語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【北欧】スウェーデン人はいま幸せか ~育児・教育費・医療・年金と税~

2015年03月14日 | □スウェーデン
 (1)スウェーデンの理学療法士、ピア・ルンデルさん(58歳)は、28歳、26歳、23歳の3人の子どもを育てあげた。日本では、3人の子どもがいると、教育費などに悩まされる親も多いが、ルンデルさんが支払ったのは長男がオーストラリアへ留学した際の費用のみ。
 スウェーデンでは、大学を卒業するまでの学費は無料で、親が教育費の心配をする必要はないのだ。
 むろん教育ローンはあるが、学費ではなく、子ども自身の生活費に充てるために組むのが一般的だ。というのは、大学に入る時点で子どもは独立しているからだ。

 (2)育児休暇も日本の制度より手厚い。スウェーデンでは子ども1人につき480日の取得が認められている。「夫婦半々で1年間くらい取得するのが一般的だ」とルンデルさん。このため、育児をするイクメンは当たり前で、最近は若い男性同士が子育てや家事の話をしているのを聞くことが多い、という。
 育児休暇も手厚く、休暇中は、最大で給与のおよそ80%を受給できる。
 スウェーデンでは、子育てにもってこいの環境が整っている。

 (3)医療面も手厚い保障がある。
 医療費の安さは有名で、自己負担は最大で年間1万円程度。18歳以下に至っては無料となる。
 18歳以下は、外科や内科だけでなく歯科も無料だ。「外国企業の駐在員は、スウェーデンに赴任すると、真っ先に子どもに歯の矯正をさせる。だから人事異動の時期には歯科が外国人だらけ」と早苗・ショーバーグさん(スウェーデン在住歴27年)は言う。

 (4)年金制度も機能している。「預貯金は老後のためでなく、国民が大好きな旅行のため」との声も。【注1】
 スウェーデンでは、1999年に年金大改革を行った。きっかけは政権交代だ。1930年以降、長期政権を維持してきた社会民主党が1991年に政権を失い、保守党を中心とした連立政権下で、与野党7党(その後保守党、社会民主党、中道の5党)による超党派の年金改革ワーキンググループが発足した。
 メンバーには各党の大物議員が名を連ね、大きな権限を付与された。メンバーの合意事項は一方的に廃棄しない、と約束を交わす傍ら、疑似は当面は非公開、議事録や資料は合意後に公表するものとした。
 スウェーデンとしては異例の非公開は、政治的リスクを取り除く工夫だった。次のコンセンサスがあったのだ。
 「年金制度は長期的に安定した仕組みとする必要がある」
 「年金が短期の利害や政治的パフォーマンスに使われてはならない」
 改革前のスウェーデンの年金制度は、年金の対象期間30年のうち最も給料の高い15年間の数字を基に年金額が決まるなど、負担と給付の関係が不明瞭で、不公平感も高かった。また、景気変動や高齢化の動きに対して、かなり脆弱だった。
 そこで現役世代が高齢世代に仕送りする賦課方式を維持しながら、「概念上の拠出建て」として負担と給付の関係を明確にし、生活保障に最低保証年金を採用。さらに積立金の運用失敗などに備えた自動財政調整メカニズムを導入する、といった工夫を盛り込んだ。
 スウェーデンの財政調整メカニズムは、給付債務が年金資産を上回ると給付を削る。2008年のリーマンショックで年金の資産運用利回りが▲22%とボロボロになったのを受けて、2010年に初めて発動され、2年連続で減額された【注】。
  (a)年金体系・・・・①所得比例年金と②最低保証年金の組み合わせ。①のうち2.5%分は積立方式(増額可)。残る16%は賦課方式。
  (b)年金財政・・・・自動財政調整メカニズムを導入。債務が資産を超えると、議会の決定を経ずに給付を抑制する。リーマンショック後に初めて発動。
  (c)保険料率・・・・18.5%固定化(本人負担控除後、本人負担7%、事業主負担10.21%)
  (d)年金額・・・・「概念上の拠出建て」を導入、個人勘定(年金総額)を開始時の平均余命で割って算定。拠出と給付の関係は明確。
  (e)最低保証・・・・最低保証年金額は月11.8万円(単身者、2013年)。低額の所得比例年金には最低保証との差額を支給、全額国庫負担、スウェーデン居住40年で満額。
  (f)受給開始年齢・・・・所得比例は61歳以降、本人が選択する。受給を延期すれば増額。最低保証年金は65歳。

 (5)ばら色の制度は、この世に存在しない。
 スウェーデンでは、収入の多寡にかかわらず、ほぼ全ての国民に所得税30%が課せられている。わけても低所得者層にとって、税負担が重く感じられる。この層には移民が多く、深刻な社会問題にも発展しかねない。
 さらに、消費税25%も課される。
 北欧といえば男女平等でも知られるが、今や「男性も女性も65歳まで働くのが当然」(ルンデルさん)になっている、という。むろん、女性の労働意欲が根底にあるのだが、「高負担に耐えるには、夫婦とも働かないと持たない」(ルンデルさん)という側面もある。
 まさに権利と義務、優しさと厳しさの両面がワンセットになった制度だ。むろん、その根底には、制度をつかさどる政府への信頼がないと成り立たないのは申すまでもない。

 【注1】(4)は、次の行からはColumn「お手本スウェーデンと彼我の差 日本の年金問題先送り体質 ~特集【Part3】高福祉国家の実像~」(「週刊ダイヤモンド」2015年3月14日号)による。
 【注2】リーマンショック後、スウェーデン・モデルは明らかに揺らいだ。2006年に政権に就いた穏健党は、教育や医療の民営化を次々に推進した。今、スウェーデンの学力は、OECD加盟国中、下から3番目に落ちた。病院の待ち時間も、加盟国中ほぼ最長という統計まで出る始末だ。そして、この傾向を深刻化させたのが難民問題だ。

□「北欧人に聞いてみた「本当に幸せなの?」 ~特集【Part3】高福祉国家の実像~」(「週刊ダイヤモンド」2015年3月14日号)
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 【参考】「【北欧】スウェーデンの社会秩序が揺らぐ ~移民政策促進~

   


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