語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>「発送電分離」の意義、ただし菅政権の発言はリップサービス

2011年05月20日 | 震災・原発事故
 最近、急に、官邸の政治家から東京電力の発送電分離についての発言が聞かれるようになり、菅首相も会見でそれに言及した。しかし、正しいコンテクストを政治家が理解しているか、疑問だ。

(1)発送電分離の政策的意義
 (a)損害賠償の原資作り。発送電分離につながる資産売却を通じて捻出できる。
 (b)電力供給の安定化。一つの電力会社がいつでも安定的に供給する、という体制は、大規模な事故が起きた場合に脆弱であることが今回明らかになった。従って、供給の多様化や需要側の自助努力(自家発電など)が必要になる。そうした方向を促すには発送電分離が不可欠だ。
 (c)原子力依存の低下。原発は初期投資のコストが数千億円と膨大なため、コストは長期的にしか回収できない。つまり、電力の独占供給体制の下でこそ有効なエネルギー源だ。発送電分離で電力産業の競争を促進することは、安全性をなおざりにしたまま国策で原子力を強引に推進してきた体制を見直すためにも重要だ。

(2)損害賠償スキームとの矛盾
 発送電分離の意義は大きいが、5月13日に決められた原発事故の損害賠償スキームと矛盾が生じる。
 (a)損害賠償スキームが発送電一体と地域独占を前提にしている可能性が高い。東京電力が損害賠償の責任を無限に負い、機構に対して毎年2千億円程度返済し続けるためには、東京電力が収益性の高い企業であり続ける必要がある。独占の維持が不可欠だ。
 それを逃れるには、賠償金額の多くを、①東京電力のリストラ&資産売却、②政府のムダ金の拠出で一気に捻出するしかない。
 (b)政府は今後も原子力を推進しようとしている。発送電分離を実施した場合、原子力発電事業は初期投資コストや安全面などでリスクが大きいので、民間の事業体で担うのは困難だ。原子力発電所を東京電力から分離して国営にしない限り、発送電分離とは両立し得ない。

(3)それではどうすべきか
 被災者への十二分な補償、発送電分離、電力の安定供給の維持を両立するように損害賠償スキームを修正すべきではないか。その場合のポイントは、次のとおり。
 (a)損害賠償スキームでは「東京電力を債務超過にしない」とあるが、政治的にそれをごり押しするのは不可能であり、ビジネスの現実では債務超過になる可能性も大きいので、損害賠償のためのスキームを法律にする段階では、預金保険法のように一時国有化も政策の選択肢に加える(りそな方式と足利方式のメニューを揃える)。
 (b)東京電力の損害賠償責任を有限にして、それを超える分は国が全面的に責任を負う(ちなみに、東電に会社更生法を適用したら被災者への損害賠償額もカットされるが、この場合も、カットされた分を国が全面的に負担することで対応できる)。
 (c)東京電力に発電所を売却させ、できる限り多くの賠償原資を捻出させる。原子力発電所も別会社化(必要あればいったん国営化)し、徐々に原子力発電の割合を減らして行く。
 (d)政府の原子力予算のムダを徹底的に洗い出し、それを賠償の原資に充てる。

 以上、岸博幸「菅政権の『発送電分離』発言は東電批判に迎合したリップサービスにしか聞こえない ~岸博幸のクリエイティブ国富論【第140回】 2011年5月20日」(DIAMOND online)に拠る。
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