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2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>日本原子力文化振興財団による「国民洗脳マニュアル」

2011年07月18日 | 震災・原発事故
 日本原子力文化振興財団【注1】による原発推進のための「国民洗脳マニュアル」【注2】は、次のように大衆操作のコツを伝授する。

 「停電は困るが、原子力はいやだ、という虫のいいことをいっているのが大衆である」
 「『原子力はいらないが、停電は困る』という虫のいい人たちに、正面から原子力の安全性を説いて聞いてもらうのは難しい。ややオブラートに包んだ話し方なら聞きやすい」

 「原子力による電力が“すでに全電力の3分の1も賄っているなら、もう仕方ない”と大方は思うだろう」
 「サラリーマン層には“1/3は原子力”、これを訴えるのが最適」
 「電力会社や関連機関の広告に、必ず、“1/3は原子力”を入れる。小さくともどこかに入れる。いやでも頭に残っていく。広告のポイントはそれだ」

 「文化系の人は数字を見るとむやみに有難がる」

 「女性(主婦層)には、訴求点を絞り、信頼ある学者や文化人等が連呼方式で訴える方式をとる」
 「主婦の場合、自分の回りに原子力発電所がなければ、原子力発電を他人事としか受け取っていない。したがって、情報に対する興味が初めからない。興味がない人に注意を喚起する必要があるのか」
 「(主婦は)反対派の主張に共感しやすい」
 「チェルノブイリ事故によって、輸入食品の汚染が言われるようになり主婦層の不安が増大した」
 「環境、自然食品などエコロジーに関心の強い女性は、地域の消費センターのような所を頼りにしている」
 「そういったところのオピニオンリーダーを理解者側に取り込めたら、強い味方になる」
 「テレビの何々ショウといった番組で影響力の強い人がしゃべったのを聞いて、賛成になったり反対になったりする主婦もいる」
 「原子力に好意的な文化人を常に抱えていて、何かの時にコメンテーターとしてマスコミに推薦できるようにしておく」
 「コメンテーターにふさわしい人の名をマスコミが自然に覚えるよう、日頃から工夫する必要がある」

 「マスコミ関係者と個人的なつながりを深める努力が必要ではないか。接触をして、いろんな情報をさりげなく注入することが大事だ。マスコミ関係者は原子力の情報に疎い」
 「テレビディレクターなど製作現場の人間とロビー作りを考える(テレビ局を特定してもよい)。特定のテレビ局をシンパにするだけでも大きい意味がある」
 「人気キャスターをターゲットにした広報を考える。事件のない時でも、時折会合を持ち、原子力について話し合い、情報提供する」

 「繰り返し繰り返し広報が必要である。新聞記事も、読者は3日すれば忘れる。繰り返し書くことによって、刷り込み効果が出る」

 「誰が考えても、原子力は危険なものだ」
 「危険でも安全に注意して扱えば安全になる。青酸カリでも火でも、なんでも同じだ」

 【注1】「原子力への国民の理解増進に寄与するための様々な広報活動を展開」する組織(日本原子力文化振興財団事業報告書)。
 【注2】91年に日本原子力文化振興財団がまとめた「原子力PA方策の考え方」。PAは、パブリック・アプセプタンスの略。

 以上、記事「税金で『国民洗脳マニュアル』を作っていた 呆れてものが言えない『原発推進』行政」(「週刊現代」2011年7月30日号)に拠る。
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【震災】原発>勝俣恒久・東京電力会長らを刑事告発

2011年07月18日 | 震災・原発事故
 明石昇二郎および広瀬隆は、平成23年7月8日付けで、東京地方検察庁に対し、刑法第211条(業務上過失致死傷罪)の廉で勝俣恒久・東京電力会長ら32名を告発した。被告発者は、次のとおりだ。

1 東京電力等
(1)東京電力株式会社
 東京電力代表取締役会長 勝俣恒久
 同前代表取締役社長 清水正孝
 同前代表取締役副社長兼原子力・立地本部長 武藤栄
 同監査役/元東京大学総長 小宮山宏

(2)国(原子力安全委員会)
 原子力安全委員会委員長長 班目春樹
 原子力安全委員会委員長代理 久木田豊
 原子力安全委員会委員 久住静代
 同 小山田修
 同 代谷誠治
 前原子力安全委員会委員長/日本原子力研究開発機構理事長 鈴木篤之

(3)国(原子力安全・保安院)
 原子力安全・保安院院長 寺坂信昭

(4)国(原子力安全・保安院専門委員)
 総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会地震・津波、地質・地盤合同WG主査/東京大学地震研究所教授 纐纈一起
 同WG委員/東京工業大学名誉教授 衣笠善博(東京工業大学名誉教授)
 同WG委員/産業技術総合研究所活断層・地震研究センター長 岡村行信

(5)国(原子力委員会)
 原子力委員会委員長 近藤駿介

2 学者
(1)山下俊一
 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科長【注】/日本甲状腺学会理事長/福島県放射線健康リスク管理アドバイザー 山下俊一

(2)久住静代
 原子力安全委員会委員 久住静代

(3)国(文部科学省)
 文部科学大臣 高木義明
 文部科学省生涯学習政策局長 板東久美子
 文部科学省初等中等教育局長 山中伸一
 文部科学省科学技術・学術政策局長 合田隆史
 文部科学省スポーツ・青?年局長 布村幸彦

(4)国(原子力安全委員会)
 原子力安全委員会委員長 班目春樹
 原子力安全委員会委員長代理 久木田豊
 原子力安全委員会委員 小山田修
 同 代谷誠治

(5)放射線専門家
 広島大学原爆放射線医科学研究所長/福島県放射線健康リスク管理アドバイザー 神谷研二
 福井大学教授 寺沢秀一
 国際被ばく医療協会名誉会長 長瀧重信
 広島大学大学院教授 谷川攻一
 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科教授/福島県放射線健康リスク管理アドバイザー  高村昇
 (社)日本アイソトープ協会常務理事 佐々木康人

 【注】山下俊一は、7月15日付けで福島県立医科大学副学長に就任した。

 以上、「告発状(東電用)」及び「告発状(学者用)」に拠る。

   *

 欧州議会に設置されている「ヨーロッパ放射線リスク委員会(ECRR)」は、国際原子力機関(IAEA)と日本の公式データをもとに、福島県の近隣地域で今後発症すると予想されるガン患者の数を発表した。福島第一原発から100km圏内では、今後10年間に10万人以上がガンを発症する。100~200km圏内では、12万人以上となる(この圏内の住民人口が多いため)。ドイツのメルケル首相はこの報告書を読んで原発全廃に政策転換した、という。

 以上、田中龍作「【福島原発事故】 東電最高幹部、山下教授ら張本人32名を刑事告発~下~」(自由報道協会<ザ・ニュース>)に拠る。
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【震災】原発>あなたの食卓にセシウム汚染牛肉~ハラミとハンバーグ~

2011年07月17日 | 震災・原発事故
 事の発端は、7月8日に芝浦と場(東京都港区)で行われた放射線量調査だった。
 原発事故以来、厚労省の指導があるたびに5回、サンプリング調査をしてきた。これまで何の問題もなかった。今回も儀式的な調査だと思っていたら、突 然とんでもない数値が出て、慌てて東京都に報告した。【関係者】
 牛の出荷元は、福島県南相馬市の畜産農家。この農家が出荷した11頭すべてから、国の安全基準(500Bq/kg)を超える数値が検出され、最高値は実に基準の6倍以上、3,200Bq/kgに達した。
 実は、この農家から入荷した牛は、5月と6月、すでに6頭が市場に出回っていた。追跡調査により、その6頭の残った肉から1,998Bq~3,400Bqの高線量が検出された。
 ここから、上を下への大騒ぎとなった。

 2次販売店(卸売店)から仕入れる3次以降の業者にとって、汚染肉を客に売ってしまうのは、自力では避けようがない。
 この識別番号の牛を取り扱ったか、という保健所からの照会には、正直に申告するしかない。

 問題があるのは、人気メニューのハラミだ。勘違いしている人が多いが、ハラミは生肉ではなく内蔵(横隔膜周辺)だ。内蔵には生肉と違って個別の識別番号がない。飲食店に入ってくる段階では「国産」としか表記されない。だから、正確な産地はわからない。ハラミが福島産か否かを見分けることはできない。今回の汚染牛のハラミを含めた内臓は、今も流通し続けているはずだ。【荒川区の焼肉店主】

 国はICRP(国際放射線防護委員会)の基準に照らしても大丈夫、という言い方をずっとしてきた。だが、そもそもICRPという機関は、内部被曝の影響をどのように隠すか、という動機のもとに結成された団体だ。チェルノブイリ原発事故の際も、内部被曝の影響はない、と主張することに全力を挙げて取り組んできた団体だ。健康被害が憂慮されるのは、外部被曝より内部被曝。内部被曝は少量の放射性物質でも身体への影響力が大きい。遺伝子の変性が繰り返されると発ガンに至る。3,400Bq/kgは、ガンなど晩発性障害を考える上で、非常に高い数値と言わざるをえない。【矢ヶ崎克馬・琉球大学名誉教授】

 さらに問題なのは、今回の汚染牛肉は、間違いなく氷山の一角だ、ということだ。
 ニュースを見てもやっぱりな、と思うだけだ。原発事故以降20km圏内が立ち入り禁止になり、家畜が野良牛化した。その牛を集めて運び、解体してハンバーグなどの加工肉として売りさばいていた業者がいる【注】。業務用の加工肉になっちゃえば、産地なんて絶対にわからない。【大阪の焼肉店主】
 震災後、福島県の特に原発周辺は事実上の無法地帯になっていたわけで、何があっても驚くにあたらない、というのがこの店主の感想だ。
 原発の影響で飼料が届かなかったんだから、仕方ない。こっちは命がかかってんだ。あの農家への怒りはまったくない。仲間だし、同じ立場だから理解できる。追いつめられたら、俺だって同じことをしたかもしれない。【汚染牛を出荷した農家の近隣に住む農家】

 【注】「【震災】原発>事故後に20キロ圏内にいた牛の肉が関東に流れている」参照。

 以上、記事「ハラミとハンバーグに要注意 あなたの食卓にセシウム汚染牛肉」(「週刊現代」2011年7月30日号)に拠る。
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【読書余滴】なぜ民主党の公務員制度改革は頓挫したか?

2011年07月17日 | 社会
 内閣不信任案が否決されてから3週間、“菅降ろし政局”で政治空白が続いた。その間、大物政治家ぶりを見せつけたのは仙谷由人官房副長官だ。
 彼は頭がよく、度胸もある。しかも弁が立つ。霞が関で評判が高い。民主党議員の中では群を抜いている。しかし、一言でいえば「残念な人」だ。官房長官時代、陰の首相と呼ばれるほど実力を持ちながら、今回“菅降ろし”は失敗し、政治の混乱に拍車をかけた。
 彼は、行政刷新相就任当初、本気で公務員改革に取り組む意欲を見せた。が、3ヵ月で路線転換した。彼から見ると、当時の鳩山由起夫首相はあまりにも心細い。さらに、彼には真の改革派スタッフがいなかった。これでは財務省と正面からぶつかっても負け戦になる。そう考えて財務省と手を結んだ。その結果、公務員制度改革は骨抜きとなり、財務省は喜んだ。

 民主党の「政治主導」には、4つの大きな間違いがある。
 (1)政治主導というより“政治家主導”で、官僚を敵視した。
 (2)官僚を使いこなす能力に欠けた。
 (3)霞が関に協力者を造らなかった。大臣や政務官を支える実務スタッフがいなかった。
 (4)何をやりたいのか、が首相になかった。政治家は、ビジョンを示せなかったら、官僚の思うままに操られるだけだ。

 仙谷大臣(当時)は、3つ目までは理解し、修正していった。だから財務省と手を握った。しかし、その先が見えない。「やりたいこと」が見えない。権力を握った後どんな日本にしたいのか、という仙谷自身の哲学が伝わってこない。改革を実行するのか、しないのか。それが見えないままでは、結局官僚に取り込まれてしまうだけだ。

 11年1月、資源エネルギー庁長官が退任4ヵ月後東電に天下りしたことについて、枝野官房長官はこう言い放った。「経産省の秘書課長が東電に聞いたところ、役人による斡旋はなく企業が本人に直接要請したという。だから天下りの斡旋はなかった」
 泥棒の子分に親分の取り調べをさせているようなものだ。本気で公務員改革をしている、とは言えない。

 仙谷と枝野は、弁護士という共通項がある。その場の理屈の立て方はうまいが、後に辻褄が合わなくなっている。二人に限らず、民主党全体に言えることかもしれない。
 公務員制度改革を進め、行政のムダを省き、税金のムダ遣いをなくす、という民主党の方向性は支持されていたはずだ。しかし、今やそんな話は聞かれなくなり、消費税増税至上主義のムードが蔓延している。既得権グループと戦わず、官僚に骨抜きにされ、2人とも大増税の旗振り役を担ってしまった。

 自分の進退についていろいろ取りざたされているが、自分は霞が関の膿を出しきり「日本の中枢の崩壊」を食い止めるために発信してきたつもりだ。異なる意見を封殺して“お家安泰”を考える官僚がいるとすれば、本当に悲しいことだ。

 以上、記事「古賀茂明が明かす 官僚に骨抜きにされた仙谷・枝野」(「サンデー毎日」2011年7月10日号)に拠る。

    *

 古賀茂明は、08年に経産省から内閣の公務員改革事務局に出向し、公務員改革案に取り組んだ。09年末に更迭され、経産省に戻った。そんな中、論文を書いた。一本目は「消費税増税の前にまず国家公務員のリストラを」という趣旨。二本目は、民主党政府のまとめた天下り対策案がいかに改革に逆行するものかを指摘したもの。
 古賀としては、ごく真っ当なものだった。それが大反響を呼んだ。大変なものだった。経産省だけじゃない。霞が関全体を敵に回したみたいだ。「辞めてくれ」ということで、一度は去年の10月末で辞めることになったが、その直前に参議院の予算委員会に呼ばれた。
 古賀を一躍有名にした、仙谷官房長官(当時)の「恫喝」が飛び出した委員会だ。『日本中枢の崩壊』によると、古賀は委員会で民主党の公務員改革を批判する発言をした。仙谷、評していわく、「現時点での彼の職務(略)と関係のないこういう場に呼び出す、こういうやり方ははなはだ彼の生来を傷つけると思います・・・・優秀な人であるだけに大変残念に思います」。そんな発言をしていたら将来はないぞ、と。

 仙谷は、民主党政権発足後、行政刷新担当大臣に就任して、まさに公務員改革の旗振り役だった。古賀茂明を自分の補佐官にしようとしている、という噂は、古賀の耳にも届いていた。
 古賀は、仙谷という人を面白い人だと思った。喋るとすごく元気で、古賀がいろんな改革案を話したら、「そうだ、そうだ。何でもやれ」って感じだった。でも、本気で公務員改革をやろうとしたら、財務省をはじめ、すべての官僚組織と闘わないといけない。周りの人に、「民主党政権になったばかりなのに、いきなり官僚と大戦争するのは得策じゃない」と言われたのではないか。だから、ここで一人大騒ぎしたら潰される、と一旦改革を封印した。それに古賀は事務次官の廃止とか、財務省の予算編成権を内閣に移せとか、財務省を刺激する政策を唱えていたから、古賀を使うということは財務省を敵に回すことだった。仙谷も、古賀を公務員改革事務局から更迭するときは、たぶん申し訳ないなあと、涙を呑んだと思う。
 それがなぜ恫喝するまでになっちゃったのか。仙谷が何を考えたか、本人に聞かないと分からない。ただ、民主党政権は「政治主導」「脱官僚依存」を掲げて発足したが、仙谷は民主党には政治主導なんてできない、って分かってしまったのだろう。周りを見たら、自分以外の大臣がどうしようもない。そんな人たちに「政治主導だ、自分で考えてやろう」と言ったって大混乱するだけだから、官僚に手伝ってもらうしかない。だから、「官僚と仲良くしろ」と言い始めた。他の閣僚も「わかりました~」と。

 もちろん、行政は政治だけでは動かない。しかし、行政は官僚のものじゃない。優秀な政治家のもとで、官僚たちが国民のために働くシステムだ。古賀としては、まさにそれを実現するために公務員制度改革に携わってきたつもりだ。この数年、日本が危機に瀬しているというのに、官僚は霞が関の論理にとらわれ、省益のみに血道をあげている。そんな中で大震災に襲われ、このままでは日本は沈没してしまう。そういう強い危機感が古賀の原点だ。

 以上、古賀茂明&阿川佐和子「仙谷さんは、民主党には『政治主導』なんてできないって分かってしまったんだと思う。」(「週刊文春」2011年7月7日号)に拠る。
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【震災】原発>なぜ民主党はまともな仕事ができないか?

2011年07月16日 | 震災・原発事故
 現在の政治危機は、(1)政権交代によってあらわになった民主党の限界、(2)福島第一原発事故によって顕在化した経済・エネルギーの構造転換・・・・という2つの層から成っている。

 (1)は、民主党の方便政党という限界が政権交代によって露呈したということだ。
 自民党は、半世紀以上にわたって権力の分有を最大の存在意義としてきた。これに対し、民主党は非自民の政治家が小選挙区を生き残るための方便だった。自民党政権ではダメ、という否定形の命題を共有しさえすれば、みんな民主党で共存できた。この党は、政権交代という目標以上の綱領を必要としなかった(だから民主党には綱領がない)。それ以上の目標を設定すれば、党の結束が乱れ、政権交代という目標が遠ざかったのだから、綱領論議に踏みこまないのは賢明な現実主義だった。小沢一郎の下で作った政策綱領としての「マニフェスト」も、権力を奪取するための方便だった。
 野党であるうちは方便でもよかったが、国を担うとなれば実体的な政策理念を共有しなければならない。政権交代以降のさまざまな混迷、自壊の動きは、方便政党としての限界が、実際に権力を取ったことによって顕在化した結果だ。税制、社会保障制度、経済構造など、世論を二分するような問題について、民主党は内側で議論を積み上げ、結論を出す能力を持っていない。
 それをわかっていながら、菅首相は官僚に乗せられ、功を焦っている。

 (2)は、(1)が3・11によって待ったなしの課題として突きつけられた結果だ。原発事故は、政策決定における民主主義不在の結果だ。原発に限らず、多くの政策が「国民のため」という看板の下で、一部の官僚、専門家、業界によって、国民に代わって決定されてきた。あらゆる異議申し立ては封じこめられてきた。原発や軍事基地など大きな矛盾が、特定の地域に(つかみ金と引き替えに)押しつけられてきた。そのほかの国民は、安穏と生きてきた。福島第一原発のメルトダウンは、この構図の破綻を象徴している。
 この問題に対する答は、政府与党を声高に責め立てる自民党も持っていない。ほかならぬ自民党が、戦後半世紀をかけてこの構図を作った張本人だからだ。
 自民党の指導者がもっと賢ければ、原発政策について率先して自己批判し、身を清めた上で打開策を訴えるはずだ。しかし、そこまでの知恵も働かないようだ。

 2大政党が権力党と方便党の争いに終始し、まともな政策選択が問えない現状を打開するためには、原発解散も魅力的な突破口だ。
 しかし、それを空虚な政治ショーにしないために、首相の責任は極めて大きい。問題の構図を国民にわかりやすく説明したうえで、これから取るべき選択肢の方向性を示すことなしに解散するべきではない。何に阻まれて中途で挫折し、民意の応援を仰ぐのか・・・・捨て身の闘いをぎりぎりまで闘わなくて、何が解散だ。菅首相は、原発の再稼働に向けた新ルールを作成する考えを示したが、エネルギー政策に関するまじめな構想が見えてこない。

 以上、山口二郎「政権に就いてわかった『方便政党』の限界」(「週刊ダイヤモンド」2011年7月16日号)に拠る。

    *

 震災後まもない頃の官邸に対し、それ以前にも増して菅首相への批判が集中した。・・・・物事を何も決められない、○○本部や××会議ばかり作った、それを「政治主導」だと思いこんで経験ある官僚を使おうとしなかった。

 学生運動の闘士であり、市民運動家だった菅首相も枝野官房長官も、原発に対して明らかに懐疑派だ。こうした彼自身の出自をベースに考えると、その政治スタンスは反体制だから、原発自体あるいは原発推進派に対して批判的なスタンスをとってきた。
 ところが、体制側の経済産業省、文部科学省、原子力安全委員会、原子力安全・保安院などは、みな推進派だ。
 菅首相は、推進派に取り囲まれているので、そういった組織を活用しようにも、大きな制約があった。

 官僚たちは、正式な文書による指示がないと動かない。さもないと、後で何を言われるか、わからないからだ。
 その一方で、推進派は、事態を収束させた後のことを見据えた上で動いた。これまで築いてきた利権構造が壊されることに「ノー」という基本姿勢を示した。日本の原子力政策を後退させることは、彼らの権益が減少するから「ノー」だ。海外からの支援、「こうすればいい」という助言に反応が鈍かったのはそのためだ。米仏の知恵を借り、助けてもらうことに抵抗感があった。そんなことをしたら、日本の原子力行政の独立が脅かされる。政官業の利権トライアングルが破壊される・・・・と推進派は警戒し、「時期尚早」とか「もう少し考えましょう」と言って、決断を先に延ばした。
 他方、首相には、米国、特に米軍の手を借りることにアレルギーがあった。だから、いよいよ何も決められなくなった。

 以上、古賀茂明/須田慎一郎『日本が融けてゆく』(飛鳥新社、2011)第1章「この危機を招いたのは誰か」における須田発言に拠る。

    *

 浜岡原発の停止要請、ストレステスト、脱原発宣言・・・・重要なことを唐突に菅首相は発表している。
 「党内の意思の統一ができていない」「政権維持のための人気取り」「思いつきで記者会見をしている」などの批判の声が多く聞かれる。
 これについて、先日、テレビで古賀茂明氏が納得いく説明をしていた【注】。

 要するに、菅首相は東電(=原発推進派)を相手にオセロゲームをしているのだ。脱原発の菅首相が白、原発推進の東電が黒。オセロ盤の外にいる国民の多くは白=脱原発を応援しているが、選挙の時以外は盤面の外にいるので何もできない。盤面上に、電力会社、政治家、経産省の官僚、原子力関係の学者、経団連に属する大企業などがそれぞれの思惑で上がっている。
 菅首相にとって分が悪いことに、盤面上はほとんど黒一色だ。国が脱原発すると天下り先がなくなって老後設計が狂ってしまう官僚たち。東電の株主である保険会社。東電にお金を貸し付けている銀行。東電からの巨額の受注で潤うゼネコン。東電と政府からの莫大な研究費がなければ何もできない東大の原子力研究者。そしてとにかく菅首相から政権を奪いたい自民党員。オセロの「四隅」どころかすべての「辺」を黒に取られてしまっている状況だ。
 民主党員も、地元の有力者と経団連に突き上げられて、次々に黒=原発推進派に与し始めた。そのため、「保安院の経産省からの切り離し」、「東電の破綻処理」、「発送電の分離」などの重要案件について党内で合意を取ろうとしても、根回しの段階で原発推進派・東電擁護派に寄り切られてしまう。
 そこで、菅首相が最終手段として選択したのが、首相であるという地位を利用した「根回しなしの唐突な記者発表」だ。
 浜岡原発への停止要請が金曜日の19時という妙な時刻に発令されたのも、週明けにまでもちこむと原発推進派の根回しで発表できなくなってしまう、と予想されたからだ。
 記者会見の場で、盤面外の反原発の国民に向かって、「原発の再稼働にはストレステストが必要」、「原発なしでやっていける国を作る」などの国民の意思を反映した明確なメッセージを出し、既成事実化して原発推進派の先手を打とうという作戦だ。

 【注】「「東電批判したら経産省から圧力」渦中の古賀茂明氏『日本中枢を再生させる勉強会』講演テキスト起こし」参照。

 以上、中島聡「菅首相はなぜ色々と重要なことをとうとつに発表するのか?」(2011年7月14日 BLOGOS)に拠る。
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【震災】原発>東京電力の情報操作~公開ヒアリングのやらせ~

2011年07月15日 | 震災・原発事故
 電力会社は、昔から「やらせ」をやってきた。今回の九電やらせメールも、遺憾ながら、電力会社にはありふれたことだ【注】。
 電力会社が日常的に行っている情報操作を、このたび、やっとマスメディアがとりあげた、というだけのことにすぎない。
 例えば政府の公開ヒアリングで、電力会社はどんな工作をしているのか。東京電力の場合、その手口は次のようなものだ。

 原発の安全審査の前に、原発の立地となる自治体で、(1)第一次公開ヒアリング(経済産業省主催)と(2)第二次公開ヒアリング(原子力安全委員会主催)が開かれる。
 公開ヒアリングの前に、地元住民から質問を文書で集め、その中から意見陳述人(公開ヒアリングで質問する者)を選ぶ。東電の仕込みは、この段階から始まる。
 (1)の場合、原発推進派の住民から届く質問は少ない。しかも、原発の安全性より、国の交付金など地域振興に関する質問が多い。他方、反対派は技術的な質問が多い。
 東電社員が役所に出向くと、質問を見せてくれる。応募者が反対派かどうか、名前を見ればわかる。誰が反対派か、調査済みなのだ。反対派が多いとまずいので、地元にいる東電の渉外担当社員に電話して、推進派の応募を集めるよう指示する。
 陳述人に応募するための質問も、東電社員が作っていた。それも、漁業者、主婦、村議など職業別に、それぞれの立場から出そうな質問を考える。こうして作成した質問原稿を地元の渉外担当社員に送る。それを地元住民に依頼し、応募してもらう。こうして公開ヒアリングの陳述人の比率が、反対派と推進派で3対7くらいになるようにしていた。

 (2)は、住民からの質問に経産省が回答する。東電は一切介在できない(ことになっている)。
 ところが、実際には、東電が裏方作業をすべて丸抱えしていた。
 以下、柏崎刈羽原発6、7号機増設に係る第二次公開ヒアリング(90年6月3日、於新潟県県庁講堂)を例にとる。
 (a)原子力安全委員会事務局から、人員2人と2台のワープロを寄こせ、と東電に指示があった。陳述人の応募をワープロで清書せよ、云々。東芝製ではなく富士通のワープロで、という指示もあった。役所のワープロが富士通だからだ。東電の予算にはワープロの購入が組みこまれていないので、東電は取引のある印刷所に架空発注を行い、富士通のワープロを2台調達した。清書作業を引き受けた東電は、当然、どこの誰がどんな質問をしているか、すべて把握できた。
 (b)ここから(1)と同じ作業が開始される。反対派の質問数を把握すると、東電はそれを上回る推進者の応募を渉外担当社員に集めさせた。
 (c)さらに、通産省(現・経産省)の回答まで、東電があらかじめ用意した。通産省が使った千枚以上のスライドも東電が製作した。担当社員は、準備に2ヵ月かかった。・・・・検察官が被告に尋問と調書の作成を丸投げするようなものだ。
 (d)通産省と東電の馴れ合いはまだ続く。第二次公開ヒアリングで、反対派の陳述人が予定外の質問をした。すると、通産省の控え室にいた役人は、慌てて電話をとった。架電先は、同じ講堂内に潜んでいた(居てはならないはずの)東電社員の部屋だ。慌てる役人に、東電社員は答えた。「想定問答集の○○ページを見てください。スライドはナンバー××を出して説明してください」
 (e)傍聴者も東電が仕込んだ。事前に抽選で決められた傍聴者の名前を借り、東電の社員、家族、他の電力会社の社員が券を確保しておくのだ。
 (f)費用も肩代わりした。この公開ヒアリングには、会場の設営、警備、過激派対策のバリケード、看板など総額1億円を要した、という。その費用の大半は東電が負担した。設営を担当したのは小沢一郎・衆議院議員の妻の実家として知られる「福田組」だ。実費1億円のうち福田組が主催者(原子力安全委員会)に請求したのは800万円で、残りの9,200万円は東電が建設費とか地域振興費に紛れこませて肩代わりした。

 以上のように、公開ヒアリングは、陳述人の応募、議事の運び、人員、費用に至るまで東電が全面的に関与する「八百長」だった。
 だから、すべて電力会社の思惑どおりになる。公開ヒアリングは、いかにも民主的な手続きのように見えるが、主催者のシナリオから外れた質問が出れば、司会者が「時間の関係がありますから次の問題に移りましょう」と、うまく逸らす。結局、住民を無視した猿芝居にすぎない。【東電元社員】
 経産省や安全委員会にチェック能力がないことも、根本的な原因の一つだ。【桜田淳(技術評論家)】

 【注】「7月7日 『ヤラセメールは慣習だったしありふれた出来事だった』小出裕章(MBS)

 以上、記事「東京電力元社員が明かす『ペテン説明会』全手口!」(「週刊文春」2011年7月21日号)に拠る。
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【震災】原発>海洋汚染の拡大・・・・表層から海底へ、海のホットスポット、陸から海へ

2011年07月14日 | 震災・原発事故
(1)海の表層から海底へ
 5月上旬までは、水産庁のまとめによれば、基準値を超えた海産物は「海の表層に棲む魚」に限定されていた。
 しかし、放射性物質による水産物の汚染は、海底に広がっている。
 5月下旬、グリーンピースが発表したデータによれば、福島県の海から採取したエゾイソアイナメから、国の基準(500Bq/kg)の1.7倍、857Bqの放射性セシウムが見つかった。エゾイソアイナメは海底に棲む。マナマコ、カキ、コンブなど11種類14サンプルからの海洋生物からも国の基準を超す放射性物質が検出されている。
 6月、自治体が進める調査でも、海底に棲むタイプの魚介類から、基準値を超える放射性物質が次々に検出され始めた。福島県沖では、水深117~128mのところで採取したエゾイソアイナメのほか、水深42~63mで採取したアイナメからも基準を上回るセシウムが検出された。いずれも「底魚」だ。
 6月以降、底魚のイシガレイでも基準値超えが確認された。
 時間の経過とともに、食物連鎖でセシウムが移行しつつあるようだ。【石丸隆・東京海洋大学教授】
 福島県沖では、貝類にも魚と同様のことが起きている。これまでは波打ち際近くの岩場などに付着するムラサキイガイ(ムール貝)で汚染が目立っていたが、5月下旬以降、海底の砂に潜って暮らすホッキ貝で基準値を超す放射性セシウムの検出が続いた。

(2)海のホットスポット
 陸上と同じように、海底についても、汚染のホットスポットがパッチ状に形成される。一方では海底には流れが速く泥がたまりにくい場所があり、他方では泥とともに放射性物質が蓄積しやすい場所がある。後者がホットスポットになる可能性がある。海底の窪みなども同様に、汚染のホットスポットになる恐れが高い。【花輪公雄・東北大学大学院教授】
 文部科学省が海底の泥を定点観測するため設けた観測地点は、宮城県沖から千葉県沖にかけて計12地点だ。
 観測地点が少なすぎる。海底のホットスポットを明らかにするためには、観測の密度をもっと高めなければならない。【花輪教授】

(3)陸の汚染が海へ
 福島第一原発から汚染水が新たに放出されなくても、海の汚染がさらに起きる可能性がある。今回の原発事故では、大気を経由して土壌に広く放射性物質が降り注いだ。その放射性物質が、梅雨や台風に伴う大雨などで川に押し流され、海へと注ぐ恐れがある。特に放射性セシウムは、土の表面や浅い場所にとどまるから、雨によって川へ流されやすい。土壌の粒子とともに海へ流れこめば、沿岸の海底にたまり、新たな海産物汚染につながる可能性がある。セシウム137の半減期は30年だ。「見えない汚染」と闘うには、調査地点を増して汚染を少しでも「見える」ようにするしかない。【長尾誠也・金沢大学教授】
 海底の泥の中に堆積した放射性物質は、簡単には移動しない。海底の生物をエサにしている底魚については、今後さらに注意して見ていく必要がある。【石丸教授】

 以上、山本智之(朝日新聞科学医療グループ)「魚で進む『放射能濃縮』」(「AERA」2011年7月18日増大号)に拠る。
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【震災】原発>倒壊の危険にある4号機

2011年07月13日 | 震災・原発事故
 爆発で屋根が吹き飛んだ4号機の最上階に、今も白い蒸気が出続ける使用済み核燃料プールがある。1,535本の燃料集合体が入ったプールだ。これが倒壊する危険性がある。
 4号機の使用済み燃料プールには、震災前に使用中だった548体の燃料が入っている。倒壊したら、放射能汚染は一気に拡大する。

 4号機の建屋は、余震や台風で倒壊する危険性がある。建屋の4階から下は、火災と外壁の破壊で脆弱になっているのに、5階に異常な重量が負荷している。
 震災直前、炉心隔壁の交換作業を行っていた。作業のため、5階部分には、ガントリークレーンという門の形の大型釣り上げクレーンが搭載されている。これが50トン。また、工事のスペースを確保するため、20トンの乾燥器の上に、60トンの汽水分離器を積み重ねたままになっている。重量バランスは危険な状態だ。それに、切断した炉心隔壁(40トン)を5階に移動したため、原子炉内が空洞になっている。
 このような状態の建屋に耐震性はない。

 東電は、6月20日に5階の燃料プールを支える鉄骨を設置。7月末までに鉄骨支柱の間に充填剤を注入して、より負荷をなくす、と発表している。
 しかし、支柱といっても、工事現場の足場と同じ鋼材で、放射線で劣化しやすい。それに4号機内の放射線量が高く、作業は容易ではない。

 数年前から、福島第一原発では「耐震偽装」の噂があった。
 さらに、次のような実態がある。
 東電提供の映像に映る燃料プールの中は、きれいな部分だけ。燃料プールの隅には、空気中には出せない高線量の廃棄物、定期検査の除染に止揚した高線量のフィルター容器が沈められている。フィルターは大きいもので、直径650mmもあり、何年も放置されている。

 なぜ管理がずさんなのか。
 本来なら鉛でできたキャスクピットに廃棄物を入れて、クレーンで1階に下ろし、16輪の巨大トレーラーで原発敷地内の廃棄物処理施設に保管しなければならない。だが、原子炉が稼働中は危険なので、原則として移送できない。定期点検中に行うべきだが、コストがかかりすぎ、集中廃棄物処理施設の受入量も限界にきていて、実施できなかったのだ。

 以上、記事「福島原発汚染水浄化 最短でも5年かかる!」(「週刊文春」2011年7月14日号)に拠る。
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書評:『カイゴッチ38の心得 ~燃え尽きない介護生活のために~』

2011年07月13日 | 医療・保健・福祉・介護


 本書は、認知症の父親を介護して5年目に入った娘の、介護に関する生活と意見が綴られる。
 生活面をみれば、例えば、リハビリパンツ一丁で夏を過ごす親父のリハパンから何かの拍子にこぼれ落ちたらしいブツを発見して「トホホ、まるでフンコロガシだな」と慨嘆する。
 ちなみに、この体験から著者の介護ブログのタイトル「フンコロガシの詩」が生まれた。
 意見については、例えば、認知症が疑われる兆候として、菓子をやたらに買いこむ行動はかなり重要なサインだ、と著者は指摘する。甘いものが以前より好きになったり、大人買いするのがポイントで、最初に酸っぱいものがダメになり、甘さの味覚は最後まで残るらしい、と。

 300年以上続いた江戸っ子の末裔らしく、威勢のよい啖呵を切る語り口は独特だ。意見の整理のしかたは、もっと独特だ。これが本書を数多くの介護体験記から区別する。全38話の体験談そのものが介護にあたっての「心得」ないし「知恵」に満ちているのだが、特に欄外に「心得」ないし「知恵」の要点が掲げられ、しかも重要度が3段階でランク付けされている。
 構成も体系的で、38話は6つに大別される。
 (1)認知症~前段階~編 こんな症状が出たら要注意!
 (2)認知症~進行中~編 モンスター老人を相手に四苦八苦!
 (3)高齢者の身体の不調~トラブル続発~編 老化は病気とともに
 (4)介護者の知恵~心構え~編 距離を置きつつ冷静に対処
 (5)介護者の知恵~実践~編 備えあれば憂いなし、たとえ報われずとも・・・・
 (6)詐欺事件~高齢者をカモにする甘い罠~編 怪しい商取引には気をつけろ!
 38話は、さらに巻末で再構成される。介護人の「適正チェックシート40」がそれで、心の準備、ケアの方法、健康・病気、金銭、法律の5テーマについて各テーマごとにそれぞれ8項目、読者の介護者としての適性を問う。そして、テーマ毎に総評「傾向と対策」が述べられ、各項目ごとに関係する体験談/心得を参照することができる仕組みだ。

 「心得」ないし「知恵」は、著者がその体験から得た教訓を一般化したものだ。ここで憶測すれば、著者にとっては自分の体験を普遍化することで、精神の均衡を図ったのではないか。
 認知症に限らず介護する家族は、しばしば問題を独りで抱み、鬱に陥る。「知に還元不可能な生の不透明性」(サルトル)の闇に放りこまれて、身動きできなくなるのだ。
 しかし、深刻な事態、不条理だと感じざるをえない事態も、それを一般化することで耐えやすくなり、しのぎやすくなる。これは若い頃、たぶん作家として大成してからも、伊藤整が精神衛生上、採用した処世術だった。
 介護を担う家族は、肉親に対する介護を、公開できる(他の家族やプロの介護者と分担できる)「仕事」と割りきってテクニカルに進めたほうが長持ちすると思う。

 著者は、介護を担う家族をカイゴッチと呼んでいる。
 プロの介護者(介護保険法上の介護者)、つまりデイサービス/デイケアのスタッフや訪問介護員などは、一定の組織的な知識と技術をもち(さればこそ質が保たれる)、報酬を得て介護にあたるプロだ。そして、勤務時間外は(業務としての)介護から離れる。
 他方、カイゴッチは、通常、知識と技術は皆無か断片的で、無報酬、しかも24時間フル勤務体制だ。ショートステイなどを援用することで休息することはできるが、あくまで仮の休息にすぎない。事実、本書でも父親がショートステイ先で事件を起こし、著者が出動せざるをえない羽目になった。
 以上のようにプロの介護者とカイゴッチの相違は明らかだが、敢えて言えば、どうやら著者はカイゴッチのプロを志しているらしく見える。
 無報酬のプロ、対象が不特定多数ではなく自分の親族(ないし義理の親族)に限定されるプロ・・・・変なプロだが、先例がないわけではない。『障害者に迷惑な社会』(晶文社、1994)を書いた松兼功は、障害者のプロを自認している。カイゴッチにもプロがあってよい。
 実際、著者はよく調べ、よく勉強している。部分的には、プロの介護者より詳しいかもしれない。

 ただ、「認知障害」「思考障害」「観念失行」「観念運動失行」などの精神医学上の用語をいささか機械的に振りまわしすぎるきらいがある。日常的に介護するなかで臨床的な視点は十分に身についていると思うが、精神医学も一つの学問なのだ。「認知障害」を知るなら、学問体系の一部として知らなくてはならない。自分の父親の行動を理解するためならばそこまで求められないが、「心得」として不特定多数に精神医学的な「認知障害」その他を説く場合、慎重であるべきだ。
 また、当然ながら、まだ勉強する余地がある。例えば、「プルトップ型のフタならまだ自分で開けることができるので助かっているが、缶ひとつ開けるのも指先の力が萎えた高齢者にとっては相当難しいことなのではないかと思う」・・・・そのとおりだ。ただ、指先の力が衰えた高齢者でもプルトップ型のフタを比較的容易に開ける用具は廉価で入手できる。本書はしかし、バリアフリー用具まで言及していない。本書の主な主題は認知症だから、それはそれで差しつかえないけれども。

 カイゴッチの守備範囲は、江戸城より広大だ。「父娘のドタバタ介護生活はまだまだ続く」から、いずれ、さらに充実した改訂版が刊行されると思う。期待したい。

□藤野ともね『カイゴッチ38の心得 ~燃え尽きない介護生活のために~』(シンコーミュージック・エンタテイメント、2011)
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【震災】原発>電力会社のCMは禁止すべし

2011年07月12日 | 震災・原発事故


 東電を筆頭に、とにかく電力会社の力は強い。日本中のそれぞれの地域で君臨している。電力会社は、どの地域でも最大級の調達企業だ。東電に逆らえる人は、ほとんどいない。【古賀】

 マスコミもそうだ。テレビ局は、地震の後2週間ほど東電を批判しなかった。なぜなら、ものすごい量のCMをもらっていた。現場の記者が東電を批判しようとすると、プロデューサーが「お前、そんなことをやっていいのか」と露骨に言う局がある。電力会社の批判はタブーだった。さすがに、今回の放射能漏れで批判されるようになったが、そこには「もう金を出してくれないだろう」という下品な読みもある。少なくとも東電はお詫び広告しか出せない。補償交渉を進めている最中に、いくらなんでもコマーシャルはできない。そうなると、マスコミは手のひらを返したように批判する。もともと取材現場の連中は、東電批判をやりたかったわけだから。【須田】
 週刊誌に載っていた原子力推進の広告記事は、他の広告とは比べものにならない掲載料だった。大手出版社にとって、東電は大のお得意だった。果実、長く有力男性誌の編集長を務めた人が定年退職したのだが、慰労パーティの仕切りが東電だった。出欠の連絡先が東電の支店長だった。地震が起きて中止になったが、そこまできめ細かくマスコミ対策をしていた。原子力行政や東電がメディアに支出していたお金は相当な額だ。【須田】
 福島第一原発を津波が襲った時、勝俣恒久・東電会長は、中国にいた。大手マスコミ幹部を連れて旅行中だった。マスコミ幹部の旅費の大部分を東電が負担してたのは公然の秘密だ。東電のマスコミ接待旅行は、何十年も前から行われてきた。【須田】

 実は今、東電は表だって動けなくなっているが、それに代わって電気事業連合会が動いている。東電について批判的な報道をしたら、なぜか電事連が抗議してきた、という話もある。電事連は、事実上、東電に支配されているといってよい。東電以外の電力会社は、今も強大だ。関西のテレビ局に出演した友人は、出演前にプロデューサーから、発送電分離は言わないでくれ、と釘を刺された。東京のキー局でも、あるデスクがヒステリーを起こし、「電事連と闘うつもりか!」と叫んで、スタッフに呆れられた。【古賀】
 電力会社には競争がない。宣伝は必要ない。そんな金があるなら、世界一高い料金を下げるのだ。電力会社のCMや広告は禁止すべきだ。【古賀】

 電力会社は、表裏、両方に手厚く金を撒く。これはおおむね総務畑の担当になるが、汚れ仕事というより大事な仕事、電力会社の中枢というべきだ。経団連会長を務めた平岩外四・元東電社長は、総務部長経験者だ。【須田】
 電力会社には、「なんでもお金で解決する」という体質がある。【須田】

 政府の予算には、エネルギー対策特別会計がある。電力消費者から電気料金と一緒にとって、電力のために使っているので特別会計にしている。ただ、電気を使っていない人はほとんどいないから、実質的には全国民から徴収している。この特別会計が、発電所の立地している地域の振興費とか対策費に使われている。役所が予算案を作り、国会で議決されて決まるのだが、電力会社と経産省が、大物族議員も相談しながら使途を決めている。いりろな名目で配っているが、細かい実態はわかりにくく、国民には正確に伝わっていない。【古賀】
 そこに、いろいろな政治家が群がってくる。そういう資金源が減ると大変だから、政治家は電力会社を大切にしなくてはならない。つまり、原発に対して厳しい規制をすると電力会社が苦しくなり、政治家に回る資金も少なくなる、という構図だ。そういう意味で、政官財の利権トライアングルの典型的な例だ。【古賀】

 以上、古賀茂明/須田慎一郎『日本が融けてゆく』(飛鳥新社、2011)第1章「この危機を招いたのは誰か」に拠る。
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【震災】原発>汚染水浄化処理は最短でも5年

2011年07月11日 | 震災・原発事故
 漏水や作業ミスなどによる6回の運転停止を経て、7月2日、浄化処理した放射能汚染水の原子炉への循環注水が始まった。
 事故処理が前進したかのようだが、今の装置は、しばらくして使えなくなる。 

 全長4kmにわたる汚染浄化システムは、4社が分担する。油分離装置は東芝、放射性セシウム吸着がキュリオン(米国)、除染がアレバ(仏国)、淡水化が日立。
 このシステムでは、基本的な大前提がすべて抜け落ちている。
 まず、放射能は、除染しても消えるわけではない。全体の量は変わらない。放射性物質を集め、保管しなければならない。しかし、保管場所さえ決まっていない。
 さらに、集めた吸着物は高濃度になるので、被曝しないよう遮蔽した装置を作り、移送ルートも確保しなければならない。ところが、遠隔操作できる機械や遮蔽容器はまったく考慮されていない。まもなく装置は人間が近づけない状態になり、使えなくなる。梅雨や台風で汚染水が海や土壌に漏れ出すのは時間の問題だ。

 今の装置がたびたび停止するのは、ラインが一系統の単線のため、すぐ詰まってしまうからだ。キュリオン社がセシウム吸着に使う鉱物ゼオライトは、大学の研究者による実験では、日本製に比べて吸着量がかなり劣る。そのため、次のアレバの装置により重い負荷がかかる。そうなると、2社の間で責任のなすり合いに発展する可能性がある。この2社をコントロールできるヘッドがいない。本来、設計段階で詰めた話し合いを行っておくべきだった。
 アレバ社は、除染液を使っているというが、実態は放射性スラッジ(金属成分を含む汚泥)を溶かして“捕集”しやすくしているだけだ。当然、放射能が消えるわけではない。

 もとも日本の原発で化学除染を行っていたのは、シーメンス社(独国)だった。廃炉が進むドイツでは、化学除染技術が向上している。そのシーメンスの化学除染部門を買収したのがアレバ社だった。
 だが、今回、福島での除染に旧シーメンスの技術者は関与していない。 
 アレバ社には、使用済み燃料の再処理技術はあるが、高濃度汚染水の除去技術は疑問だ。

 現在、東電内部では、汚染水処理で生じる大量の放射性スラッジを“セメント固化”できないか、策を練っている。しかし、これは20年前に止めた方法だ。ドラム缶から漏洩があり、切断して調べて見ると固化がうまくできていなかった。
 では、どうすべきか。
 浄化システムのラインを一から作り直すべきだ。一本のラインですべてを行うからフィルターが詰まる。原子炉冷却用ラインから一部をバイパスし、2系統に分ける。分けた方で、集めた汚染物を移送できる装置を使い、浄化する。その浄化した水を最初のラインに戻す。ただ、こうした方法を確立しても、汚染水の量を考えれば、処理には最短で5年かかる。汚染物を集めた施設にも十分な遮蔽をしないと、放射線による外部被曝の危険性は今と変わらない。【事故処理に関与するベテランの技術幹部】

 以上、記事「福島原発汚染水浄化 最短でも5年かかる!」(「週刊文春」2011年7月14日号)に拠る。

   *

 東電は、自分たちの原発に米国人や仏国人が入ってくるなんて、とんでもない、と思っていた。原発にしても火力発電所にしても、東電だけの利権ではなく、政治家や日本の電機メーカーと一体となった共同利権だ。
 電機メーカーとしては、外国メーカーを排除し、国内メーカーだけで独占しておきたい。そういう利権構造になっている。最初は海外から技術導入し、ある段階から日本の機器で固める、というやり方をしている。そして、国内のメンバーで利益を分かち合う。そういう談合的な仕組みができあがっているから、やたら外国勢に入られると困る。
 だが、今回の事故でわかったが、やはり海外は進んでいる。例えば、一般的には汚染水浄化のための濾過膜の技術は日本が世界一で他の追随を許さない、と言われていたが、放射能を除去する技術は、米仏から「使わせてあげる」、「よろしく願います」という話になった。
 日本の企業は、個別の技術では優れていても、全体のシステムを作って動かすことが苦手だ。今回の汚染水除去でも、その弱点を衝かれて、仏アレバ社に大きな仕事をとられてしまった。

 以上、古賀茂明/須田慎一郎『日本が融けてゆく』(飛鳥新社、2011)第1章「この危機を招いたのは誰か」における古賀発言に拠る。
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【震災】原発>放射能の放射能の浸透 ~セメント・堆肥・住宅・家具・紙・自動車~

2011年07月10日 | 震災・原発事故
(1)がれき
 被災各地の災害廃棄物(がれき)量は、6月28日現在、岩手県が446万トン、宮城県が1,509万トン、福島県が228万トンだ(環境省推計)。 
 特に福島県のがれきは、原発事故による放射能汚染によって、処理が容易ではない。同県浪江町、双葉町など避難区域のがれきは手つかずのままで、その他の地域のがれきは県内134ヶ所の借り置き場に集められている(まだ県内のがれきの23%のみ)。福島市、郡山市、いわき市などを含む浜通り、中通り地方のがれきは、当分の間、借り置き場に集積し、処分しないことになった。
 その後、可燃物については、可能な範囲で焼却できることになったが、灰になると放射性物質は濃縮される。灰は焼却炉のフィルターで99.9%捕捉できるから外部に拡散しないが、その灰はどう処分するのか。【福島県一般廃棄物課】
 環境省は、6月23日、8,000Bq以下の灰は最終処分場での埋め立てを認め、8,000Bq超の灰は国が安全性を確認するまで放射線を遮蔽できる施設でドラム缶などで保管することが望ましい、と示した。
 一時保管の先については、方針が示されていない。だから、溜まる一方だ。【同前】
 環境省は、4月8日付けで、全国の自治体にがれきの広域処理への協力を求めた。5月11日時点で41都道府県522市町村が受け入れの以降を示した。が、例えば愛知県の場合、現段階で具体的なことは何も決まっていない。放射能を気にする県民の声に配慮する必要があるからだ。京都市では、受け入れ反対署名運動も起き、「安全性が確認できてから受け入れる」と市民に説明している。徳島市でも、まだ何も決まっていない。国にいろいろ条件を出して、検討している段階だ。
 放射能に汚染されたがれきは、県外に持ち出すべきではない。福島のがれきや汚泥を各地に移動させると、日本中に放射能をばらまくことになる。汚泥やがれきは、原発周辺に集約し、遮蔽し、汚染の拡散は避けるべきだ。【武田邦彦・中部大学教授】 

(2)下水処理場の汚泥焼却灰・浄水場の浄水発生土
 汚泥の汚染問題が明るみに出たのは、原発事故から1ヵ月半もたってからだ。5月1日、福島県が「県中浄化センター」(郡山市)から26,400Bqの放射性セシウムが検出された、と発表。これを皮切りに、関東地方の下水処理場でも次々に汚染が明らかになった。 
 下水処理場「前橋水質浄化センター」(群馬県前橋市)でも、5月20日、汚泥の焼却灰から42,800Bq/kgもの放射性セシウムが検出された。
 浄水場も汚染された。
 「北千葉広域水道企業団」(千葉県流山市)は、江戸川の水を浄水処理し、松戸市、柏市など7市と県営の水道施設に供給している。ここでは、河川の水を水道水にする過程で出てくる土砂や濁り(浄水発生土)が。300平米の建物いっぱいに、高さ3mほど積み上げられたままだ。原発事故直後水道水から検出された放射性ヨウ素は、3月26日以降は検出限界内に下がっている。だが、5月20日になって、浄水発生土から放射性ヨウ素と放射性セシウムが5,950Bq/kg検出されたのだ。
 問題は、この浄水発生土が毎日30トンのペースで積み上がるのに、処分の見とおしがまったく立っていないことだ。浄水発生土は、これまで半分はセメントの原料、残る半分は道路の埋め戻しに使う改良土として業者に処分費用を払って引き取ってもらっていた。だが、汚染が判明して以降は、引き取り手が見つからない。いくら基準【注】以下でも、業者は「売り物にならない」と引き取りを拒否している。
 東日本各地の下水処理場、浄水場で、汚泥や浄水発生土が行き場を無くしているのだ。

 【注】政府の原子力対策本部は、6月16日、放射能汚泥について次の基準を打ち出した。(a)放射性セシウムが8,000Bq以下の場合は防水対策をし、居住地や農地に使わなければ埋め立て処分できる。(b)8,000~100,000Bqの場合は、住民の年間放射線量が10μSv以下になるよう対策をとれば埋め立て処分できる。(c)100,000Bqを超えた場合、遮蔽できる施設で保管する。

(3)セメント
 下水汚泥の利用率は80%に近い。セメントの原料に40%、埋め立て用の土に22%、堆肥に14%・・・・。
 福島の「県中浄化センター」から出た1,400トンの汚染汚泥のうち、928トンは住友大阪セメント(東京都千代田区)がセメントに加工して建材会社などに出荷済みだ。
 関東地方の何処でどのように使われたか、把握していない。手元に残っていたセメントの汚染濃度は最高455Bqと国の指針(100Bq)を上回った。【住友大阪セメントの広報担当者】
 太平洋セメント(東京都港区)や日立セメント(茨城県日立市)も、福島県の汚染汚泥を使ったセメントを既に出荷している。

(4)堆肥
 福島の「県中浄化センター」から、300トンの汚泥が複数の堆肥会社へ出荷された。いずれも堆肥に加工され、倉庫で発酵中だ。19,000Bqを超えるものもあるが、3~4年の発酵期間が必要なので、まだ出荷されていない。ちなみに、6月下旬、国は200Bq以下の汚泥の堆肥への利用を認めた。
 バーク(樹皮)を混ぜた堆肥にも注意が必要だ。
 放射性物質は樹皮に多く溜まる。今後伐採される木から作られる堆肥は、汚染の恐れが出てくる。【野中昌法・新潟大学農学部教授】
 バークの汚染を想定した国の指針は、まだ無い。

(5)住宅用木材・木製家具類
 福島県は、杉、檜を主力に、木材の素材生産量は全国7位(2010年)だ。
 チェルノブイリ原発事故後、周辺の森林が放射能に強く汚染された。樹木が吸収したセシウムは、6~7割が樹皮に、残りのほとんどは葉や枝に溜まる。住宅用の木材や家具は、樹皮が削られており、基本的に問題はないはずだ。【野中教授】
 削られた樹皮は、「木材チップ」としてパルプの原料になる。
 09年、リトアニアからイタリアに輸出された「木質ペレット」から高濃度のセシウムが検出され、裁判所が回収命令を出した。
 木質ペレットは、木材の樹皮やカスを固めた二酸化炭素を出さない「エコ燃料」で、日本でも発電や暖房燃料として利用が拡大している。
 樹皮を使った製品には、念のため伐採場所を記すことも必要だ。【野中教授】

(6)被災自動車・廃家電・鉄製品
 震災で大量に発生したがれきの中には、健在としてリサイクルされ、マンションや戸建て住宅に生まれ変わるものもある。自動車、家電、道路標識などから発生する鉄スクラップだ。
 岩手、宮城、福島の3県の水没分を除いた鉄スクラップの回収量は97万トン。昨年1年分(94.5万トン)に匹敵する量が、3月11日だけで生じた。
 鉄スクラップは、スクラップ業者に引き取られ、裁断、圧縮される。製鉄会社がそれを溶かし、建材に再加工する。10月には工事に使われ始めるだろう。
 東北の製鉄会社は、津波被害で休業中のところが多く、東北以外へ流れる可能性もある。
 鉄スクラップは回りめぐって住居やマンションに使われるが、スクラップにされないで輸出される被災車両もある。6月29日、神奈川県の港で南アフリカ行きの船に積み込まれる予定だった中古自動車から、60μSvを超える数値が検出された。

(7)石けん・化粧品・シャンプー・リンス
 輸出は、当初は食品だけが敬遠されていたが、今では化粧品、石けん、シャンプー、リンスなど直接肌にふれる製品も敬遠されはじめた。

 以上、記事「忍び寄る放射能から家族を守れ!」(「週刊朝日」2011年7月15日号)に拠る。
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【震災】脱原発>自治体の試み

2011年07月09日 | 震災・原発事故
 特別区は、国のエネルギー政策を決める立場にはない。が、事故時、住民の避難について全責任を負う。ところが、今回のような原発事故に係るマニュアルがなかった。放射性物質が東京まで飛散する事態はあり得ない、という結論がまずあって、したがって避難の措置は考える必要はない、と国および都が決めていた。
 しかし、浜岡原発も柏崎刈羽原発も老朽化している。やはり、いざというときのマニュアルを作っておくべきだろう、と何が起こるかの総点検している。
 東京電力が推進している節電についても、変なからくりが存在しているような気がする。世田谷区では、節電に関して外部から幾つかの提案を受けて、スマートメーター(通信機能付き電力量計)を導入して取り組もうとしている。家庭の中に、使用中の電力を眼で見て確認できる端末を入れ、モニター家庭で電力使用状況の把握ができないか、という企画だ。
 つまり、賢く電力の供給のバランスを取ろう、という方法だ。結局、自家発電で提灯をつけている夏の盆踊りをやめたほうがいい、とか、今、節電についての議論は、まったく非論理な世界に突入している。

 一番電力が足りない時間帯だけ効率的に節約して、夜とか、余裕のあるときは安心して使ってもらうほうが、経済のためにも絶対いい。これは社会的にも反対のしようがない政策だと思う。
 そこで、世田谷区のリアルタイムの電力使用量がわかればいい、と考えた。東電が東電管内の供給限界と、昨日の使用量と、本日/現在の使用量というグラフを出している。その世田谷区版を開示してくれ、とお願いに行った。ところが、世田谷区に限定したデータは出せない、と回答があった。「23区のデータなら出せるが、前日のものだ、云々」
 3月に、何を根拠に計画停電したんだ、と言いたい。計画停電の範囲は、配電エリアごとに区切られていた。今回求めたデータは、杉並区と一緒になっていてもいいし、大体でいいので出してくれ、と言ったのに、この回答だ。結局、電力に関しては「みなさん、わからないままでいいです」ということだ。やっぱり停電は不安だから原発はしょうがない、という方向へ持っていこうという心理戦のようなことが行われている。
 東京電力は、電気のリアルは他に知られたくないわけだ。電力についての政策も、組織のありようも裸になってしまうから、なんとなく倫理と恐怖感に任せて節電させておくと。そうすれば自分たちの立場は安全だから。そこは企業秘密にしておきたい、というわけだ。 

 「電気がとまるぞ」と脅されてビクビクしながら、夜も真っ暗にして、イベントは全部自粛する、というふうにはしたくない。合理的に、効率的に節電すればいい。情報を開示してもらって、それをみんなでシェアして、能動的に市民・区民が消費電力をコントロールする。そういう方向にシフトしよう、という考えだ。
 自然エネルギーの推進に入る前に、ピーク時の需給をコントロールすることで電気は賄えることが証明できれば、これは非常に大きな成果になるんじゃないか。
 だから、東電にこれを求め続けるつもりだ。

 原発がなければ大停電になる・・・・原発が全電力の3分の1を賄っている、という言い方が原発支持の根拠になっている。しかし、それは他の発電所と調整している数字にすぎない。だから、節電のための情報開示を求めることで、その実態に迫っていきたい。これについてはしっかりデータを出してもらいたい。東電は、これを拒否する論理を展開できないだろう。

 以上、保阪展人(世田谷区長)「自民・東電・メディアが作った原発日本」(「SIGHT」2011年夏号)に拠る。
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【震災】原発>海江田辞意が示す日本中枢の崩壊

2011年07月09日 | 震災・原発事故
 海江田経産相は、経産省に乗っかっていくしかない、と考えて悪役を引き受け、玄海原発の地元に再稼働を要請した。それなのに、菅首相が突然はしごを外した。辞意を漏らしたのは、もうやっていけない、と考えたからだろう。首相と経産省の分裂で股裂きになった。

 菅首相は、気分としては脱原発、自然エネルギー派だ。でも、気分を実現する能力もスタッフもない。だから官僚に頼る。頼っている経産省は原発推進だから、支離滅裂に見える。

 経産省が原発に必死なのは、原発で官僚互助会システムを維持しているからだ。巨額の予算を使い、電力会社、関連会社、公益法人に多数の天下りを送りこんでいる。原発をやめるダメージは計り知れない。
 他方、原発から自然エネルギーへの移行プログラムも練っている。どっちにも動ける態勢を作っている。原発維持にこだわって、自然エネルギーの関連予算や団体を環境省に奪われたら大変だからだ。
 経産省も支離滅裂に見える。

 電力会社も同じだ。東京電力は、原発対応で混乱の極みだ。九州電力は、「やらせメール」の情報が、漏れるはずのない現場から漏れて右往左往だ。「電力村」の鉄の規律も揺らいでいるように見える。が、実はしたたかに立ち回っている。
 
 民主党議員は、首相と同様、気分だけは改革派という人が多い。テレビの前では威勢がよくても、この国難に対して、誰も判断も決断もできない。そもそも、誰がどう決めるか、の仕組みさえ見えない。
 民主党の政治主導は、震災前から破綻していた。政治主導の意味を取り違えて、官僚を排除しようとした。ところが、閣僚に政治主導の能力がなかった。それをサポートすべき有能で信頼できる自前のスタッフもいなかった。結局、守旧派官僚に頼るしかなかった。
 今の菅首相の状況は、それを如実に表している。

 首相も経産省も電力会社も機能不全だ。このままでは日本は再生できない。
 求められているのは、組織力だ。リーダーの決断を軸に、組織全体で問題にあたる態勢だ。気分や思いつきではなく、何が問題か、どう解決するのか、そのためには誰を使うか。早く考えて立て直さないと、取り返しのつかないことになる。 

 以上、古賀茂明「このままでは再生できぬ」(2011年7月9日付け朝日新聞 耕論欄「海江田辞意が示すもの」)に拠る。
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【震災】原発>自民・東電・メディアが作った原発日本

2011年07月08日 | 震災・原発事故
 保阪展人(世田谷区長)の原発問題への取り組みは、スリーマイル島の原発事故(79年3月)に始まった。当時、各地で原発の立地反対をめぐる市民運動が盛んだった。ちょうど81年に高知県窪川町で原発を建設しようとした町長がリコールされた。住民が原発を押し返した窪川町で、同年8月に喜納昌吉・前参議院議員(音楽家)たちと野外音楽フェス「生命の祭り」を開催した。翌82年には、むつ市で音楽イベント「下北半島祭」を開催した。20代半ばの頃だ。
 その後ジャーナリストを経て96年に国会議員になった(社民党)。原発問題にも関わった。

 07年、新潟中越沖地震の直後に、柏崎刈羽原発で火災が起きた。地震から3日目、社民党の調査団として柏崎刈羽原発に行った。田中三彦(原子力資料情報室)、海渡雄一(日弁連事務総長)、近藤正道(当時・参議院議員)たちがメンバーだった。現地に入って驚いた。原発敷地内に地割れや亀裂が入り、地震の爪痕がひどかったのだ。もう一つ驚いたのは、それを東電が瞬く間に砂で埋めたこと。
 「なんで埋めるのか」
 「先生方が転ぶといけないから」・・・・東電側は、そういう言い方をした。
 ただ、主な亀裂は一応埋めていたが、写真を撮影してみると、やはり土台が浮き上がっていた。建物の中に入ると、クレーンが折れていたり、燃料プールから汚染水が漏れていた。それを作業員が雑巾で拭き取っていた。4日後、もう一度行くと、今度は稼働していない原子炉の蓋が振動でズレていた。
 調査団は、帰途の新幹線のなかで手際よく、メディアが記事にしやすいように写真に説明を付ける作業をして、東京に戻ってから記者会見を開いた。必要な人には、撮影した写真をUSBメモリーでパソコンに入れてあげるサービスまでした。
 ところが、記事が載ったのは一部の新聞だけだった。写真もあまり出なくて、テレビではほとんど報道されなかった。これには非常に驚いた。ちょうど参議院選挙の最中だったが、争点にもならなかった。
 そして、いつの間にか、東電は「柏崎刈羽原発はこんなに復旧しています」というコマーシャルを湯水のように流していた。結局、気がついてみると、「柏崎刈羽原発の件は、原発が地震に強いということの証明になった」という逆さの話になってしまっていた。
 2回にわたる柏崎刈羽原発視察から出てきた膨大な疑問を箇条書きにして、東京電力の広報を通して回答を求めた。ところが、東電は出てこない。代わりに出てきたのが原子力安全・保安院だった。今回と同じで煮え切らない回答しかしない。東電に質問の回答について糺すと、「お答えしないことにしました」。結局、「答えない」というのが回答だった。
 ちなみに、質問を東電に持っていくと、裏口から入ってくれ、と言われた。今回の福島原発事故で、4月に2千万円の見舞金を拒否した浪江町の町長も、東電から裏口から入ってくれ、と言われて激怒した。
 国会での論戦も不発だった。共産党は一応賛成したが、自民党も民主党も知らん顔をしていた。まあ、それはやらないでおこう、と。電力会社は、政権党だった自民党を応援し、その組合ぐるみで民主党を応援している。それに、地方の連合会長は電力系が多い。結局、電力会社出身の議員だけではなく、連合の縛りのある議員は、基本的に原発の「げ」の字も言えない、という構造がある。
 保阪たちは、工業事業をチェックする会に原発部会を作ったが、東京電力は回答に来ないし、メディアはそれを取りあげない。国会もまったくやる気がない、という状況だった。
 社民党も、原発問題には一番熱心ではあったが、「脱原発」の主張はまったく評価されない。変人の集まり、という扱いを受けてきた。原発のことばかり聞いてくる、と。「そんなことを言ってるからダメなんどよ!」なんて、論理以前のことを言われて、もう、嘲笑だった。原発の危険性を指摘しただけで、議論から出ていってくれ、みたいな、そういう空気の社会だった。その構造は今も終わっていない。その土台は少しずつ崩れてきているが。
 柏崎刈羽原発は、福島の事故の予告編だった。
 3・11直後、官邸詰めの人たちを除けば、多くの国会議員はやることがない状態だった。特別委員会を設置して議論していけばよかった。柏崎刈羽原発の検証を含めて丁々発止をやればよかった。しかし、いまだにそういう議論はほんの単発的にしかされていない。今回の原発事故をめぐる議論も、非常に後味が悪い感じがする。社会構造自体が、根っこの根っこまで電力の金と権力に侵されている。
 社会党の原発政策は、推進と反対とで2本ある、と言われていた。考えがまとまっていなかった。民主党が、かつての日本社会党と同じ構造になっている。フランスでは、高速増殖炉をもう2つ廃炉にしている。ところが、民主党政権では、もんじゅは再稼働してしまった。真っ先に事業仕分けで仕分けられるべきところなのに、民主党は手をつけなかった。六ケ所再処理工場も、故障のレベルではなく、初歩的な設計の失敗だろうと言われいるが、計画はまだ続いているし、核燃サイクルも破綻しているのに、やめる、という決断ができない。ことが大きくて誰も止められない状況になっているのだと思う。プルサーマルとか核燃サイクルとかは止めて、その分のお金を再生可能エネルギーに使おうと言えば、国民の多くは納得すると思う。

 メディアについても、東電はあらゆるニュースを提供している。だから、柏崎刈羽原発で撮ってきた写真や映像がニュースで提供されないのもスポンサーとの関係で、なるほど、だ。 

 政治は動かない。メディアも大きな記事では扱わない。あとは司法しかない。
 だが、原発に反対する勢力は、ことごとく裁判で負けてきた。一審で地元側に有利な判決が出て、そのまま差し止めになったケースもある。でも、良心的な判決を出した裁判官は、二度と出世できない。最高裁事務総局の司法官僚が、次からは、ちゃんと判決をひっくり返すような裁判官をあてがう。だから、最高裁までいけば、100%地元側が負ける仕組みになっている。裁判官が自分で判断しているわけではなく、国がやっていることだから、ということが判決の根拠になっている。その国の実態は、経済産業省であり、東京電力や他の電力会社であり、それに群がる政治権力だ。その構造が、メディア、司法といった要所をおさえている。こういうものとして原発推進という国策が進んできた。 

 以上、保阪展人(世田谷区長)「自民・東電・メディアが作った原発日本」(「SIGHT」2011年夏号)に拠る。
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