alternativeway

パリ、カフェ、子育て、サードプレイス、
新たな時代を感じるものなどに関して
徒然なるままに自分の想いを綴っています。

子育てとマインドフルネス 

2018年09月29日 | 女の生き方

10歳の息子と無理やりヨーロッパに行きなんとかかんとか
帰国してから、私を待ち受けていたのは過酷な鬱だった。
何が起こったのかはわからない。今回はどうにか
時差ボケもカバーして、仕事もそれなりにこなせそうだと思っていた。
そんな矢先に私の心は日増しに暗くなり、精神的な深い闇に
沈んでしまった。原因は今でもよくわからない。

帰国して息子の生意気さがひどくなったことや、夏休みの
宿題の残りの1つで大きな問題が生じたことや、
私自身が子連れの長旅を1人でやりくりし、しかも
待っていたのは想像を超えた巨額の支払いで途方にくれ、
ようは夏の終わりで様々なことに疲れ果てていたのだろう。
でもその鬱の期間は本当に辛く、生意気な子供にどう接していいのか
まったくわからず、10年間子育てをしてきて一番の危機だった。

我が子は全日本生意気選手権があったら即優勝しそうなほどに
口が達者で、生意気っぷりは本当にすごい。そんな状態に
てこずり、毎日激しいストレスにさらされていた私は
本当にどうすればいいのかわからなかった。
周りの人に相談すると、さすがにプロに聞いた方がいいのではという
意見もあり、児童相談所にも電話をかけた。
すると電話に出たおじさんはこういった。
「男の子ですか?生意気なのは仕方ありません。聞き流すしかないですよ。
まともにかまっていたら親が疲弊しますよ。それにいちいち怒っていたら
そのうち暴力沙汰に発展します」彼の言い方は「しょうがない 諦めなさい」
というトーンであり、確かに今にしてみれば正しかったようにも思うが
私としてはここまで深刻に悩んでいるのになんだこの人・・・という気持ちで
電話を切った。

では家族問題専門のカウンセラーの予約をとれば?と言われ、確かに
一度くらいいくか、と思うと「3週間後まで予約がいっぱいです。」
今まさに家庭も自分も崩壊しそうな時なのに3週間後なんて長すぎる!と
絶望的な気持ちで電話を切った。これまでは息子が生意気でひどいと
思っていたけれど、私の精神状態もまずいのではと気がつき始め、
抗鬱剤を買うべきか?とネットで調べたりもした。
そんなこんなでいろんなところに助けを求めてみたけれど、
結果としては「小学生の反抗?自立していいじゃないー」
「小学生?中学生になったらもっとひどいわよー これからが大変よ」
などが主流な反応で、結局のところひとつも「これだ」という答えは得られなかった。


そんな時、私を影で支えてくれたのがマンドフルネスの本だった。
旅の終わり、パリからロンドンの移動で疲れ、イライラがつのったロンドンで
ここにいるうちにマインドフルネスの本を買いたいと強く思って
出発直前の空港で1冊手に取った。マインドフルネスは日本の
女性にはあまり知られていないようで「宗教?」とか「ヨガ?」とか
言われるが、ロンドンやアメリカの書店にはかなり普通においてあり
(日本の書店のビジネス自己啓発本のコーナーでも以前目にした)
わりとメジャーなようだった。

実際私が買った”Mindfulness for busy people” には、ロンドンで
マインドフルネスという言葉をきかない日はないくらいで、この
20年くらいで科学的にも脳やマインド、感情や振る舞い、体の機能に
マインドフルネスが及ぼすよい影響が実証されているとかかれている。
イギリスでは党派を超えたマインドフルネスの議会グループが存在し、
教育やヘルスケア、仕事や犯罪抑止などにマインドフルネスを活かす
ことが検討されている。2017年にはイギリスの議員を対象にした8週間の
マインドフルネスコースも開催されたという。この本はビジネス書という
枠組みだが、政治の世界でも有効とされ、私が声を大にして言いたいのは
マインドフルネスは子育て中の母親にめちゃくちゃ役立つということだ。

この本を読み始めたのは帰りの飛行機の中で半信半疑、
うーんよくわからないと思っていたけど、自分が大変な目に
合う中で、これ以外にヒントになりそうなものがないので
200ページを読み進め、その間様々なプラクティスを実践していった。
それから1ヶ月、結局私は抗鬱剤も飲まなかったし、カウンセリングにも
通わなかった(予約がとれなかったから)、息子はそんなに
変わっていないかもしれないが、親子関係は激変した。
8月の末にはもうやめたいと思うほど辛かった母親業だけど
今では子供を見るたびにギュッとしたくなり、ずいぶん自分が
優しくなったように思う。もちろん生意気な口をきくときも
あるけれど、なんというか、それがどうでもよくなった。これはすごい!!

マインドフルネスを簡単に説明すると、これは瞑想でもなければ
お金のかかるワークショップでもないし、カウンセリングにいかないと
受けられないものでもない。一言で言うと「自分を顕微鏡のように
すること」というのが一番ピンときた。確かに本当にそうだと思う。
私たちのマインド、脳の仕組みには、考え、分析、判断する能力と
もうひとつ、普段あまり使われていない「知覚する能力」があるらしい。
マインドフルネスはその2つ目の能力をできるだけ使い、
1つ目のマインドの虜にならないことなのだ。1つ目のマインドというのは
「私はあれもこれもしないといけない、忙しい(けれどできない)」
「彼があんなことをするのは許せない(判断)」など、
社会的要請の中に自分や自分の判断を埋め込み、そこに同化していこうとする
努力に近い気がする。忙しいビジネスの世界で皆と同じように業績を上げ、
皆と同じように友人関係を円満につくり、皆と同じように幸せな家庭を築く。
それが成功。

でも実際の自分にはそれができなかったりもする。
昔はできたのに、あの人はできるのに、あの人が羨ましい、でも自分は・・・
そこで自分や他人を責めていくことでマインドが堂々巡りを始めていく。
子育て中の母親(特に男の子の親?)によくありそうな話でもある。
「どうしてうちの子は漢字をきれいに書けないんだろう?」
「どうして〜ちゃんはできるのにうちの子は・・・?」
それだけでなく、自分の時間や余裕もないので精神的に参ってくる。
「ゆっくりお風呂に入りたい(けどそんなの無理!)」
「たまには1人で優雅に何かをしてみたい(けどそんなの無理!!)」
「たまには大人の時間を過ごしたい、バーとか行ってみたい
(誰が子供の面倒みるの?バーに行くために子供預かれっていうの?)」
そういうわけで、母親にはいろんなストレスがたまってくる。
社会的にやらないといけないこと、本当はここまでさせなくても
いいのにとちょっと思っている自分、自分もゆとりがほしいけど
現実的にそんな時間がとれない自分、そしてキューっとなっていく。

私がこの本を読んで本当によかったのは自分は1人ではないと思ったことだ。
私にとってはロンドンで働いているビジネスマンなんて成功していて
かっこいいイメージくらいしかなかったけれど、この本には
カウンセリングにきて泣き出す銀行のお偉いさんや、3人子育てをしていて
自分の時間がもてずに泣きたい気持ちのお母さんの話、リストラされたら
家のローンを払えないんじゃないかと思うと仕事が手につかなくなる人の
話など、さまざまな実体験が載っており、なんだ、ロンドンの人たちも
私と同じように苦しんでるんだ・・・というのが本当に大きな支えになった。
(だから私と同じように苦しんでこのブログにたどり着いた人が
いるかもしれないと思ってあえて書いています)


マインドフルネスは、どういう状況であれ、目の前にある事実の他に
それを知覚している自分がいることを教えてくれる。
よく母親たちは言う。「どうして人の子だと怒らないのに
自分の子だとこんなに怒っちゃうんだろう?人の子だったら
あーやっちゃたね、で済ませるのにね。」
おそらくそこには自分の子どもに対する様々な価値判断が
頭の中にあるからだ。私にとって一番支えになったのは、
嫌な状況がでてきたときに、それを車の騒音や蜂が飛んでいると思え、という
ことだった。息子に生意気なことや傷つけられることを言われた時、
何かで非常に腹がたったとき、まずはとにかく呼吸をすること。
そして蜂が飛んでいると思うこと。蜂を追い返そうとしないこと、
ただ呼吸をして、蜂に神経を集中しないこと。”Let it go!”という言葉が
とても印象的で、何度自分の中でこの言葉を叫んだことだろう。
日本語では「気にしない、流せ」ということか・・・

はじめは大変だったけど、私は1週間息子に怒らないことを
続けられたら憧れのエーグルの長靴を買おうという目標をたて、
(子供のためと思うと続かないので)自分のために頑張った。はじめの3日くらいは
息子も何が起きたのかわからないようだったけど、そのうち彼はこう言った。
「ママつまんない、何も反応しないんだもん」(勝った!!)
子育てが行き詰まった時にバイブルのように読んでいる
フランスの”100 façon de se faire obéir” (子供に言うことを聞かせる100の方法)
にも、子供が親や先生をおちょくるのは、彼らを自分と同じ下のレベルに
引き摺り下ろしたいからであり、怒って感情的になったら彼らの勝ちで
彼らは「やーい 大人のくせに怒った〜!」と喜ぶという。
というかそれが目的で彼らは大人をおちょくっている。
だからゲームに応じてはならない、というのが鉄則らしい。
それをやられたら無視する、自分が場所を移動する、それをやるなら
もう何かはしない、と断言して実行するなど、フランスの教育本で
よく語られる「毅然とした態度」(日本の多くの母親に欠けているのはこれでは・・・)
でそれを実行するのが大切だ、と書いてある。
そして子供たちは次第に悟る。「ああこれはやっても無駄だ。効果ない。」
彼らは大人を試している。どこまでなら許されるかな?
どこまでならやってもいいかな?この限度は今日は伸びるだろうか?
彼らは毎日試している。子供たちはトランプ大統領以上に交渉が好きなのかもしれない。

そこで大人が取るべき態度は「そんなことには応じない。」

応じないことを貫くと、蜂と同じで次第に
どこかへ行ってそれがなくなってくるから面白い。
息子は反抗的なままかもしれないが、以前ほど
態度がひどくなくなった。1冊まるごと読み進め
もう一度読んでしっかり自分のものにしようとすればするほど
生活が楽になっていく。マインドにとらわれ、
「ああしなければ こうしなければ でもできない!」という
状況から、「ああ雨の音が綺麗だなあ・・」
「こんな花も咲いてたのか・・・」という
ゆったりと子育てしていたころの気持ちに戻る。
鬱真っ最中の時は嫌だと思っていた雨や雨の日の暗い室内さえも
自分の知覚を顕微鏡のようにすると雨の美しさに気付かされる。
そうこうするうち、次第に「自分が大問題だと思っていたもの」
が小さなものになり、「ま、別にいいんじゃない?」と思えてくる。

これは私がたまに語るカフェセラピーとおなじだと思う。
家庭や仕事の問題に悩み、カフェのカウンターで天気や
くだらないことについて話しているうちに元気になって
店を出る頃には「いってきまーす」という気分になれる。
それは問題を誰かが具体的に解決してくれたからではなく
問題のウエイトが自然と小さくなったからなのだ。
血は出ているままかもしれない。でも痛い痛い!!と
思っているからもっと痛くなる。血が出ていても自分の
隣に咲いているコスモスをあー綺麗だなあ、と思っていると
次第に血のことを忘れていける。

問題は実は自分が思っているほど大きな問題じゃないかもしれない。
インフォーマルパプリックライフやカフェでの出会いは
そんな経験を与えてくれるけど、マインドフルネスの実践は
日常的にそんな気持ちの切り替えをあたえてくれる。

マインドフルネス、ぜひ日本で子育てに悩む多くの女性に知ってほしい。

最新の画像もっと見る