語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】リルケ「レダ」

2015年12月06日 | 詩歌
 神が思いあまって白鳥のなかへ入ったとき
 彼は白鳥の美しいことにほとんど愕然としながら
 まったく狼狽してその中に姿を消した
 だが このまだ経験したことのない存在の感触を

 試すひまもなく 既にその偽りの姿が
 彼を行為へと導いたのだった そしてあけひろげのレダは
 白鳥となって近づいてくる者を知り
 一つのものを彼が求めていたことを悟っていた

 それを彼女は狼狽(あわて)て抵抗しながらも
 もはや隠すことができなかったのだ 神は蔽いかぶさり
 次第に力のぬけてゆく彼女の手の間から頚をさしのべながら

 ついに愛するひとのなかへ辷(すべ)りこんだ
 それから はじめて自分の羽をうれしく思い
 彼女のひざのなかでほんとうに白鳥となったのだった


 Leda

 Als ihn der Gott in seiner Not betrat,
 erschrak er fast den Schwan so schön zu finden;
 er ließ sich ganz verwirrt in ihm verschwinden.
 Schon aber trug ihn sein Betrug zur Tat,

 bevor er noch des unerprobten Seins
 Gefühle prüfte. Und die Aufgetane
 erkannte schon den Kommenden im Schwane
 und wußte schon: er bat um Eins,

 das sie, verwirrt in ihrem Widerstand,
 nicht mehr verbergen konnte. Er kam nieder
 und halsend durch die immer schwächre Hand

 ließ sich der Gott in die Geliebte los.
 Dann erst empfand er glücklich sein Gefieder
 und wurde wirklich Schwan in ihrem Schooß.

□ライナー・マリア・リルケ(富士川英郎・訳)「レダ」(『リルケ詩集』(新潮文庫、1963))
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 【参考】
【詩歌】リルケ「タナグラ人形」
【詩歌】リルケ「豹」
【詩歌】リルケ「秋の日」
【詩歌】リルケ「秋」



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