語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【労働】搾取の19世紀へ回帰 ~「消費増税で福祉を」と「残業代ゼロ」~

2015年02月15日 | 社会
 (1)第三次安倍内閣初の国会は、名づけて「19世紀回帰国会」だ。
 消費増税の先送りを理由に、「社会保障の充実」の約束反故にした。他方で「残業代ゼロ」などの労働権剥奪法案が驀進し、工場法以前の社会へ踏み出す国会になる。

 (2)消費税8%への引き上げ(2014年度)と10%への引き上げ(2015年度)を決定した際、政府は「消費増税で福祉を」と宣言した。
 消費増税によって待機児童解消のための「子ども・子育て支援制度」が実施されるはずだった。しかし、消費増税の先送りによって、10%増税後に穴埋めする「つなぎ国債」で対応となった。

 (3)医療・介護となると、「つなぎ国債」による対応さえない。
 昨年11月18日、安倍首相は「引き上げを延期する以上、社会保障を充実させるスケジュールも見直しが必要」だと開き直った。経団連も、11月17日、高齢者向けから少子化対策へ予算配分の見直しを求める提言を行った。
 福祉は消費増税分を超えるな、ということだ。

 (4)ここに、巧妙なすり替えがある。
 「消費増税を福祉に」なら、消費増税分を福祉にあてた上で、軍事費などを削ってでも公約を実現しなければならない。
 ところが、「消費増税で福祉を」では、福祉は消費税でまかなうもの、となる。
 2字違いで、消費税が足りなければ福祉はできなくても仕方ない、ということになる。
 政府の意図は、「消費増税」であって、「消費増税を」ではない。
 これで、福祉の費用は低所得者・貧困者を含む一般の消費者から調達すべきものとなり、生活困窮者が増えれば一般人からの拠出が増えるだけとなる。
 財界は高みの見物だ。生活保護叩きは一段と激しくなるだろう。

 (5)いま、国会で安倍政権が力を入れているのが、「新たな労働時間制度」と称する残業代ゼロ制度だ。
 「時間ではなく成果による評価なら、成果を上げた人は早く帰宅できる。だから1日8時間労働にとらわれない制度を」という理屈が大手メディアを通じて流されている。
 だが、成果による仕事の評価は、すでに実施されている。働き手が長時間働くのは、人員削減で一人当たりの仕事量が大幅に増えているからだ。労働組合の弱体化で会社に迎合する真理が強まっているし。
 いずれも、労働基準法の有無に無関係だ。

 (6)そもそも1日8時間を超えて働かせたらペナルティ(残業代)が発生する仕組みは、働き手が勝ち取った基本的な権利だ。長時間労働で過労死が続発した19世紀の工場労働の過酷な体験が底にある。
 残業代ゼロ制度は、労働者の基本的権利の剥奪だ。

 (7)企業と富裕層を福祉負担から外し、長時間労働を合法化する。
 これは労働者を搾取した19世紀の再来だ。
 19世紀への回帰をめざす大きな流れの最初に一歩に私たちは立ち会っている。

 (8)鎌倉時代、北条政子は「朝敵」呼ばわりを恐れて天皇との闘いに尻込みする武士団に、
 「武士が奴隷のように貴族に追い使われていた時代のことを忘れたか」
と叱咤激励した。
 21世紀の私たちは、19世紀の過酷な労働、過労死が続発した長時間労働を忘れたか。

□竹信三恵子「「消費増税で福祉を」と「残業代ゼロ」 二つが示唆する搾取の19世紀への回帰 ~竹信三恵子の経済私考~」(「週刊金曜日」2015年1月30日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【古賀茂明】「戦争実現国会... | トップ | 【ピケティ】討論会「格差・... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

社会」カテゴリの最新記事