厳しい自然環境の釧根台地で酪農を営みな
がら、大地のニオイを感じる作品を描いて
きた玉井裕志さんが、1980年代の作品集を
刊行した。
玉井裕志作品集刊行委員会 3400円(別海印刷)
作品は、1980年の「霜がれの季節」から
86年の「萌える大草原」まで、7作品が
掲載されている。
巻頭には、山田洋二監督から「玉井さん、
おめでとう」と一文がよせられた。
それもそのはずだ。
「萌える大草原」のなかの「映画の舞台」
を読むとよくわかる。(332ページ)
同時に、撮影現場での山田監督や倍賞さん
の人柄も、玉井さんの目に浮かぶような筆
致で伝わってくる。
冬には零下20度を下回る極寒の大地で、酪
農を営む農民たちの、苦難の人間像が押し
寄せてくる。
そして最終章に、
「年中、一日も休みもなく、血のにじむような努力と知恵で生産した牛乳・・・
農民の苦労というものを爪の先ほども知らない昔の悪代官のような役人たちは、ふたこと目には、採算が、あうの、あわないの、といってくる。酪農という仕事が・・・機械におしこんで押し出せば、なんぼでも大量生産が可能な職業とはわけがちがうのだ、といくらいっても、役人たちは納得しない。腹をこわしていないか、風邪ではないかと、まるで人間の赤ん坊を育てる時のように、気をつかわなければならない仔牛の育成や・・・」
今も80年代と比べて変わっていないのでは。
TPPや日欧EPAなどの強行採決を見れば
怒りを覚える。
この作品は、農民である玉井さんしか描けな
いものだと思った。行間から、牛舎の、草原
のニオイ、そして凍てつく大地の感触がつた
わってくる。
昔のブログでも玉井さんを少しとりあげた。
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