語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【保健】機能性表示食品は信頼できるか? ~21商品を徹底チェック~

2015年06月07日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)機能性表示食品制度が始まった。
     「体脂肪を減らす」
     「目の調子を整える」
などの効能効果を、科学的証拠があれば企業の責任で表示できるのだ。証拠など皆無の従来の健康食品に比べればはるかにましだが、企業任せの情報はどこまで信頼できるのか。
 消費者庁のホームページに、公表された21件(5月18日現在)の届出データを分析すると、約半数(10件)に問題が見つかった。

 (2)安全性。
 21件中10件が自社食品などの販売歴だけで安全だと評価している。
 しかし、ロート製薬「ロートV5粒」の関与成分ゼアキサンチンの販売歴はたった1年未満だ。
 具体的に危険性が懸念されるのはリコム「蹴脂粒」だ。同一成分(エノキダケの抽出物)を使った茶飲料「蹴脂粒」がトクホ申請されている。安全性を評価した食品安全委員会が、企業が説明する作用機序【注1】を前提とすると、脂肪を減らす効果以外に、心血管系、泌尿器系など他の臓器に悪影響を及ぼす可能性が否定できないと評価した。
 トクホとして認められない可能性が大だが、機能性表示食品としては販売可能となれば、制度開始早々、機能性表示食品の信用を落としてしまう。

 (3)企業内自画自賛レビューは信用できるか。
 機能性については、21件の中には過去トクホ申請をしたが、「体内動態が不明確で有効性が認められない」との理由で2008年に却下されたものがある。キューピー「ヒアロモイスチャー240」だ。キューピーが今回提出しているデータでは、体内動態としてヒアルロン酸の分解物が腸から吸収されてその一部が皮膚まで届く可能性を示す動物実験を示した点では評価できるが、その結果、本当に肌の水分量が増えるかの証明は不十分なままだ。
 消費者庁のガイドラインでは、企業は機能性の証拠として、自社の最終製品を使った人の臨床試験の論文か、関与成分の機能性に関する過去の研究論文を網羅的に収集し再評価するシスティマティックレビューのいずれかを選ぶことができる。
 キューピーはシスティマティックレビューを選んでいるが、レビュー対象とされた論文は自社試験3件だけで、それを自社の別の社員がレビューして「効果あり」と判断している。結果に一貫性がなく、本当に効くかどうか判断できないような、かかる企業の自画自賛的なレビューで消費者の信用が得られるのか。

 (4)企業内自画自賛レビューは信用できるか(その2)。
 自社試験の臨床試験の結果、トクホと認められたものの、その後の大規模な臨床試験で効果が否定され、海外では機能性表示が認められていない商品もある。カルピス「アミールウォーター」がそれだ。
 カルピスも機能性の証拠としてシスティマティックレビューを選んでいるが、最初から日本人を対象にした臨床試験11件に限定している。
 しかし、EUでは日本以外の臨床試験も含めた25件を対象にレビューを行い、個々の研究の問題点を指摘した上で、「証拠不十分」で表示は不可とした。
 カルピスは、外国での否定的データを隠した、と見られても仕方ない。

 (5)企業内自画自賛レビューは信用できるか(その3)。
 (4)と同様の問題は、アサヒフードアンドヘルスケア「ディアナナチュラゴールド甘草グラボノイド」でも見られる。

 (5)企業内自画自賛レビューは信用できるか(その4)。
 ロート製薬「ロートV5粒」もシスティマティックレビューを選んでいるが、レビューしている論文は1件だけだ。
 システィマティックレビューとは本来、すでに多くの臨床試験が存在する場合に、それらすべてをチェックし、総合的に効果ありと判断できるか評価する方法だ。
 しかし、ロート製薬が提出した資料では、原料会社(ケミンフーズ)の論文1件を同じ会社の社員がレビューしている。
 本来ならば、対象論文が少ない成分の場合は、システィマティックレビューを認めず、最終製品を使った臨床試験での検証にとどめるべきだ。そうしないと、原料会社による1件の研究論文しかない商品がはびこることになる。
 同様の問題は、森下仁丹「ビルベリー」にもある。

 (6)明らかに消費者庁のガイドラインに違反しているのが、キューサイ「ひざサポートコラーゲン」だ。
 キューサイは、最終製品の臨床試験の論文を証拠として届け出ている。しかし、これがガイドラインが条件としている「査読付き論文」【注2】ではないのだ。
 
 (7)商品への表示方法として、関与成分とその機能性を表示sるう場合、「国による評価を受けたものではない」という但し書きの表示も同じ面に表示すべきだと定められている。しかし、21件中8件が背面に小さくしか表示されていない。明らかに表示基準違反だ。

 (8)企業が届け出た情報には不備が多い。
 本来、機能性表示に求められる証拠のレベルはトクホより厳しい。しかし、第三者の事前チェックがないことを利用して、こうした質の低いデータを平気で出してきている。こんな事態が今後も続くなら、機能性表示食品への信用は失われていく。

 【注1】関与成分が効果を発揮するメカニズム。
 【注2】査読とは、論文掲載前に、同じ分野の他の専門家による事前審査のこと。ほとんどの学会誌では必須。一部では査読のない雑誌もある。そうした論文の学術的価値は低いので、ガイドラインは機能性表示の証拠として認めていない。

□植田武智(科学ジャーナリスト)「21商品を徹底チェックしてみた! 機能性表示食品」(「週刊金曜日」2015年5月29日号)
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