語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『60億人の地球家族』

2010年12月10日 | 社会
 世界各国の子どもたち37ケースが5つのテーマの下に紹介される。テーマは、貧困、戦争、家族、挑戦、夢である。
 第1章「貧困」では、航空機の車輪格納庫に密航をくわだてて凍死した14歳と15歳の少年二人(ギアナ)から、町工場で11時間働いて家計を助ける12歳の少年(イラン)まで。
 第2章「戦争」では、スマトラ島北端のアチェ特別州でゲリラ活動に挺身する14歳の少女(インドネシア)から、1999年10月、世界で60億人目に生まれた赤ちゃんオグニェン(セルビア)まで。
 第3章「家族」では・・・・いや、列挙するときりがない。世界人口の3分の1は子どもなのだから。たまたまこの本に登場することになった少年少女は、浜の真砂の一粒にすぎない。とはいえ、彼または彼女は特殊な例ではない。その置かれている立場を同じくする子どもも、浜の真砂ほどいる。
 たとえば先に引いたギアナの少年の一人ヤギンに即して言えば、食事をとらない日もある極貧生活は、ギアナの子どもたち、さらに国境を越えた他の国にも見出すことができる。
 インドの首都デリーで働く40万人の子どももそうだ。その多くは虐待や貧困などの理由で路上生活を送るにいたった。くず拾いで一日40ルピー(約96円)を稼ぎ、餓えをしのぐ。
 幸い、デリーでは支援組織がある。1991年に設立された子ども労働組合がそれで、組合員のうちには貯金して通信教育を受けようとする子どももいる。
 ギアナの少年ヤギンにも向学心があった。中学校の成績は良好、密航も欧州で学ぶのが目的だったらしい。フランスには、ヤギンの生別した母が暮らしていた。この悲惨な事件に救いがあるとすれば、自分が置かれた社会的条件を乗り越えようとした意志である。
 子どものもつ可能性は、恵まれた社会的条件の中では、大きく開花する。たとえば迷惑メール排除の会社を起こしたキャメロット・ジョンソン、15歳。あるいは人気ソフトを制作して1億円相当の資産を得たリシ・バート、16歳。いずれも米国の話である。
 所与の社会的条件に流されず、可能性へ挑戦する姿勢は、多かれ少なかれ本書の登場人物すべてに共通する。重く暗い現実を多数報告するにもかかわらず、本書がふしぎと明るい読後感を残すのは、そのせいだろう。
 日本でも採用が検討されてよい制度や事業もいくつか紹介されている。たとえば、被告人も陪審員も十代の「少年法廷」(米国)。全米に650か所あり、十代の犯罪者は同世代の者から厳しく評価されるせいか、少年法廷で裁かれた者の再犯率は家庭裁判所のそれにくらべて格段に低い、というデータがある。
 美談調が少々気になるけれども、教育や福祉にたずさわる大人はもとより、中学生や高校生が一読してよい一冊である。

□共同通信社編『60億人の地球家族』(共同通信社、2001)
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