前回からの続きです。
「音と”ものづくり”歴史資料館”」で聴かせてもらったタンノイ・オートグラフが、どうしてこんなに「いい音」がするんだろうかと、つらつら考えてみると、素人なりに思いつく理由が2点ほど。
1 広い展示室の一角で鳴らしているので残響特性のバランスがいい
このシステムに相対したときに、聴取位置の後ろには広大なスペースが確保されている。周知のとおり音の速さは摂氏25度のときに、1秒当たり346.18mなので、周囲や後方の壁に当たった音は瞬時に戻ってきそうなものだが、それが展示室全体にうまい具合に拡散されているのだろうと推測した。やはり部屋のスペースは無視できない。
2 パワーアンプとスピーカーの相性がいい
駆動しているパワーアンプは古典管「UX-50」(以下、「50」)のシングル。
製作者のH崎先生によると、18歳のときから50とUX45(以下、「45」)の真空管に魅せられ、多くのアンプを作っていく中で、独自に考案した2電源方式の直結アンプ(原型はロフチン・ホワイト二段増幅)が功を奏したのではないかとのこと。
専門的なことには弱いが、初めて聴いた「UX50」の管球アンプの良さは十分頷けた。オーディオ仲間のAさんも同感だと頷かれていた。
「45」がうら若き乙女の魅力だとすると、「50」が”臈(ろう)たけた”貴婦人の魅力と称されているそうだが、「45」アンプといえば「瀬川冬樹」さん(故人:オーディオ評論家)が愛用されていて、これで「AXIOM80」を駆動されていたことを思い出す。
H崎先生の言によると、「45」の発展系として真空管「2A3」ができたが、「2A3」を聴いた連中は、満足できなくて再び「45」に戻ったというから、真空管の技術的な進歩とはいったいなんだろうと思うわけ。
名管のWE300Bもそうだが、真空管の世界では時代を遡って古い製品になればなるほど「いい音」がするのが不思議。通常の工業製品とはまったく異なる展開をみせている。
オーディオは端的に言えば「テクノロジー」と「感性」が対峙する世界だが、「感性」の優勢さを象徴する最たるものが「真空管」ではなかろうかと思いたくなる。
もう一つ、この「50」アンプには、右の画像の一番左側にある大きな整流管の効果も無視できないそうだ。型番をこっそり控えたので、オークションで見つけたらすぐに”買い”!
なお、この資料館は大学の「学長室」にお見えになったVIPたちにもご案内されており、中には気に入ってわざわざリピートされるお客さんもいるという。大学のイメージアップに随分役立っているようだ。
高校時代の同窓でこの資料館の管理人のU君は、いつでも好きなときに出かけて来てはこのオートグラフの音を自由に堪能しているというから実にうらやましいご身分である。癪に障るので、そのうち福岡に居る娘のところに泊りがけで居座り、この資料館に押しかけてときどき邪魔してやろうかなと思っている(笑)。
1階の展示室をひととおり見学し終えると、今度は6階の作業場へと移動した。ここはH崎先生が学生たちに手取り足取り真空管アンプの製作技術を教えている現場。
左の画像は全景、右はデジタル式の真空管測定器。そんじょ、そこらにはない機器でマニア垂涎の的だそうだ。我が家にも寿命を測定してもらいたい真空管が山ほどあるが、部外者の利用は無理だろうなあ!?
巡回中に巨大な真空管を見つけた。
普通の真空管と比較してみると、その大きさがお分かりいただけるだろう。H崎先生はいずれこの真空管を使ったアンプを製作される予定だという。何せ、真空管の足を差し込むソケットさえも自作されるというのだからお手の物だろう。その時は「是非試聴させてください」とAさんともども切にお願いしたが、たぶん爆発的な音圧でぶっ飛ばされるかもしれない(笑)。
それから同伴のAさんはH崎先生とのオーディオ話が随分弾んでいた。先生がドイツ留学中に手に入れられ大切に使っておられるレコード・プレイヤーの「デュアル1019」はAさんも持っておられるそうで比類ない名器だがカートリッジの差込口だけが唯一の弱点とかでマニア同士、口角泡を飛ばして”うんちく”を傾けるシーンが印象的だった。
最後に、次の訪問時にはH崎先生のご自宅で秘蔵のアンプによる試聴をさせていただくことを楽しみに、U君ともども見学のお礼を述べさせていただいて、資料館を15時頃に後にした。
帰途の車中でAさんがおっしゃるには「資料館が塵一つなくきちんと整頓されていましたね~。展示されている膨大な真空管や機器にも埃(ほこり)がいっさい積もっていません。50アンプをラックから引き出したときに、綿ゴミがいっさい無かったのにはビックリしました。実に行き届いた管理がされていて、Uさんは几帳面な方ですね。」
「そういえば、そうでしたね~。」U君の豪放磊落な人間に見えて、非常に繊細な一面を垣間見る思いがした。
それにひきかえ我が家のオーディオルームを顧みるとまったく赤面の至り!