「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

智に働くか、情に棹(さお)さすか

2019年11月22日 | オーディオ談義

私たちの健康を支えてくれる大切な「医療の現場」に「セカンド オピニオン」という言葉がある。

ご存知の方も多いと思うが念のため、意味を掲げておくと、

「現在かかっている医師(主治医)以外の医師に求める第2の意見のことです。この考え方が広がってきた背景には従来の医師へのお任せ治療ではなく、インフォームド コンセント(説明と同意)を受け、自分も治療の決定に関わる医療に変わってきたという社会背景があります。

医療は日進月歩で新しい治療法が次々に生まれています。そのすべてを一人の医師が把握しているとは限りません。

また、医師や医療機関によって患者さんに提供すべきだと考える治療は同じとは限りません。

医師や病院によって提供できる医療内容に限界がある場合もあります。また、患者さんそれぞれによって自分の受けたい治療は様々です。


そこで、患者さんにとって最善だと思える治療を判断するために別の医師の意見を訊くこと、それがセカンド オピニオンです。」

この話と「音楽&オーディオ」といったいどんな関係があるんだと、いきり立つ人がいるかもしれない。まあ、そう焦らずに(笑)。

まず話の発端を述べてみよう。

以前、とあるオーディオ仲間(大分市内)を訪問したところ、修繕した真空管アンプのあまりの変わり様に驚いてしまった。

もちろんすべてがいい方向へと大変身である。なにしろ周波数レンジは広くなるし、奥行き感も出てきて、楽器の位置や音色にもリアリティが横溢していた。以前とは大違いである。

どんなスピーカーでもアンプの性能によって音質が大きく左右されることを改めて痛感した次第だが、同時に「アンプ ビルダー」さんの腕次第でもその差が大きく違うことに驚いてしまった。

ここで仮にこのアンプの持ち主をAさんとしよう。そして作り主、いわば最初に作った方をBさんとしよう、そして今回の修繕主をCさんとしておこう。

つまり患者がAさんであり、主治医がBさん、そして第二の意見を求める医師がCさんに当たる。これで役者が出そろった(笑)。

Aさんはこれまで自分のアンプにいっさい不満を覚えなかった。なにしろ作り主にあたるBさんは軽く500台以上にも上る真空管アンプを作ったというベテランで、回路の設計から配線にかけても正確無比、しかも音質が上等な上に丈夫ときている。

いつも大船に乗った気持でいたが、そのうちウッカリミスで真空管のピンを差し違えてしまいアンプから煙が吹いてしまった。

さあ、たいへん! 間が悪いことに肝心のBさんは寄る年波に勝てず健康を害して入退院を繰り返し、アンプの修繕どころではないご様子。

そこで、仕方なくこれまたアンプ名人で知られるCさんに助っ人をお願いしたところ快く引き受けていただき、煙を吹いた箇所ばかりではなく、ほかにも気になる個所をいろいろと、たとえば回路の配線の見直し、線材の交換から稀少品のハンダのやり直しなどを交えてかなりの規模の修繕と相成った。

その結果、前述のように音質が大変身というわけだが、この出来事について真空管アンプを愛好する人間としてちょっと考えさせられてしまった。

結局、超ベテランとも称されるBさんが作ったものでさえ、結果的にアンプの性能をベストの状態に持って行くことができなかったことになるわけだから。

どんなに優れた「アンプ ビルダー」さんにしても医師と同様に専門分野や得意分野があるのかもしれないと思った次第。

たとえば個有の出力管に対して山ほどの種類がある前段管や整流管の適切な選択と回路の採用、シングル型式とプッシュプル型式の違い、インターステージトランスの扱い方など、これらの細かいノウハウについての情報を個人が100%取得することは不可能に近いといえる。

したがって、このことから導き出せる結論はひとつ、「特定のアンプ製作者に対する思い入れはほどほどに」かな!(笑)

とはいえ、「依頼者と製作者は固い信頼の糸で結ばれているはずだ。まるで“人情紙風船”みたいにそんな冷たいことを言うな」と叱られそう。

ここでようやく我が家の話になるが、現在使用している「PP5/400シングルアンプ」を振り返ってみると、恥ずかしながら「セカンド オピニオン」ならぬ、何と「Fifth オピニオン」、つまり延べ5人ほどに修繕を依頼した勘定になる。

    
                
もうこうなると「執念」としか言いようがないが、その一方では、「ドライな薄情者」と言われても仕方がない(笑)。

過去の4名の方々に対する忸怩(じくじ)たる思いは当然のことだが、前述のように日本有数と称される「アンプ ビルダー」さんだって結果的には盲点があったんだから、結局、得意分野との相性がマッチングしなかったとしかいいようがない。

真空管オーディオのポイントはどれだけ相性のいい「アンプ ビルダー」さんを探し出せるかにかかっていることを否定する人はまずいないと思うが、当方も命の次(?)ほどに大切なオーディオなので一生懸命なのである。

それにしてもアンプの音質が気に入らないとき、あるいはもっと「気に入った音」にしたいと思ったときに、製作者に義理立てして再度改造を依頼するか、あるいは、ためらうことなく別の「セカンド オピニオン」を利用するか、これはとても難しい問題だ。

「智に働けば角が立つ 情に掉(さお)させば流される 意地を通せば窮屈だ とかく人の世は住みにくい。」(「草枕」夏目漱石)

「智に働くか、情に掉さすか」、もしあなたならどうします?(笑)

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