「測る技術」(ナツメ社刊)、そして「ものをはかるしくみ」(新星出版社)と相次いで、「測る」という事柄に焦点を当てた著書に巡りあった。
「測る」作業は縁の下の力持ちのようなもので、日常ではあまり人の意識に登場することはないが「文明は測ることから始まった」という。
これは、はるか昔に住まいを建てたり農作物などを交換し始めた頃から発達してきた人間の知恵であり、現代の科学的計測技術も人類の永年にわたる叡智の結晶の一つ。
近年では、スーパーなどで包装されたパック販売がほとんどのため「測る」という作業を具体的に目にすることが減ってきたが、「測る」ことを抜きにして現代の文明は成り立たない。
それに「必要は発明の母」という言葉があるが、これまで測ることのできなかったものを測る方法が次々に考え出されている。
これは長さ、質量、密度、体積など全ての量にいえることで、化学、物理学、電気工学など様々な分野の研究を広げ、進歩の速さもさらに加速している。
おかげで最近では「人の心」を測ることさえ、少しずつではあるが現実のものとなりつつあるという。
心を読み取る鍵を握るのは、「人間の脳波」だそうだ。
脳には多くの神経細胞が存在し、細かな網のようなネットワークをつくりあげているのだが、脳が何らかの働きをすると、この神経細胞に電気信号が流れ、頭皮上に電位変化があらわれる。
これが「脳波」である。
人間がリラックスしているときに脳がα波を出すことはよく知られているが、脳波は人間の精神状態や喜怒哀楽といった感情によってある一定の変化を起こす。
こうした脳波の変化を類型化していくと、脳波から感情の変化がわかり、その人の心の変化でさえも読み取れるようになるという。
この、技術については、犯罪捜査やメンタルケアなどでの活用が期待されているようだが、使い方を間違えると、人の心の中に土足で踏み入る危険性を孕んでいる。
古来、人の心の奥底は解明できない深い闇の部分として、人類が限りなく繰り返してきたドラマや芸術の主要なテーマともなっており、いわば数値では計測できない最後のミステリー・ゾーンである。
たとえば「ブルータス、お前もか」といって殺されたシーザー、日本の戦国時代なんて部下が主君を裏切る話がごまんとある。
織田信長は本能寺で明智光秀に討たれたし、徳川家康の父だって部下から殺されている。天下分け目の「関が原の戦い」では小早川秀秋の寝返りが一因となって東軍の勝利となった。
また、次元はやや異なるが、自分の心の奥底を隠して「本音と建前」を使い分けることにしても、人とのコミュニケーションにおいて周囲との不必要な軋轢(あつれき)を避けるための高度な人間の知恵ともいえる。
この辺はコンピューターがいずれ人間の知性を凌駕できたとしても、最後まで及びそうもない分野だろう。
したがって、「人の心」はできるだけそっとしておきたい領域であり、あまり「進歩して欲しくない技術」なのだ(笑)。
脳波の計測器をつけて上司と部下が、あるいは男性と女性が会話をするなどということはあまり想像したくない光景である。
従来どおり、表情や素振り、声音などによって相手の心理を洞察するほうがずっと豊かな人間生活のように思えて仕方がない。
とはいえ、人の心を読み取るのが不得手で気の利かない自分がそんな偉そうなことを言う資格はさらさら無いのだが(笑)。
そういえばオーディオでも部屋の一定の聴取位置で周波数の測定ができる機器があるようで、もちろん参考にはなるが最後の決断の拠り所は長年聴き馴染んだ「耳」に頼るしかないと思っている。
最後に豆知識をひとつ。
☆ マラソンの「距離」「タイム」はどのように測るのか
まず距離の42.195kmの方は「自転車計測」が主流の計測方法になっている。
その方法は、検定を受けた3台のメーター付き自転車に「自転車計測員」という人が乗り、道路の縁石から一定の距離の場所を走っていく。
そして、この3台の計測結果の平均値を使用する。その誤差が、0.1%以内(つまり42m以内)であれば、公式のコースとして認められる。
次に、タイムだが靴にあらかじめ取り付けられた「チャンピオンチップ」というICタグによって行う。
これは500円硬貨大のプラスチックで作られている、重さ数グラムの小型発信器チップで、靴にチップを装着したランナーがカーペット状のアンテナを通過すると、アンテナから発射された電波によってチップのナンバーをすばやく読み取り、その瞬間の時間をコンピューターに記録する。
このシステムの登場によって、従来計測されていなかったスタートラインの通過時間や5キロメートル、10キロメートルなど各地点の通過タイム(スプリットタイム)、フィニッシュタイムが瞬時に計測されるようになった。
東京マラソンでは大会事務局から貸し出されたICタグを選手が靴につけて走ることで3万人のタイムが精確に計測されている。
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