語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】スープの語源 ~玉村豊男『世界の野菜を旅する』~

2016年01月18日 | ●玉村豊男
 スープの中にパンを入れて食べるのが、ヨーロッパの普遍的な習慣である。少なくとも家で食べる日常の食事ではそれが当たり前だ。特に田舎に行けばそうだ。スープが出てくれば当然のようにパンをちぎって投げ入れ、パンに汁が滲みてぐずぐずになった頃合いをみはからって、そのパンをスープといっしょにスプーンですくって食べる。
 南仏のレストランで、ブイヤベースやスープ・ド・ポワッソン(魚のスープ)を注文すれば、別皿に薄く切ったパンを載せてもってくる。そのパンの上にスパイスのきいたマヨネーズ状のものを塗り、スープの上にそっと置いて、しばらくしてパンに汁が滲みてきたら、そのパンごとスープをすくって食べるのが定番の作法だ。
 前日の残りパンの再利用だ。
 実をいうと、スープという言葉は、もともとこのパンのことを指していたのだ。
 ボウルか深皿に一片の硬いパンを入れ、そこに汁を注ぐ。しばらく待ってから食べれば、パンはやわらかくなっている。
 その、汁の滲みたパン、またはそのために汁の中に入れるパンのことを「スープsoupe」と呼んだ。フランス語の語源辞典によれば、12世紀末頃に登場した言葉だそうだ。
 その後、「ポタージュpotage」という語も登場したが、これは「ポ(ポット)pot=鍋」の中に入れる具材すべてを示す言葉で、パンのほかに肉や野菜を入れたスープをポタージュと総称するようになった。
 時代が進むにつれ、パンだけのスープから、野菜も肉類もと、しだに中身が豊かになってきた歴史がうかがえる。
 現代のフランス語でも、家庭菜園のような小さな野菜畑、料理に使うために野菜やハーブを育てている菜園のことを「ポタジェpotager」というが、これは、スープの鍋に入れる具材をつくる畑というのが本来の意味だ。
 なお、レストランでスープやポタージュにクルトン(焼くか揚げるかしたパンの断片)を最後に散らすのは、昔の「スープ(の中に入れるパン)」の姿を忍ばせる、ある種の儀式のようなものだ。

□玉村豊男『世界の野菜を旅する』(講談社現代新書、2010)
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書評:『パリ 旅の雑学ノート』
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