語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>なぜ民主党はまともな仕事ができないか?

2011年07月16日 | 震災・原発事故
 現在の政治危機は、(1)政権交代によってあらわになった民主党の限界、(2)福島第一原発事故によって顕在化した経済・エネルギーの構造転換・・・・という2つの層から成っている。

 (1)は、民主党の方便政党という限界が政権交代によって露呈したということだ。
 自民党は、半世紀以上にわたって権力の分有を最大の存在意義としてきた。これに対し、民主党は非自民の政治家が小選挙区を生き残るための方便だった。自民党政権ではダメ、という否定形の命題を共有しさえすれば、みんな民主党で共存できた。この党は、政権交代という目標以上の綱領を必要としなかった(だから民主党には綱領がない)。それ以上の目標を設定すれば、党の結束が乱れ、政権交代という目標が遠ざかったのだから、綱領論議に踏みこまないのは賢明な現実主義だった。小沢一郎の下で作った政策綱領としての「マニフェスト」も、権力を奪取するための方便だった。
 野党であるうちは方便でもよかったが、国を担うとなれば実体的な政策理念を共有しなければならない。政権交代以降のさまざまな混迷、自壊の動きは、方便政党としての限界が、実際に権力を取ったことによって顕在化した結果だ。税制、社会保障制度、経済構造など、世論を二分するような問題について、民主党は内側で議論を積み上げ、結論を出す能力を持っていない。
 それをわかっていながら、菅首相は官僚に乗せられ、功を焦っている。

 (2)は、(1)が3・11によって待ったなしの課題として突きつけられた結果だ。原発事故は、政策決定における民主主義不在の結果だ。原発に限らず、多くの政策が「国民のため」という看板の下で、一部の官僚、専門家、業界によって、国民に代わって決定されてきた。あらゆる異議申し立ては封じこめられてきた。原発や軍事基地など大きな矛盾が、特定の地域に(つかみ金と引き替えに)押しつけられてきた。そのほかの国民は、安穏と生きてきた。福島第一原発のメルトダウンは、この構図の破綻を象徴している。
 この問題に対する答は、政府与党を声高に責め立てる自民党も持っていない。ほかならぬ自民党が、戦後半世紀をかけてこの構図を作った張本人だからだ。
 自民党の指導者がもっと賢ければ、原発政策について率先して自己批判し、身を清めた上で打開策を訴えるはずだ。しかし、そこまでの知恵も働かないようだ。

 2大政党が権力党と方便党の争いに終始し、まともな政策選択が問えない現状を打開するためには、原発解散も魅力的な突破口だ。
 しかし、それを空虚な政治ショーにしないために、首相の責任は極めて大きい。問題の構図を国民にわかりやすく説明したうえで、これから取るべき選択肢の方向性を示すことなしに解散するべきではない。何に阻まれて中途で挫折し、民意の応援を仰ぐのか・・・・捨て身の闘いをぎりぎりまで闘わなくて、何が解散だ。菅首相は、原発の再稼働に向けた新ルールを作成する考えを示したが、エネルギー政策に関するまじめな構想が見えてこない。

 以上、山口二郎「政権に就いてわかった『方便政党』の限界」(「週刊ダイヤモンド」2011年7月16日号)に拠る。

    *

 震災後まもない頃の官邸に対し、それ以前にも増して菅首相への批判が集中した。・・・・物事を何も決められない、○○本部や××会議ばかり作った、それを「政治主導」だと思いこんで経験ある官僚を使おうとしなかった。

 学生運動の闘士であり、市民運動家だった菅首相も枝野官房長官も、原発に対して明らかに懐疑派だ。こうした彼自身の出自をベースに考えると、その政治スタンスは反体制だから、原発自体あるいは原発推進派に対して批判的なスタンスをとってきた。
 ところが、体制側の経済産業省、文部科学省、原子力安全委員会、原子力安全・保安院などは、みな推進派だ。
 菅首相は、推進派に取り囲まれているので、そういった組織を活用しようにも、大きな制約があった。

 官僚たちは、正式な文書による指示がないと動かない。さもないと、後で何を言われるか、わからないからだ。
 その一方で、推進派は、事態を収束させた後のことを見据えた上で動いた。これまで築いてきた利権構造が壊されることに「ノー」という基本姿勢を示した。日本の原子力政策を後退させることは、彼らの権益が減少するから「ノー」だ。海外からの支援、「こうすればいい」という助言に反応が鈍かったのはそのためだ。米仏の知恵を借り、助けてもらうことに抵抗感があった。そんなことをしたら、日本の原子力行政の独立が脅かされる。政官業の利権トライアングルが破壊される・・・・と推進派は警戒し、「時期尚早」とか「もう少し考えましょう」と言って、決断を先に延ばした。
 他方、首相には、米国、特に米軍の手を借りることにアレルギーがあった。だから、いよいよ何も決められなくなった。

 以上、古賀茂明/須田慎一郎『日本が融けてゆく』(飛鳥新社、2011)第1章「この危機を招いたのは誰か」における須田発言に拠る。

    *

 浜岡原発の停止要請、ストレステスト、脱原発宣言・・・・重要なことを唐突に菅首相は発表している。
 「党内の意思の統一ができていない」「政権維持のための人気取り」「思いつきで記者会見をしている」などの批判の声が多く聞かれる。
 これについて、先日、テレビで古賀茂明氏が納得いく説明をしていた【注】。

 要するに、菅首相は東電(=原発推進派)を相手にオセロゲームをしているのだ。脱原発の菅首相が白、原発推進の東電が黒。オセロ盤の外にいる国民の多くは白=脱原発を応援しているが、選挙の時以外は盤面の外にいるので何もできない。盤面上に、電力会社、政治家、経産省の官僚、原子力関係の学者、経団連に属する大企業などがそれぞれの思惑で上がっている。
 菅首相にとって分が悪いことに、盤面上はほとんど黒一色だ。国が脱原発すると天下り先がなくなって老後設計が狂ってしまう官僚たち。東電の株主である保険会社。東電にお金を貸し付けている銀行。東電からの巨額の受注で潤うゼネコン。東電と政府からの莫大な研究費がなければ何もできない東大の原子力研究者。そしてとにかく菅首相から政権を奪いたい自民党員。オセロの「四隅」どころかすべての「辺」を黒に取られてしまっている状況だ。
 民主党員も、地元の有力者と経団連に突き上げられて、次々に黒=原発推進派に与し始めた。そのため、「保安院の経産省からの切り離し」、「東電の破綻処理」、「発送電の分離」などの重要案件について党内で合意を取ろうとしても、根回しの段階で原発推進派・東電擁護派に寄り切られてしまう。
 そこで、菅首相が最終手段として選択したのが、首相であるという地位を利用した「根回しなしの唐突な記者発表」だ。
 浜岡原発への停止要請が金曜日の19時という妙な時刻に発令されたのも、週明けにまでもちこむと原発推進派の根回しで発表できなくなってしまう、と予想されたからだ。
 記者会見の場で、盤面外の反原発の国民に向かって、「原発の再稼働にはストレステストが必要」、「原発なしでやっていける国を作る」などの国民の意思を反映した明確なメッセージを出し、既成事実化して原発推進派の先手を打とうという作戦だ。

 【注】「「東電批判したら経産省から圧力」渦中の古賀茂明氏『日本中枢を再生させる勉強会』講演テキスト起こし」参照。

 以上、中島聡「菅首相はなぜ色々と重要なことをとうとつに発表するのか?」(2011年7月14日 BLOGOS)に拠る。
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