語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『ピッピの生みの親 アストリッド・リンドグレーン』

2010年06月17日 | □スウェーデン
 アストリッド・リンドグレーンは、1907年2月14日、スウェーデン南西部に位置するスモーランド地方ビンメルビーに生まれた。18歳で未婚の母となり、24歳で結婚した。
 1944年、第1作『ブリット=マリーがほっとする』がラーベン・オク・ショーグレン社主催のコンペで銀賞を獲得し、作家の道を歩みはじめる。
 1945年、『長くつしたのピッピ』が同社の同じコンペで金賞を獲得。以後、スウェーデンのみならず世界中の子どもたち、そして大人をも魅了する物語が次々に生みだされていった。
 『親指こぞうニルス・カールソン』でニルス・ホルゲルソン賞(1949)、スウェーデン国家文学賞(1956)、『ミオよわたしのミオ』でドイツ児童文学賞(1956)、『さすらいの孤児ラスムス』とそれまでの活動に対して第2回国際アンデルセン賞(1958)、スウェーデン・アカデミー・メダル賞(1971)、『長くつしたのピッピ』でルイス・キャロル・シェルフ賞(1973)、もう一つのノーベル賞と呼ばれるライト・ライブリフッド賞(1994)などを受賞した。
 スウェーデンのある小学校では、全校をあげてアストリッド90歳の誕生日を祝った。国王さえ例がない、という。
 2002年1月28日没、享年94。

 かくのごとくリンドグレーンは第一級の作家だが、本書は遺憾ながら第一級ではない。帯に「日本ではじめての本格評伝」とあるが、過褒というもの。伝記は全体の約4分の1で、残余の大部分は功成り名をあげた晩年のリンドグレーンの近況を伝えるか、彼女に近い人々の証言が占める。作品紹介にも紙数が割かれているが、ほとんどが手ばなしの礼賛で、「評伝」の「評」はあまり多くない。
 ただ、リンドグレーンは、わが国ではその作品がよく読まれているわりにその人となりについてはあまり知られていないから、本書が先駆的な役割をはたしているのはたしかである。
 ちなみに、リンドグレーンは裕福になっても簡素な生活を送り、親切、紋切り型に陥らない独創性、すぐれたバランス精神の人だったらしい。こうした点に魅せられる人には、本書を一読する価値が十分にある。

 作品の「評」は、第11章「リンドグレーンの作品におけるテーマの変化」に集中している。これによれば、リンドグレーン作品は大きく3つに大別される。
 第1群は、荒唐無稽な冒険譚である(『長くつしたのピッピ』ほか)。
 第2群は、リンドグレーンの故郷を舞台にした懐かしい時代の物語である(『エーミル』『やかまし村』ほか)。
 第3群は、ファンタジー物語である(『ミオよわたしのミオ』『はるかな国の兄弟』ほか)。
 この分類からはみだす『名探偵カッレくん』などの系譜もあると著者は付言するから、「第4群その他」の分類項目を別にたててよさそうだ。

 第1群の冒険譚は、荒唐無稽といっても、日常生活上の冒険である。床に水をまいてモップをスケートのようにして遊び、しかもそれでちゃんと掃除になっている、うんぬん。こうした特徴が、それぞれの群ごとに拾いだされる。
 リンドグレーンは、社会的発言を重ねてオピニオン・リーダーともなった。直裁な議論もあるが、物語ふうの諷刺が独特で、税制改革や環境保護に実効があったらしい。本書の著者は、これらのリンドグレーンの活動を彼女の児童文学とは別に考えるべきだというが、むしろ児童文学はリンドグレーンの「志」を実現する手だてだった、とする見方もあってよいのではないか。

□三瓶恵子『ピッピの生みの親 アストリッド・リンドグレーン』(岩波書店、1999)
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