語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】異国で独りはたらく ~『スウェーデンの作業療法士』~

2015年12月26日 | □スウェーデン
 河本佳子さんは、マルメ大学総合病院ではたらく作業療法士である。
 本書は、かの国の作業療法士の仕事ぶりや作業療法の現場を紹介するとともに、「福祉先進国」を支える平等の精神を伝える。

 リハビリテーションあるいはハビリテーションは、個々の患者の治療や訓練だけではなくて、住環境や地域の社会環境の整備も推進しなくてはならない。
 だから、スウェーデンの作業療法士は、建築に関する基礎的な素養をもたねばならない。
 高齢者や障害者が暮らす住宅の改造にあたっては、家庭訪問し調査し、改造の必要性を証明する書類を作成し、簡単な設計図さえも作成し、コミューン(日本の市町村に相当する)の建築事務所へ申請する。
 個々の住宅改造に関与するだけではない。都市計画が設計される際にも発言する。
 患者の社会参加にも寄与する。医療チームの一員、「余暇コンサルタント」とともに、夏休みにはキャンプやマルメ市探検などを企画し、実施するのだ。
 忙しいが、自主的に指導・訓練計画をたて、自らの責任において実施できる点で、「大変だけれども最高に面白い」。
 面白いのは当然だ。仕事の範囲が、日本の作業療法士より、かくだんに広い。

 本書は、作業療法士の日常、同僚たちの人間模様、感覚統合教室とも訳されるスヌーゼレンの実際、統合教育や特別支援学校を実例に即して紹介している。医療福祉や障害児教育の専門家はもとより、患者とその家族にも役立つだろう。
 現に、著者は、日本の各地で、なんどか講演している。

 さらに、本書のいたるところで言及されるスウェーデンの福祉、そのお国柄は、一般の読者にも興味深いはずだ。
 たとえば、医療制度。
 歯科医療は別として、すべての病院は公営であり、独立した医療予算の枠内で患者負担のない公的治療を行う(社会保険による医療費給付ではない)。だから、過剰診療は生じない。
 たとえばまた、スウェーデン独特の平等な社会システム。
 平等は、議論に地位の上下関係が持ちこまれず、職種に関係なく互いをファースト・ネームで呼び合う点にも見られる。
 スウェーデンでは、幼いころから、家庭内のことは家族が共同で処理する。こうした発達期の環境が、男女の性差や障害の有無にかかわらず、誰もが自立すること、そのうえで平等に生きること、といった精神をつくりあげたものだろう。著者はそう推定している。

□河本佳子『スウェーデンの作業療法士 -大変なんです、でも最高に面白いんです-』(新評論、2000)
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