若いときに読んだ本でも、人生経験を経て再度読むと新たな発見に出会う本がある。本好きの方にはきっと思い当たる節があるに違いない。
「人生に二度読む本」(講談社刊:2005.2.20)
城山三郎氏と平岩外四氏という稀代の読書家2名により、「あらすじ→対談→作者解説」のスタイルで12冊の名作を紹介した本である。
城山三郎氏:1927年生、直木賞受賞、「落日燃ゆ」「毎日が日曜日」など著書多数
平岩外四氏:1914年生、元経団連会長、国内外で活躍、蔵書3万冊以上
いずれも故人。
夏目漱石「こころ」、アーネスト・ヘミングウェイ「老人と海」、太宰治「人間失格」、フランツ・カフカ「変身」、中島敦「山月記・李陵」、ヘルマン・ヘッセ「車輪の下」、大岡昇平「野火」、ジェイムズ・ジョイス「ダブリンの市民」、ヴァージニア・ウルフ「ダロウェイ夫人」、リチャード・バック「かもめのジョナサン」、吉村昭「間宮林蔵」、シャーウッド・アンダーソン「ワインズバーグ・オハイオ」
とにかく、ご両名の豊かな人生経験、読書経験、博識に裏付けられた書評が実に面白く興味深かった。これは是非読んでみなければという気にさせられるから不思議だ。
たとえば、「老人と海」は若い頃に一度読んで放り出していたのだが、城山氏が「この年齢でしか書けない作品で感激して読んだ。棺桶に入れたい一冊」、平岩氏が「非常に完成度が高い素晴らしい小説」と絶賛されているので、いずれ読んでみたい。
また、ジョイスの「ダブリンの市民」に関係した番組がつい先日のテレビでも放映されていた。
期 日 2009年1月1日~2日 19時~20時54分
チャンネル BSハイビジョン「BS-i」
番 組 名 「一読永劫」~ベストセラー作家が選ぶ名作の風景~
一夜と二夜に分けての放映で読書好きにはたまらないほどゾクゾクしてくるような番組で売れっ子作家がお気に入り、あるいは衝撃を受けた作品の舞台となったゆかりの地を訪ねるというもの。
ちなみに、
第一夜 → ☆高樹のぶ子が上海へ(「上海游記」芥川龍之介作の舞台)
☆石田衣良が長崎の軍艦島へ(「コイン・ロッカー・ベイビーズ」村上龍)
☆佐伯泰英、スペインの闘牛場(「アポロンの島」小川国夫)※仮想
☆「あさのあつこ」が山形県鶴岡市へ(「蝉しぐれ」藤沢周平)
第二夜 → ☆桜庭一樹がアイルランドのダブリンへ
ジェイムズ・ジョイス「ダブリンの市民」
☆小林雅彦がニューヨークへ(「アメリカ」カフカ)
☆山本一力が浅草へ(「必殺仕掛人藤枝梅安」池波正太郎)
☆楡周平が北京の紫禁城へ(「蒼穹の昴」(浅田次郎)
故郷のダブリンを脱出したにもかかわらず終生ダブリンを題材にして作品を書き続けたジョイスの心理解剖とアイルランド人の文学愛好を髣髴とさせる内容で全体的にも非常に見ごたえのある番組だった。BS-i(106チャンネル)はこの番組に限らず「クラシック音楽の名店探訪」など興味のある番組を放映してくれるので民放の中ではダントツのお気に入り。
なお本書の内容に戻るが、後半に平岩さんの読書好きに因んでさりげないエピソードが紹介されている。
1980年代に日米間の貿易摩擦の折衝に伴い、平岩氏が財界代表としてアメリカ側との交渉の席でアメリカの販売努力が足りない例の一つとしてジョイスの「ユリシーズ」の原書をアメリカから取り寄せて読まれたことを披瀝したところ、「日本の財界人があの難解なユリシーズを原書で読んでいる」にびっくりしてしまって、それまでワアワア言っていたアメリカ側の出席者(経営者、政治家、官僚等)たちがシーンとなって黙り込んでしまったそうだ。(現場に居合わせた城山氏の言による)。
読書が少なくとも教養の一端を顕す万国共通の尺度という好例のようだが近年の政界、財界人で平岩さんみたいな読書好きの話はあまり聞かない。あまつさえ、「未曾有」「踏襲」「有無」とかの漢字を読み違える漫画好きの政治家がどこかにいるというがこれもご愛嬌かなあ~。