語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】鳥見迅彦「霧の尾根」

2015年09月12日 | 詩歌
 残雪と偃松(はいまつ)と残雪と偃松と
 黒と銀と黒と銀と
 ゆらゆれる尾根をわたって
 一人の人がゆく

 その人はふりかえらない
 ふりかえることは孤独にとって罠である
 もしも背後の景色のほうが美しかったら
 どうする?
 もとのみちを帰るのか?

 霧がやってきてゆがんだその人の後姿を乳色のカーテンでかくしたときに
 おそるおそる頬をまわしたのは 臆病なけもののようなその人だ
 何が見えた?
 見えたのは霧にとりかこまれた自分だけではなかったか? それが罠だ
 ついに罠にかかった痛ましい過ちを
 やがては消えてゆく霧も運び去ってはくれない

 残雪と偃松と残雪と偃松と
 ゆらゆれる尾根をわたって
 二度とはふりかえらない人がゆく
 黒と銀と黒と銀と・・・・

□鳥見迅彦「霧の尾根」(『けものみち』、昭森社、1955:第6回H氏賞)
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