「物事の本質は失敗事例に現れやすい」とはよく聞く話である。
数年前だったか、このブログでもいくつかオーディオの失敗事例を挙げたところ、読者からメールが届いて「どしどし失敗事例を紹介してください」。
そう言われてもねえ、年から年中失敗するわけにもいかないし~(笑)。
まあ、人間というのは他人の成功事例よりも失敗事例を喜ぶものと相場が決まっている。いや、悪い意味じゃなくてどうも失敗事例を聞いて「自分だけは同じ轍を踏むまい」と心がけるようなのである。
その一方、成功事例を聞いて自分もその通りにやろうとする人は少ないようだ。
なぜなら(成功事例の中では)多分に「運」に左右される要素も無視できないし、そもそも「人真似は嫌だ」という思いが強いのではなかろうか。
そのことを裏付ける例として、東大名誉教授の「畑村洋太郎」氏の「失敗学のすすめ」によると、講義中に学生たちが成功談にはあまり興味を示さないのに、失敗談となると途端に目を輝かせて熱心に聞きふけるという話が出てくる。
で、このたびの真空管アンプの改造の話だが、成功談に属するので「もういい加減にしてほしい」という読者が大半だろうが、わかっちゃいるけど止められない。もっと聞いてほしい(笑)。
この4月9日(土)に完成品を受け取ってから早くも1週間余りが経ったが、いつものように我が家独特の迷走が始まった。
現状にまったく不満はないが、もしかしてもっと良くなるかもしれない、あるいは違った面貌を見せてくれるかもしれないと期待しながら、ああでもない、こうでもないと弄り回すのである。
これが実に楽しい!(笑)
まったく真空管アンプならではの楽しみ方になるのだが、具体的に述べてみよう。
まずは前段管を「12AX7」から「12AY7」へと交換。増幅率(μ=ミュー)が前者はおよそ「100」で後者は「50」と、2倍前後違うが、逆に内部抵抗が低くなるというメリットもあるし実際に聴いてみなくちゃわからん。
また、出力管も「471B」(デフォレ)からより電流値が大きい「071」(ARCTURAS:ブルー管刻印)へと交換。
これで、やや音の重心が下がって音色の方も渋くなりぐっとクラシック向きに近づいた感じで、我が家ではこの方が相性が良さそうだ。
それにつけても、このアンプが来てから他のアンプにまったく心移りがせずますます魅力に嵌っていく感じだが、大概1週間ほどで飽きてくるのにこういう事例は非常に珍しい。
で、5日間ほどみっちり堪能したスピーカー「スーパー10」(ワーフェデール:口径25cm)を、久しぶりに「リチャード・アレン」に交換した。
「AXIOM80」や「スーパー10」に比べるとやや格落ちの感は拭えないがやはり「ブリティッシュ・サウンド」というDNAはきちんと引き継いでいて、何とか本領を発揮させたいという思いはずっと捨てきれなかった。
専門家が作ったこの箱にはもともと「LE8T」(JBL)が入っていたのだが、とうとううまく鳴らしきれないまま、この「ニューゴールデン8」に入れ替えた経緯がある。
箱の中はかなり複雑な構造になっており、吸音材として適量の「羽毛袋」を容れている。
で、このシンプルで素直な特性を持つ「071シングルアンプ」なら、うまく鳴らせそうだとの予感がしていたのだが、実際に聴いてみて腰を抜かさんばかりに驚いた。
いや、けっしてオーヴァーじゃなく~(笑)。
スピーカーはアンプ次第でこれほど豹変するのかという好事例!
低音域から高音域まで、周波数の谷間や山がいっさい感じられずにとてもバランスがいいし、しかも高音域の伸びが特に素晴らしくてこれなら「スーパーツィーター」の出番は不要だ。そういえば、このアンプが来てから「スーパーツィーター」の出番がめっきり減ってしまった。
音声信号に対する素早い反応、徒に音像が大きくならないなど口径20cmのユニットのシンプルな良さを堪能させてくれたが、家庭でクラシックを聴くのならこれで十分だと思わせるものがある。
むしろシステムが大型化し複雑化すればするほど、本来の音楽鑑賞から程遠くなる、これが現在の偽らざる心境である。
とはいえ、偉そうに言えるほどの資格は持ち合わせていないですけどね(笑)。
それにつけても、我が家のスピーカーはすべて「アルニコ・マグネット」のものばかりで、このユニットが唯一の「フェライト・マグネット」だが、これから認識を改めないと・・。
一時、置き場所に困って手放そうかと思ったこともあったが、とんでもないことでほんとうに粘って良かった~(笑)。