(1)加計学園問題で飛び出した「総理のご意向」文書の再調査が注目される。政府は、形の上で文書の存在を改めて認めたが、本来、文書の存否など問題の入口にすぎない。2017年5月に文書が発覚して1ヵ月経過してなお、いっこうに議論は深まらず、追求が進まないのは「ご意向」「忖度」という表現が邪魔をしているからではないか。
総理への忖度が問題だ、と野党やマスコミは政府を責め立てる。しかし、「忖度する」の主語は内閣府や文科省などの官僚である。つまり、忖度は首相が安全地帯に逃げ込める便利な言いまわしだ。一見、追求しているかのような評論家やジャーナリストも、追求の矛先を首相には向けない。その結果、問題そのものが文書の存否や昨年の内閣府と文科省のさや当てに矮小化され、疑惑の核心が遠く貸すんでしまっている。
(2)事の本質は、忖度などではない。一強どころではなく独裁と見える安倍政権と、そこに極めて近い友人。その間で何が起きていたのか。
この疑念を解き明かすキーパーソンの一人が元文科大臣の下村博文であり、ターニングポイントが2015年であった。
加計学園による今治市の獣医学部開設は、第一次安倍政権時代に持ちあがり、構造改革特区の申請を15回も門前払いされてきた。加計学園が、その絶望的な状況の中で光明を見出したのが、2012年12月にスタートした第二次安倍政権の布陣だ。そこで首相の側近である下村が、大学認可の生殺与奪権を握る文部科学大臣に就任した。
もともと加計と下村は知らない仲ではない。それどころか、本人だけでなく、夫人の今日子は、加計孝太郎・加計学園理事長や安倍昭恵といっしょに渡米するほどの間柄だ。おまけに今日子は、広島加計学園の教育審議委員にもなった。それはあたかも下村とのパイプ役を果たしているかのように映る。
(3)一方、下村本人は、赤坂の料亭で加計の陳情を受け付け、獣医学部新設に前のめりになってきた。加計にとって大きな転換が2015年春から初夏にかけてのことだろう。
この年の4月2日、それまで構造改革特区の申請をしてきた加計学園を擁する今治市の担当職員が上京し、首相官邸を訪ねた。首相動静によれば、下村文科大臣も、その日官邸に居合わせている。
それから2ヵ月後の6月2日、今治市が構造改革特区から国家戦略特区に申請をやり直した。提案名は「国際水準の獣医学教育特区」。これを受けた政府は、6月30日、「日本再興戦略改訂2015」を閣議決定した。
このとき、獣医学部新設をクリアするため、例の「4条件」が発表された。巷間、獣医学部新設反対派の石破茂・地方創生担当大臣が考案した「石破4条件」などと呼ばれる。しかし、その実、4条件は構造改革特区時代から存在し、下村文科大臣が了承した上での話だ。
(4)2015年12月15日、首相が議長を務める国家戦略特区諮問会議で、構造特区の特例措置として、特区に指定されることになった。つまり、この時点で加計学園の獣医学部開設の大枠が決まった、と見てよい。
下村は、この間、大臣就任の前年を含め、パーティ券名目で加計学園から計240万円の献金を受けているはずだが、その質問にはいまだに答えていない。
□森功「「忖度報道」ばかりで霞む加計学園もう一人のお友達下村元文科大臣の「暗躍」 ~ジャーナリストの目 第345回~」(週刊現代 2017年7月1日号)
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