語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】中野重治「雨の降る品川駅」

2015年07月08日 | 詩歌
 辛(しん)よ さようなら
 金(きん)よ さようなら
 君らは雨の降る品川駅から乗車する

 李(り)よ さようなら
 もう一人の李よ さようなら
 君らは君らの父母(ちちはは)の国にかえる

 君らの国の川はさむい冬に凍る
 君らの叛逆する心はわかれの一瞬に凍る
 海は夕ぐれのなかに海鳴りの声をたかめる
 鳩は雨にぬれて車庫の屋根からまいおりる

 君らは雨にぬれて君らを追う日本天皇を思い出す
 君らは雨にぬれて 髭 眼鏡 猫背の彼を思い出す

 ふりしぶく雨のなかに緑のシグナルはあがる
 ふりしぶく雨のなかに君らの瞳はとがる

 雨は敷石にそそぎ暗い海面におちかかる
 雨は君らの熱い頬にきえる

 君らのくろい影は改札口をよぎる
 君らの白いモスソは歩廊の闇にひるがえる

 シグナルは色をかえる
 君らは乗りこむ

 君らは出発する
 君らは去る

 さようなら 辛
 さようなら 金
 さようなら 李
 さようなら 女の李 

 行ってあのかたい 厚い なめらかな氷をたたきわれ
 ながく堰(せ)かれていた水をしてほとばらしめよ
 日本プロレタリアートのうしろ盾まえ盾
 さようなら
 報復の歓喜に泣きわらう日まで

□中野重治「雨の降る品川駅」(『中野重治詩集』(岩波文庫、1978))
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 【参考】
【詩歌】中野重治「わかれ」
【詩歌】中野重治「あかるい娘ら」
【詩歌】中野重治「しらなみ」
【詩歌】中野重治「浦島太郎」
【詩歌】中野重治「豪傑」

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