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語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『復興の闇・都市の非情 --阪神大震災、五年の軌跡』

2010年06月18日 | 震災・原発事故
 「戦さや災害の極限状況において国家や社会の本質があらわになる」と著者はいう。
 阪神・淡路大震災で露わになったのは、いわゆる弱者に苛酷な社会であった。アパート入居を拒絶される母子世帯や家賃高騰に生活を脅かされる低所得者が第1章で、神戸市における被差別民や在日朝鮮人の過去と現在が第3章で追跡される。
 しかし、本書のうちでもっとも読みごたえがあるのは、住民不在の都市計画を追う第2章である。

 新長田駅北地区の土地区画整理事業は、神戸市の震災復興区画整理事業のなかで最大規模(総面積43ヘクタール)のもので、幹線道路の拡幅、街区や区画道路の新設、公園の整備が計画された。
 だが、住民から見ると、公共用地が増え、宅地が減る計画にすぎなかった。しかも増える公共用地は主として道路である。コミュニティ機能は崩壊し、商店は寂れてしまう。
 こうした住民の意見を反映させるために「まちづくり協議会」があるはずなのだが、形式的な開催にとどまった。計画の細部や予算書は、住民に開示されなかった。
 「土地区画整理法は耕地整理法を応用したものだ」と著者は言う。耕地整理法により農道が拡幅すれば、減歩による地積面積の減少は生産性の向上で相殺される。だが、土地区画整理法による宅地の減歩の場合、道路の拡幅によって相殺されるものがない。固定資産税の増額という負担が増すだけである。加えて、震災後はそれ以前よりも低い建蔽率が適用されたから、換地に建てなおす家は二重の理由で以前よりも小さくなった。
 「行政の強権による都市計画の歴史は戦前の満州国に遡る」と著者は喝破する。満州国は、その13年間、一度も選挙がなく、立法府も存在しなかった。官僚国家であった。中枢は日本人が占めた。都市計画は、利害関係が複雑なために日本では実現困難だった。これを実現するべく、野心的な技術官僚が渡満した。内務省の技師、原口忠次郎もその一人である。国道局の新京建設処長、土木局の第二工務処長を歴任し、道路を重点的に開発した。土地を追われた新京(長春)の住民は、路頭に迷った。
 戦後、原口は、神戸市長時代の5期20年間に、植民地支配から生まれた理念と手法を発揮する。外国からの起債で開発費用を調達し、造成後の売却益で償還した。かくて神戸港東西の海面が埋め立てられ、人工の島、ポートアイランドが神戸港沖合に浮かんだ。げにも、原口は神戸市の「開発至上主義の基礎を築いた人物」であった。
 後任の宮崎辰雄、そして笹山幸俊・現市長も、このポリシーを引き継いだ。

 「これらの開発の背後に産官学の利権の構造がある」と著者は指摘する。じつは、阪神・淡路大震災において倒壊した高速道路も、こうした利権の構造の結果たる手抜き工事が露呈したものだ。
 安全神話の崩壊が、第4章で追求されている。
 
 本書は、要するに、被災都市の社会病理学的ルポタージュである。都市も人間の身体と同様、もっとも弱い部分から病が顕在化することを本書は証言している。

□和田芳隆『復興の闇・都市の非情 --阪神大震災、五年の軌跡』(五月書房、1999)
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