「ソニーからグレン・グールドの新装盤が発売されています。送りますので一度試聴してみてください。」と、オーディオ仲間のMさん(奈良)からメールが届いた。
言わずと知れたグールドの「モーツァルト・ピアノソナタ全集」(以下、新盤)である。そういえば、半年ほど前の週刊誌に「グールドの一人勝ち」という小見出しが踊っていた。
幾多の名ピアニストたちが時間の経過とともに次第に忘れられていく中、没後30年以上にもなるのにいまだに高い人気を誇っているピアニストのグレン・グールド。一流の演奏家たちがスランプに陥ったときは「ひたすらグールドの演奏に耳を傾ける」と書いてあったのを読んだ記憶がある。
バッハの「ゴールド・ベルク変奏曲」で衝撃的なデヴューをはたしてからその快進撃は留まることを知らなかったが、比較的短命で50歳前後で亡くなってしまった。しかし、周知のとおりスタジオ録音主義に徹していたので残された作品は数多いが、その中でも特に人気が高かったのがこのモーツァルトのピアノソナタ全集である。
「世界中のグールドファンの愛聴盤」とされており、自分もその例に漏れない。というかそれ以上の存在で、座右の盤としてもう何度聴いたか分からない。おそらくレコード盤なら擦り切れてしまっていることだろう。
手元にあるマリア・ジョアオ・ピリス、内田光子さん、クラウディオ・アラウ、ワルター・ギーゼキングなど、いずれも「歌心」たっぷりな名盤の中でも飛びぬけた存在である。独特のハミング交じりで、ただひたすら音楽の中に没入していく演奏はまるで麻薬のような吸引力を発揮する。しかも胸が切なくなるほどのロマンチック性があるのだからこたえられない。
この盤は10年以上も前に購入したもので、通常のCD盤は16ビット録音だが、20ビット並みの録音とされる「SBM」(スーパー・ビット・マッピング)だったので、飛びつくように購入した。ちなみに、それまで持っていた同じグールドのCD盤は知人に進呈した。
結局、今回の新盤は同じグールドが演奏したものとしては3度目となる改装盤になるわけだ。
前置きが長くなったがさっそく、この新盤と旧盤とを聴き比べてみると、これがまったく同じ演奏かと思うほどの違いがある。
一言でいうと「音の粒子の一粒づつが極めてきめ細やかで非常に滑らかに聴こえる。しかもレンジが随分広くなっているし、録音スタジオの空気感までが伝わってくるほどの静けさが漂っている。」
これは、素晴らしい!
いったい、ソニーはこの新盤の製作に当たってどこをどう変えたんだろうか?
それはともかく、これは絶対買わずばなるまいて。ヤレヤレ、また物入りになってしまった。トホホ。
Mさん、お願いですからこれ以上私にいろいろ”ちょっかい”を出さないでください(笑)。