(1)3月16日は、春闘の集中回答日だった。賃上げ相場に大きな影響力を持つトヨタ自動車のベアは、労組要求額の半分の1,500円で昨年比2,500円となった。
トヨタは、2016年3月期決算で過去最高を更新し、2兆8,000億円の営業利益を計上する見通しで、業績は堅調だ。しかし、豊田章男・社長は、労使交渉で、「経済の潮目が変わった」と訴えた。
トヨタの2016年3月期第3・四半期決算(2015年4月~同12月)の連結販売台数は、前年同期比3.7%減の649万台。北米を除く全地域で軒並み販売が落ちている。特にこれまで成長市場と言われた東南アジアや南米などでは景気の悪化から販売が苦戦している。
(2)自動車、電機、鉄鋼、重工といった主要企業の回答状況を見ても、ベア満額回答だったのは日産自動車だけだ。他社はトヨタと同様に、軒並み要求の半分以下だった。
中国経済の減速、新興国の景気低迷など、世界経済には不透明感が漂っている。事業展開がグローバル化した中、日本の主要企業が下方硬直性の高いベアアップに慎重になるのは当然の流れだ。
(3)特に世界経済の先行き不透明感を増長させているのが米国大統領選挙の行方だ。
トヨタに限らず、自動車メーカーを中心とする日本の製造業は、北米市場で稼いでいる。2015年の米国の自動車市場は、リーマンショックから完全に回復し、過去最高を更新している。ドルに対する円安効果も大きい。
しかし、
「民主党のクリントン氏、共和党のトランプ氏のどちらが大統領に就いても自国の産業を守るために、米国は今までのような円安ドル高を容認しない」【トヨタ関係者】
との見方がある上に、米国で儲けている日本企業に対して何らかの圧力がかかってくるとも見られている。
特にクリントン氏が強いと見られていたミシガン州において、予備選に予想外の敗北を喫したことで、一部の日本の自動車メーカーには警戒感が強まっている。デトロイトがある同州は、自動車産業の集積地だ。労働者からの支持を得られなかったクリントン氏が、保護主義に走る可能性が高まっているからだ。グローバル企業は、米国の政治情勢に敏感なのだ。
(4)榊原定征・日本経団連会長は、2015年11月の官民対話で、前年超えの賃上げを早々と宣言。デフレ脱却のために企業に対して、法人税率引き下げと引き換えに賃上げ圧力をかけてくる安倍晋三・首相に媚びる姿勢を示した。
そもそも民間企業の賃上げは、個別の業績や将来戦略に応じて決めるものだ。共産主義国でもないのに国家が関与すべきものではない。経営者であれば、そんなことは「常識」のはず。だのに政権に媚びる経団連も情けない。
(5)鈴木修・スズキ会長は、「企業の体力を超えるこんな賃上げをしていては、いずれ自滅してしまう」と政府主導の春闘に異議を唱えていた。その鈴木会長も、「今年はやっと正常の春闘に戻った」と語ったそうだ。
結局、多くの企業がベアを縮小したことで、「官製春闘」は尻すぼみに終わった。
ただ、業績に応じて支給額を変動させやすいボーナスについては満額回答した企業が多い。企業は健全で合理的な判断をしたとも言える。
□井上久男「「官製春闘」は尻しぼみに 企業の賃上げに国家は関与するなかれ ~経済私考~」(「週刊金曜日」2016年3月25日号)
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トヨタは、2016年3月期決算で過去最高を更新し、2兆8,000億円の営業利益を計上する見通しで、業績は堅調だ。しかし、豊田章男・社長は、労使交渉で、「経済の潮目が変わった」と訴えた。
トヨタの2016年3月期第3・四半期決算(2015年4月~同12月)の連結販売台数は、前年同期比3.7%減の649万台。北米を除く全地域で軒並み販売が落ちている。特にこれまで成長市場と言われた東南アジアや南米などでは景気の悪化から販売が苦戦している。
(2)自動車、電機、鉄鋼、重工といった主要企業の回答状況を見ても、ベア満額回答だったのは日産自動車だけだ。他社はトヨタと同様に、軒並み要求の半分以下だった。
中国経済の減速、新興国の景気低迷など、世界経済には不透明感が漂っている。事業展開がグローバル化した中、日本の主要企業が下方硬直性の高いベアアップに慎重になるのは当然の流れだ。
(3)特に世界経済の先行き不透明感を増長させているのが米国大統領選挙の行方だ。
トヨタに限らず、自動車メーカーを中心とする日本の製造業は、北米市場で稼いでいる。2015年の米国の自動車市場は、リーマンショックから完全に回復し、過去最高を更新している。ドルに対する円安効果も大きい。
しかし、
「民主党のクリントン氏、共和党のトランプ氏のどちらが大統領に就いても自国の産業を守るために、米国は今までのような円安ドル高を容認しない」【トヨタ関係者】
との見方がある上に、米国で儲けている日本企業に対して何らかの圧力がかかってくるとも見られている。
特にクリントン氏が強いと見られていたミシガン州において、予備選に予想外の敗北を喫したことで、一部の日本の自動車メーカーには警戒感が強まっている。デトロイトがある同州は、自動車産業の集積地だ。労働者からの支持を得られなかったクリントン氏が、保護主義に走る可能性が高まっているからだ。グローバル企業は、米国の政治情勢に敏感なのだ。
(4)榊原定征・日本経団連会長は、2015年11月の官民対話で、前年超えの賃上げを早々と宣言。デフレ脱却のために企業に対して、法人税率引き下げと引き換えに賃上げ圧力をかけてくる安倍晋三・首相に媚びる姿勢を示した。
そもそも民間企業の賃上げは、個別の業績や将来戦略に応じて決めるものだ。共産主義国でもないのに国家が関与すべきものではない。経営者であれば、そんなことは「常識」のはず。だのに政権に媚びる経団連も情けない。
(5)鈴木修・スズキ会長は、「企業の体力を超えるこんな賃上げをしていては、いずれ自滅してしまう」と政府主導の春闘に異議を唱えていた。その鈴木会長も、「今年はやっと正常の春闘に戻った」と語ったそうだ。
結局、多くの企業がベアを縮小したことで、「官製春闘」は尻すぼみに終わった。
ただ、業績に応じて支給額を変動させやすいボーナスについては満額回答した企業が多い。企業は健全で合理的な判断をしたとも言える。
□井上久男「「官製春闘」は尻しぼみに 企業の賃上げに国家は関与するなかれ ~経済私考~」(「週刊金曜日」2016年3月25日号)
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