語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】佐高信の、佐藤優という“危険な思想家”、勝間和代という無思想家

2011年01月24日 | 批評・思想
●佐藤優
 「週刊金曜日」の読者の中には、佐藤優を登場させることに疑義を唱える人もいる。佐高も、「読んではいけない」欄で、『国家の罠』をして、佐藤が守ったのは国益ではなく、省益ではないか、と指摘したことがある。

 佐藤は、省益と国益が一致する、との擬制において行動する官僚だった。それだけに国家の恐ろしさを知っている。
 たとえば、佐藤優『テロリズムの罠』によれば、国権派ながら死刑は基本的には廃止するべきだ、と佐藤は考える。死刑という剥き出しの暴力によって国民を抑えるような国家は弱い国家だ、と佐藤は思うからだ。欧州諸国が死刑を廃止したのは、国権の観点からして死刑によって国民を威嚇しない国家のほうが、国民の信頼を獲得し、結果として国家体制を強化する。
 “危険な思想家”の面目躍如ではないか。

 山田宗睦『危険な思想家』で、たしか名指しされた江藤淳は、思想はもともと危険なものであり、“安全な思想家”とはどういう存在だ、と開き直った。
 この江藤の反論には、真実が含まれている。

 佐藤も、国権派ならぬ人権派にとって“危険”な要素を含む思想家である。人権派のヤワな部分を鍛える貴重な存在である。
 佐高たち人権派は、佐高にとって残念なことに、小林よしのりの暴走を抑止する有効な手を打てていない。
 ところが、小林がいま一番苛立ち、恐れているのは佐藤である。佐藤は、あの手この手を使って小林を追いつめている。

 まさに博覧強記で、あらゆることに通じている佐藤だが、それゆえに知識過剰な人に弱い。
 「私がほとんど関心のない柄谷行人にイカれているらしく見えるのはその一面だろう」と、佐高は観察するのだ。 


●勝間和代
 どうしたら大前研一のようにものを考えられるか、先を読みとおせるのか、憧れ、秘密が知りたくてマッキンゼーに入社した、と勝間和代は書いた。
 根本的な構造や体質を変えようとせず、一時しのぎの解決策めいたものを出してごまかす“マッキンゼー病”は、勝間にも伝染している。

 『勝間和代の日本を変えよう』で、勝間はいう。「日本を変える」ときに「人々には基本的に悪意はない」ことを前提としたい」・・・・。
 「とくに、権力者やお金持ち、政治家や官僚を、マスコミはステレオタイプに悪人のように描きがちですが、私はそう思いません」
 そう、勝間は宣言して、次のように書く。「彼らが誤った行動をしたり、すべきことをすれば、正しい情報を知らなかったからだ」
 勝間がさまざまな情報を知らないから、こんなオメデタイことを言うのだ、としか佐高には思えない。

 たとえば、麻生太郎はどうか。悪人にも価しない人物だが、首相になってからの無知は犯罪だ。
 あるいは、旧大蔵官僚の、スキャンダルで失脚した中島義雄や田谷廣明。彼らがやってのけたことを承知の上で弁護した官僚たちは、「正しい情報を知らなかった」と言えるか。
 中学からずっと慶応だというお嬢さんの勝間は、もっと自分を限定して書いたり話したりした方がいい、と佐高は諭す。

 『日本を変えよう』に、雨宮処凛との対談が載っている。「私の身の回りには、だんなが就職に困っているとか、フリーターになったとかいう人がいなくて、雨宮さんのルポを読んでも、実感としてわからないところがあります。正直いうと」と勝間は告白する。そして、若年雇用の問題では、「やはりエスタブリッシュ側とフリーター側が対立構造のままだと話は進まないと思うんですよ。どうしたらもっと両者が会話できるような仕組みができるのか」と問いかけて、雨宮を絶句させている。会話・・・・。
 勝間は、次々とベストセラーを出し、カツマーと呼ぶファンにも囲まれているらしい。しかし、これでは政府の審議会委員として利用されるだけ利用されるだろう。

 欠けているのは情報ではなく、思想である。そして、思想が欠けているのみならず、恥の感覚も欠けている。さもなくば、「インディペンダントな生き方」の条件として、次のようなことは書けない。
 年収600万円以上を稼ぎ、いいパートナーがいて、歳をとるほど、すてきになる。自分がつきあっている男がいい男なら、友人にのろけられる・・・・。
 こうマジメに書く勝間は「アホとしか言いようがない」と、佐高は斬って捨てる。

【参考】佐高信「佐藤優という思想」、「勝間和代ら」(『小沢一郎の功罪』、毎日新聞社、2010)
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