暑苦しかった夏もようやく終盤に差し掛かったようで、朝晩、かなりの涼風が吹き抜けるようになった。
このまま「秋」へと、すんなり移行してくれれば言うことなしだが、そう簡単には問屋が卸さないことだろう。
とにかく体力不足を自認する自分にとって「夏」は鬼門で、日頃あれほど熱心だった音楽やオーディオにも根気が続かずやや”へばり”気味。
しかし、どうやらこれは自分だけのようで、このところ音信が途絶えて久しい杵築のMさんに連絡を入れてみたところ相変わらず音楽鑑賞に熱中されていて、「現在はショスタコに夢中だ」とのこと。
「ショスタコ」とは周知のとおりロシアの作曲家「ショスタコーヴィッチ」のことで、「ベートーヴェン以降ではマーラーと並んで最高の作曲家だねえ。交響曲4番、5番、8番が特にいいね。オーディオは程々にして早く音楽に専念したほうがいいよ」。
よくもまあ、この暑いときに”かた苦しい”クラシック音楽を鑑賞できるものだと感心するものの、自分は「芸術の秋」の到来を期して、現在は専ら読書にまい進。
それも難しい本はなるべく避けてミステリー中心。
ミステリーといえば昨日、千葉のメル友のSさん(「アキシオム80」を譲ってくれた方)から次のようなメールが届いた。
「家内が内田康夫の浅見光彦シリーズに嵌ってしまい、方々の図書館から借りまくって読み耽ってます。
あらすじを解説してくれるのはいいのですが、食事の後片付けをしないので自分がやってます。たしか○○さん〔自分のこと)も、お好きでしたね」と苦情〔?〕がらみの内容。
「そうでしょう。いずれの作品も他愛のないものですが一旦ハマルと、もうだめです。自分は100冊以上にもなる同シリーズを全て読破してます。読書好きの奥様によろしくお伝えください」とエールの交換。
まるで奥様の熱中振りが目に見えるようだが、最近は質の高いミステリーになかなか出会うことがないので仕方なく昔の「江戸川乱歩賞受賞作品」をひも解いている。
この「江戸川乱歩賞」というのは、ご承知のとおり推理作家を志す人たちの登竜門とされるもので、副賞の賞金1千万円というのも大きな魅力。
なにせ新人の作品ばかりなので作風は粗けずりだが、そこに込められた情熱には、ただただ引き込まれるばかり。
そう、「作家として身を立てよう」、「一攫千金」といったエネルギーに満ち溢れている。
たとえて言えば、甲子園の高校野球の「ひたむきさ」ともいえるもので、「勝っても負けても明日が約束されたプロ野球」の世界とはえらい違い。
こう自信を持っていえるのも、これまで乱歩賞受賞作をかなり読破しており、いずれもハズレのない作品ばかりだったから。
ざっと読んだ作品は次のとおり。
昭和40年 西村京太郎 「天使の傷痕」
〃 42年 海渡英祐 「伯林ー1888年」
〃 44年 森村誠一 「高層の死角」
〃 48年 小峰 元 「アルキメデスは手を汚さない」
〃 51年 伴野 朗 「50万年の死角」
〃 54年 高柳芳夫 「プラハからの道化たち」
〃 55年 井沢元彦 「猿丸幻視行」
〃 57年 中津文彦 「黄金流砂」
〃 58年 高橋克彦 「写楽殺人事件」
〃 60年 東野圭吾 「放課後」
〃 62年 石井敏弘 「風のターンロード」
〃 63年 坂本光一 「白色の残像」
平成 2年 鳥羽 亮 「剣の道殺人事件」
〃 5年 桐野夏生 「顔に降りかかる雨」
〃 6年 中嶋博行 「検察捜査」
〃 9年 野沢 尚 「破線のマリス」
〃 10年 池井戸 潤 「果つる底なき」
〃 11年 新野剛志 「八月のマルクス」
〃 13年 高野和明 「13階段」
〃 14年 三浦明博 「滅びのモノクローム」
〃 17年 薬丸 岳 「天使のナイフ」
〃 19年 曽根圭介 「沈底魚」
〃 20年 翔田 寛 「誘拐児」
〃 〃 末浦広海 「訣別の森」
この中から、個人的に特に好きな作品を挙げると「猿丸幻視行」「写楽殺人事件」「検察捜査」「果つる底なき」「13階段」「沈底魚」といったあたりが浮かんでくる。
また、読みながらこれら新人の「作家としての将来性」を占うのも楽しい。
本賞受賞後に新天地を切り拓いた作家として、ほんの一例を挙げれば西村京太郎、森村誠一、井沢元彦、高橋克彦、東野圭吾、桐野夏生などの錚々たるメンバーが上げられる。
余談になるが平成10年受賞の「池井戸 潤」氏〔慶応大学卒、銀行マン出身)はつい最近「下町ロケット」で念願の直木賞を受賞されたが、好きな作家なのでメデタシ、メデタシ。
この「下町ロケット」もこのブログで以前、取り上げたことがあるが受賞に恥じない傑作だった。
さて最近読んだのは昔の作品を2本づつ文庫本〔講談社)に収めたシリーズもの。
いずれも未読で次の6作品。
☆ 昭和38年 藤村正太 「孤独なアスファルト」
☆ 昭和39年 西東 登 「蟻の木の下で」
☆ 昭和45年 大谷羊太郎 「殺意の演奏」
☆ 昭和47年 和久 峻造 「仮面法廷」
☆ 昭和52年 梶 龍雄 「透明な季節」
☆ 〃 藤本 泉 「時をきざむ潮」
すべて30年以上も前の作品で、当時流行った社会派風ドラマのもと、人間の怨念とか動機を丹念に描くパターンで、まだ戦争の面影を色濃く引き摺った作品もあり、やや泥臭いところがあるが行間にほとばしる熱情は相変わらず。
二階の窓をすべて開放し、海からの爽やかな涼風の中での読書はエアコン要らずのもってこいの避暑だった。