょうおうらく)
・梵音
・奏楽 一弄楽(いちろうらく)
・錫杖

 「唄」「散華」「梵音」「錫杖」の四曲の声明から成るものを四箇法要というのだそうだ(初めて知った)。三人の僧侶が舞台に上がり、声明の合間に錫杖を振って、「チャリン」という澄んだ金属音を響かせていたが、これは本公演の特別の演出であるとのこと。

・奏楽 鳥向楽(ちょうこうらく)
・誦経
・退堂
・奏楽 宗明楽(そうめいらく)

 誦経は、経文を読むのかと思ったら梵語の光明真言だった。そして奏楽とともに僧侶は退場し、幕が下りる。なお、「法勝寺供養次第」によれば、僧侶が退出したあと、余興として観客を楽しませるため、多くの舞楽が演じられている。萬歳楽、太平楽、狛鉾、納蘇利など左右それぞれ八曲ずつ(!)。なんと贅沢な一日であったことか。楽しかっただろうなあ。

 またプログラムの裏表紙に「法勝寺八角九重塔跡」の全景をかなり上空からとらえた写真が載っているのも目を引いた。観覧車とおもちゃの鉄道がある、小さな遊園地を囲むように巨大な遺構が広がっている。京都市動物園の中だということは聞いていたけど、こんなふうになっているのか。やっぱり、一度は行ってみなくては。
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