出力管「2A3」(RCA:アメリカ製)を使った新しい真空管アンプが到着してからおよそ1か月が経過した。
非常にシンプルな回路のせいか色付けがなくスッキリした音で、それかといって無味乾燥の音でもなく独特の味わいがあって非常に重宝している。
「製作者(奈良のMさん)がうまいですね」と、オーディオ仲間のAさんのお墨付きを頂いているが、改めて感謝である。それに、パワーアンプにしては小さくて軽く、持ち重りがしないので設置場所のスペースも助かるし、移動させるのが苦にならないことも非常にありがたい。
今のところJBL3ウェイシステムのうち、周波数300~7000ヘルツあたりを担当している「375ドライバー」(16Ω)に使用しているがまったく不満なし。
とはいうものの、1か月も経つとそろそろ浮気の虫がぞろりと這い出てくるのがマニアのならい(笑)。軽くて動かしやすいので、それに拍車をかけてしまうのも皮肉。
ものは試しに「2A3」アンプの代わりに「PX25・1号機」を持ってきたら、どういう音がするんだろう?
このアンプの出力管「PX25」はヨーロッパの名三極管として定評があるものだし、出力トランスもデンマーク・オルトフォン社が採用した「JS」社のものなので、「375」にとってはまったく不足なし。いったん、考え出すともう止まらない。
交換作業は軽く10分ほどで終了。これで試聴してみると、音が奥の方に引っ込んで何やら佇まいが貴族風で品の良さが漂いだした。一聴しただけでクラシック向きだと分かった。たとえて言えばアメリカとヨーロッパが合体したような音かな。ウ~ン、これはこれで悪くない。大いに迷うところだがしばらくこのアンプで聴いてみるとするかな。
しかし2~3日聴いているうちに、どうも落ち着かなくなった。そこで、つい先日、「2A3」アンプでこのシステムを聴いてもらったばかりの大分組のお二人に、まだ記憶が新しいうちにご意見を伺ってみようかと、試聴の日程をお任せしていたところ10日(日)の午後に決定。今回はお二人に加えて、自宅で豪華なJBLシステムを楽しまれているNさんが新たにご参加。
我が家の試聴会の特徴は、システムが2つあり、それにアンプとSPユニットのいろんな組み合わせが出来るので、それらを比較したうえで、「ああでもない、こうでもない」と遠慮のない意見が出やすいことが挙げられる。
オーディオはシステムや機器同士の比較試聴をすることで音の特徴がより把握できることはたしかである。単独の固定したシステムでは、おそらく「いい音ですねえ」で終わってしまうのが相場だろう。
この日も、例によって歯に衣を着せない意見が続出。オーディオ・マニアは打たれ強くなければ「いい音」が手に入らない(笑)。
先ず、はじめに聴いてもらったJBL375とPX25・1号機の組み合わせの評価はまずまずだったが、これを先日の試聴のように改めて2A3アンプと組み合わせて聴いてもらったところ、こちらの方が圧倒的に大好評。
「音に躍動感が出てきました。JBLらしさを出すのならこのアンプが正解でしょう。両方ともお国柄(アメリカ)が一緒の効果が出てますよ。」と衆目の一致をみた。
ウ~ン、やっぱりそうか!
「JBLらしさ」といえば、「叩く音」であり、「弾(はじ)く音」であり、そして管楽器の「鳴りっぷり」かな。それにボーカル(人声)も悪くない。しかし、「擦(こす)る音」は明らかに苦手である。「擦る音」といえば、ヴァイオリンをはじめとした弦楽器群が対象となる。
今回はなまじJBLに弦楽器の響きを求めたばかりに、逆に折角の良さを殺してしまって、結局中途半端な結果に終わった気がしてならない。
たとえて言えば、受験生が不得意科目を克服しようと勉学に励んだものの、一方では得意科目が落ち込んでしまい、結局、総合点は以前と変わらなかったというケースが該当する。没個性的な平均点主義は無難だが趣味としては面白みに欠けるような気がするが、どうだろうか。
「角を矯(た)めて牛を殺す」という”ことわざ”がある。広辞苑によると「少しの欠点を直そうとして、その手段が度を過ぎ、かえって物事全体を駄目にしてしまう」という意味である。
どんなスピーカーだって大なり小なり欠点はあるものである。少々の欠点には目を瞑ってスピーカーの持ち味を最大限に生かすことが、あれこれ迷わなくて済む賢いやり方のような気がする。
言い古されたことだが、オーディオ・システムの主役はあくまでもスピーカーであり、他の機器はその盛り立て役に過ぎないと改めて気付かされたのが今回の試聴会だった。
これからアンプの交換は思慮深く慎重に取り掛かることにしよう。