たまたま図書館の新刊コーナーで目についたので借りてきたのがこの本。
初めて読む作家なので白紙の状態で読んでいくと、これがなかなか面白い。
ストーリーの舞台がかっての「満州国」というのも夢があって大いに興味が惹かれた。
まずは、ネットから読者の「レヴュー」を引用させてもらおう。
「大戦前夜の哈爾浜(ハルピン)にて。革新官僚・岸信介は秘書急死の真相究明を私立探偵・月寒に依頼。晩餐会で毒を盛られた可能性、再び起こる不審死、そして脅迫状に記された“三つの太陽”という謎の言葉。
捜査過程では当時の混沌とした情勢や満州国の闇がひしひしと伝わってくる。そしてラストで突き付けられる驚愕の犯行動機はまさにこの時代ならでは。派手さはないものの、見事な昭和史と本格ミステリの融合。伊吹先生、本当に30歳?!練達の筆致に脱帽…」
もう一つ。
「戦前の満州を舞台に、毒殺事件の真相を探偵が解明しようと奮闘する本格ミステリ。なのだが、この作品がユニークなのは、探偵に依頼する人物が後に総理大臣になる岸信介である事。設定が何とも凄い。
展開としては、探偵が事件の関係者に話を聞き、手掛かりを集め犯人を絞り混んでいくオーソドックスなミステリだが、陸軍大佐、軍人、憲兵などが相手なので、圧力や脅しが探偵に襲いかかり、一筋縄でいかないのが読んでいて面白かった。真相が論理的に解明されるのも良かった。著者は難しい漢字を多用しているが、それで異国の雰囲気も出ている。傑作。」
以上のとおりで特に異論もないが、「岸信介」やその部下だった「椎名悦三郎」が登場するのがなんともユニークだった。両者とも戦後の日本で活躍した政治家である。
「昔の指揮者は良かった」症候群ではないが、昔の政治家は現代のこじんまりとした印象に比べて、一括りにはできない茫洋としてスケールの大きな人物が多かったような気がする。
もちろん、これは一言一句のミスを捉えて暴き立てようとする世知辛いメディアのせいであってご本人の責任ではない。
昔は「貧乏人は麦飯を喰え」「中小企業の一つや二つは潰れても構わない」なんて放言があったが、現代で首相がそういうことを言ったらすぐに内閣が崩壊してしまう。
それはさておき、まずは「岸 信介」だが当時「満州の3スケ」と言われており、それは「岸信介」「鮎川義介」「松岡洋右(すけ)」の3人で、当時の広大な満州に一大帝国を築いてアメリカのような国にしようというのだから気宇壮大だ。
戦後になってからは「カミソリ岸」の異名をとって首相になり「日米安保条約」を締結したのは周知のとおり。
当時の満州国には軍人(東条英機)をはじめ官僚、政財界などにおける最高の人材が派遣されていたことが伺える。
そして「椎名悦三郎」だが、戦後の政界でも官房長官などの要職を務め総理の後継指名などで暗躍した政治家だが、モットーは「省事」だった。
ご本人曰く「余分なことを言ったりやったりすれば、面倒な場面を招くのにつながる。だから余分なことをしない「省事」の心が必要になるのさ、、、、重い地位へ就けばなおさらこの心が必要になってくるのだ」
「過ぎたるはなお及ばざるが如し」と相通じることがありますね。
オーディオも「省事」に徹して要らんことをしないのが一番だろうが、こればかりは・・(笑)。
最後に本題に戻って、肝心の読後感だが「展開力も十分あるし犯人の意外性も文句なしだが、ちょっと犯行の動機が弱い気がする」というのが正直なところ。
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