alternativeway

パリ、カフェ、子育て、サードプレイス、
新たな時代を感じるものなどに関して
徒然なるままに自分の想いを綴っています。

一杯のお茶

2013年08月30日 | 私の人生

 たった一杯のお茶から 人生が変わることがある。
たった一軒のカフェから 人生が変わることがある。
そして街さえも が 変わって行くことがある。


 そういえば昔影山さんと話していたカフェに関するサイトの名前は
Un café という名なのだった。Un cafe? どうしてわざわざ Un がつく?
どんな意味だったのかなあ と ぼんやりと考えていた。


 私が昔とても好んで 最近また頭の中をまわってる
槙原敬之の「MILK」という歌の中には
行き詰まってしまったときに友人の家に行き
その友人に抱きしめてもらうような ちょっと背中を押してもらうような
そんなシーンが描かれている。「あたたかいミルクみたいだね」という
その歌詞から 私はずっと 彼がお茶をいれてくれたのかなと思ってたけれど
もしかすると そんなことは具体的には描かれていないのかもしれない。

 私が勝手に想像しながら歌っていると どうしたって
小さなアパートの一室で ミルクのようなお茶を出してくれる
心優しい友達 という絵が描かれるわけだけど
どうしてそう思うかといえば 私がそんな風にして
一杯のお茶で救われたことがあるからだろう。


 もう10年以上も前にパリに留学していた時
私はかなり辛かった。沢山の理由があるけど ひとつは行った学校だろう。
私のフランス語力もひどかった。今だってあの学校にまともに
ついていけるとは思えないのに フランス語が留学生の中で一番下手だった
私にも同じ課題は課され続けた。憧れのはずのパリ。図書館漬けの日々。
のしかかるプレッシャー。当時の私は本当に危うい線を漂っていた。


 もう駄目だ・・・そう思った時に
確か私は電話をかけた。同じ寮に住んでいる 唯一の日本人、こういちさんに。
こういちさんは私にはとても眩しい人だった。流暢なフランス語。
寮内での外国人やフランス人との楽しそうなやりとり。私は何もわからなかった。
その上彼はフランス語を大学で学んだ人なら一度は憧れるであろう
フランス政府の給費留学生という 日本でたった数人しかとれないという
留学枠を勝ち取った人なのだった。こういちさん・・・それでも彼は
威張ったようなところは何もない、本当に優しいひとだった。

 「すみません・・・ちょっと行ってもいいですか・・・」
彼は快く部屋のドアを開けてくれ 私のことを通してくれた。
私はもう死にそうな状況だということを彼に話した。
彼はお茶を入れてくれ、話を聴いて、こう言った。
「今のみきちゃんにはわからないかもしれないけれど・・・
僕もね、今のみきちゃんとおんなじことを考えたことがあるんだよ。」
え?このこういちさんが、、、私は目を疑った。
彼にもそんな辛い時期があったなんて信じられないことだった。
そうして当時27歳くらいだった彼は私にこう言った。
「だけどなんだかうらやましいなあ 今はそんなこと思わないから
まあ 若いってことだよね・・・大丈夫。時は過ぎるよ
どんなに辛い時だって その時間が来たら過ぎていくんだ」


 こういちさんがその時に 私を受け入れてくれたこと
私の話を聴くために 時間をとってくれたこと
そしてお茶をいれてくれた そのことを 今になっても覚えてる。
私はその時死にたい気持ちで一杯だった。でも彼は「ぼくもそうだった」と
お茶を飲みながら語ってくれた。ただそれだけのことがあり
私は死なずにすんでしまった。一杯のお茶を誰かが自分にいれてくれる
そして「話を聴くよ」という姿勢を見せてくれる
それだけで 救われる命があるわけだ。


 その後彼がどこで何をしているのかはわからない。
何度か手紙を書いた後 それが宛先不明で戻って来てから
私には行方がわからない。彼は私とお茶してくれた。ただそれだけのことだった。
一緒に近くのカフェのテラスでビールを飲んだ夜もある。あの幸せだったことといったら!
シュールレアリストがカフェでしていたという遊びを教えてくれたのも彼だった。
もしかすると こういちさんは 私にパリのカフェの使い方を手ほどきしてくれた人なのかもしれない。


 たった一杯のお茶やカフェ が 人生にあるということ
それがどれほど 人生に彩りを与えるか
そんな時間が どれほど記憶に残る時間か
そのころはまだわからなかった。誰かが注いでくれるお茶
誰かとともに過ごすカフェの時間 一杯の暖かい飲み物が
それまでの頑なな心をスゥッと溶かすことがある。 

 誰かにスッとお茶を出す そして何かが溶けていく
技巧に凝ったカフェもあるけど 一杯飲むとスゥッと涙が流れてしまう
そんなお茶と お茶の時間を提供できる そんな人になれたらいい。

お茶文化

2013年08月13日 | 私の人生

 あれ、なんだか頭が痛い
なんだかちょっと 気持ち悪い。


 どうして?特に何をしたという訳でもないのに?
いや 今朝の あの恐ろしくもわっとした空気のせいなのだろうか
保育園から駅までのほんの10分にも満たない間
私は恐ろしいくらいの汗を流した
それは気持ちの悪い朝だった。


 「すみません・・・なんだか頭ばがぼんやりしていて・・
もしかすると熱中症かもしれません・・・」


 普段は冷房の大嫌いな私のはずが
その日は設定温度を27度にしていても寒いとすら思わなかった。
熱中症の症状を検索すると あ ほとんど当てはまる。
これはまずい、、、 ほんのちょっとの外出で
いつも通りの外出で こうなることがあるものなんだ・・・。



 その日は職場で塩をもらったりやたらと水分をとってみたり
手持ちの頭痛薬に手を出して 夜にはなんとかおさまった。
熱中症・・・恐ろしい!!これはしっかり対策せねば。
そう思ったその3日後だろうか
私はまた馬鹿なことをやってしまう。


 昨日は恐ろしく暑かった。
30歳をとうにこえている 私はというと
今だに18切符なんぞを使って 静岡を越え
大学院時代に行ったことのある「お茶の郷」という
お茶の博物館を目指してた。静岡にもいろんな施設や
場所があるけど あそこは行く価値がある。
ちょっと遠くてもいってしまおう。
久々に時刻表を買い、切符を買って足をのばすことにした。


 以前に比べると少しは用意周到になった私は
何度もそこのサイトをチェックした。
昔はあったはずのバスの案内は書かれておらず
「駅からタクシーで約5分 徒歩30分」と書いてある。
はて、私は2回くらいそこに行ったことがあるように思うけど
30分もかかるのだろうか 本当にそんなことがあるのだろうか

 とりあえず駅に着いたら考えよう。
到着したのは2時半だった。猛暑まっただ中の日本。
目の前にはタクシーが扉を開けて待っている。そこにある表示はこうだ。
「お茶の郷まで830円」

 うーん830円、、、、これまで色々と節約したというのに
ここでタクシー5分でこの値段。帰りも乗ったら1660円になってしまう。
これは痛い。。。ほぼすぐにそこを通り抜け、私は歩くことにした。
まあ15分で着くだろう。仕方ない、この道をまっすぐいこう。


 それが全ての間違いだった。


 確かあの辺にあったような・・・このカーブを超えれば・・・
私はそう思ってた。田舎の道は甘くなかった。
一切影のない県道沿い。当たり前だけどこんな時間に
人っ子一人歩いていない。けれども歩き始めてしまった
もう立ち止まったらおしまいだ。どこにあるかはわからないけど
ひたすら歩を速めていくしかない。手元には塩と水。
ときおり水を飲みながら ひたすら坂道をあがってく。
このカーブを上がったら・・・え!まだ何一つない・・・


 しだいに汗が滝のように流れ始める。上着もズボンも
びしょぬれになってくる が ここで止まったらもっと
すごいことになってしまう。田崎真也さんだって19歳のころに
ブルゴーニュを一人で歩き回ったと書いてあったではないか。
でも彼はきっと30代ではこんなことはしなかっただろう。
目の前に見える茶畑にさっと目をやり 違う こんな光景じゃない
もっともっと上がらなければ・・・ 苦しい思い出がよみがえる。
18歳の時南仏に一人旅した時のようだ。あの時も道が
わからなかった。一人でファイトコールをしていたな。
18歳で18切符ならわかるけど 私何してるんだろう・・・


 後悔しようがしまいが坂の途中では止まれない。
止まってもなんの意味もない。よけい苦しくなるだけだ。
それでも最後少し影があったので止まって汗をふいてると
上の方から大粒の水滴がぼたっとこぼれた。え? 雨?
いや 私の汗だった。こんな汗、一体何年ぶりだろう・・・

 目の前を涼しそうに通り抜けて行く数々の車を見ながら
もう白旗をあげてヒッチハイクをお願いしようかとすら思ったけど
車の向こう側には「石畳」という文字があった。

 ・・・石畳。東海道石畳?どこにいく道なのだろう。
「石畳」の向こう側は明らかに山の斜面。よく見ると
「牧ノ原公園入り口」と書いてある。牧ノ原公園というのは
ずいぶん昔に連れて来てもらった夜景の素晴らしい公園なのでは・・・

 
 もういいや!と一か八かの賭けにでて 道を渡って
木の生い茂る怪しげな「石畳」に入ってく。うっすらとした
森の雰囲気。もう終わりかもしれない。でももういいや
これが旅かも そんなことを思いながら前へと進む。
石畳は意外と長く、きちんとした道になっており
それを抜けると あ!この四角い建物は! 目の前には「庭園」とある
どうやらたどり着いたらしい。なんとかして建物の中に入ると
時計は3時。やはり記述は正確で 徒歩30分。こりゃ無理だ。
あまりに全身びちょぬれで、本当にどうしたらいいのかわからない。
それでもお茶室に入りたいからちょっとはこぎれいにしないと・・・と
なんとか奮闘し ようやく念願のお茶の郷へとたどり着く。


 入館料を払ってお茶室に通されると そこには別世界が待っていた。
小堀遠州の石清水にあった住まいと茶室を再現したというそこは
数寄ものの世界。至る所に遠州流のこだわりがあり 本当に見応えがある。
以前は時間切れで入れなかったお茶室では 普段はお手前から見せてもらえるという。
今日はたてこんでるのですみません・・・といわれながらも 
さっぱりして美味しいお菓子とお抹茶をいただいていると
スゥーっと疲れがとれていく。先ほどまでの世界とこことは嘘のように違ってる。

 隣に私のように汗びっしょりの人がいたので尋ねてみると
彼は自転車でこの坂をあがってきたという!「地図では坂は見えませんからね」とのこと。
本当にその通り。私のグーグルマップには「3D表示」というのがあったけど
ちょっと斜めに地図を動かしたような感じで ここまで坂が険しいとは
全然あれではわからなかった。ほぼ山登りに近かった
(だからここまで来ると下の街全体が一望できるというわけだ)
「お抹茶を飲むと汗がスゥーとひいていきますね」という彼の言葉が
とても印象的だった。このご褒美のためならあの辛さ も
(もうしたいとは思わないけど)そう悪くないのかもしれない。


 小堀遠州のお茶室やら庭園はやたらと凝ったつくりになっていて
まるで桂離宮に来たようだ。そこでお茶も楽しめ、ど暑い中で涼を感じることもできる。
「お茶の郷」よりこちらのためにわざわざ来てもいいのではという場所だった。


 さて 本来の目的地「お茶の郷」ではいつか見た中国茶の茶館の再現や
いろんな国のお茶のある光景の再現、それから日本茶の歴史や牧ノ原の茶についての
説明などがあり お茶全体を楽しめた。まあ個人的には もっとそういう茶館なんかで
中国茶体験ができたり、実際に味わえたらいいのになあという思いがあったけど
いつかそんな 世界のお茶文化やカフェ文化をいちどきに味わえる場所が
つくれたら面白いのかも というアイデアが生まれて面白かった。


 帰り際 久しぶりに読む本に触発されながら 好きなことってなんだろう と考えた。
その本によれば 得意なことと好きなことは違うらしく、得意なことを仕事にするのではなく
好きなことを仕事にしないとあとで苦しむことになるらしい。
好きなこと というのは ワクワク、ドキドキ よりもっと静かなことで
人から評価されなくてもついやってしまうことらしい。


 うーん それって 写真?書くこと? でも好きだったらもっと日常にあるだろう。。。

 私の場合 それはお茶?

 私は人から「みきさんはいつもお茶してる」と言われることがある。
ほとんど皮肉なように「あなたってばお茶を飲んでから仕事をするのね」と
言われたことも何度もある(でも気にしない)
子供が生まれたばかりで何もできなかったとき 私にできた唯一の抵抗は
お茶を飲むことなのだった・・・。

 それくらい わたしにとって お茶の時間というのかかけがえのないものだ。
コーヒー?お茶?ハーブティ?別にそれはどれでもいい。
カフェ文化?そうかもしれない。でもお茶文化も 同じくらい気になるものだ。
じゃあ カフェ文化研究家から、世界のお茶文化研究に移るとか・・・

 そんなことを考えていた。お茶のある光景 お茶の時間が私は好きだ。
お茶するために生きているのかもしれない。一杯のお茶。
一杯のコーヒーがある時間。それとともにある幸せや豊かな時間。
コーヒーやカフェから もっと間口を広げて行こう。
そしてもっと 誰かにお茶をいれてあげるようになったらいい。
「お茶にしない?」「よかったらお茶でもどうですか?」
そんな時間が私は好きだ。もっと世界のお茶文化に親しめる
そんな場所がいつかつくれたらいいな。



  

フランスに行くなら

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