赤羽じゅんこの三日坊主日記

絵本と童話の本棚
日々のあれこれと、読んだ本のことなど書いていきます。

『セカイの空がみえるまち』  工藤純子

2016-10-06 06:25:21 | その他
今年一押しの作品だと思えるものと出会いました。
『セカイの空がみえるまち』講談社。社会派の青春小説です。

舞台は新大久保。ヘイトスピーチが聞こえるコリアタウン。
父の失踪のことで悩んでいる藤崎空良と自分の出生のことをなやんでいる翔。
そのふたりの視点で物語は交互に語られます。

視点が変わる物語は安易に感じてしまうのもありますが、これは成功。男女だからでしょうか、うまくからまっていきます。
出てくる登場人物はなにかしらの傷をかかえているけど、それを感じさせない強さをもっていて、カッコいい。とくに高杉翔は、おばさんでも「ほれてしまう」って思いました。きっと、工藤さんも恋しながら書いたんじゃないかな。

胸をうつセリフも、ちりばめられています。
「無責任な噂がいつのまにか真実のようになってしまうことってよくあるから。」
「真実なんてあってないようなものだ。それよりも、もっとたいせつなものがある。中略 憎しみにのみこまれたまま、生きていってほしくない」

あと、悲しみのパンのくだりもよかった。

でも、一番好きなのはやはりシーンでかかれているところ。
157ページから158ページ。
その時の翔が目に浮かびます。これは、ぜひ、買って読んでください。

実は、自分のことで、すごく傷つくことがあって、しばらく夜、目がさめる状態が続いていました。
けど、そのとき、この本を読んで、「わたしも強くなろう、憎まれても、憎む側にはならないでおこう」と思いました。まあ、憎まれる側にも、なりたくはないんだけどね。
とにかく、ふたりに感情移入して、救われた気持ちになったのは事実。
それというのも、この作品が憎しみとか悲しみとか疑いを超えたセカイを書こうとしてくれているから。
きっと、わたしのように感じる読者が、ほかにもいると思います。

工藤純子さんは、デビューからうまい作家。ピンポンもモーグルもパティシエも楽しい。
でも、それで満足しないでこのセカイを書き上げたことに、感動しました。

最後に
国分寺の池にサギがすみつきました。
  
キンモクセイの道、いつもの線路ぞいの散歩コースです。

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