語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会保障】報酬の大幅減額で浮き彫りになった介護保険制度の「矛盾」

2015年02月04日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)財務省と厚生労働省とで揉めに揉めていた介護報酬の、大幅な減額が決まった。2006年度以来、9年ぶり。
 この4月以降、介護事業者に支払われる介護報酬が、2.27%カットされる。
 財務省は介護報酬の削減を訴え、厚労省は福祉を切り捨てかねないと抵抗していた。どちらが正しいのか。

 (2)介護報酬は、2000年から始まった介護保険制度に基づき、40歳以上の国民から集めた保険料や公費で賄われている。アバウトに言えば、介護給付総額の半分を国や地方自治体の税金で賄い、残り半分を保険料や自己負担で捻出している。
 特別養護老人施設や民間の老人ホームなどの事業者が介護報酬の給付を受け、介護職員の給与や施設の運営費に充てる。よって、介護報酬を引き下げれば、税や保険料の負担も軽くなる。
 介護報酬が2.27%カットされると、2,270億円が浮く。
 負担減の内訳は、
   税金 52%
   保険料 41%
   利用者負担 7%
 つまり、税金は1,000億円以上の負担減となる。

 (3)財務省の言い分・・・・医療費と同じく、介護給付費の総額は高齢化とともに年々増え続けている。当初の3兆6,000億円から10兆円まで膨らんでいる。ただでさえ、国と地方を合わせた借金が1,000兆円を超えている財政難の折、介護報酬のカットは当然のことだ。
 おまけに、そもそも介護事業者は儲けすぎだ。経費に占める利益率を見ると、中小企業の平均2.2%に対し、特別養護老人施設(高齢者介護施設の中心)のそれは8.7%。おかげで1施設あたり3億円も溜め込んでいる、という試算もある。

 (4)厚生労働省の言い分・・・・介護の現場では、介護職員が低賃金で過酷な労働を強いられている。せっかく介護福祉士の国家資格を取得しても、平均月給は22万円。それではなり手がなく、施設は慢性的な人手不足に陥っている。人手不足は事業者側のコストカットの結果だ。その上、介護報酬を削られると、経営が立ち行かなくなる、
 大手介護施設の中堅幹部も言う。・・・・施設の大半は収支トントンで経営している。特別養護老人施設の内部留保といっても、それほどない。特別養護老人施設は補助金を受けている社会福祉法人なので、利益を出すことができない。それに、施設の建て替えに備える必要もある。多くの施設は、介護報酬を削られると、介護職員の人件費を削るしかない。

 (5)財務省と厚労省とがスッタモンダの末、介護報酬をカットする代わりに、今回は介護職員の処遇改善策として別枠で予算を確保し、職員の月給を平均12,000円ほどアップさせる苦肉の策を講じた。

 (6)高齢化とともに、要介護者は急増し、特別養護老人施設の入居待機高齢者は52万人に上る。本来、需要が多ければそれだけ儲かりそうなものだが、こと介護の世界では違う。
 なぜこんな矛盾が生じているのか。
 介護は医療と違い、公的な保険が適用されない高級なサービスを受けても、通常の介護分は保険を使える。だから、高級老人ホームなどは、利用者から1月何十万円も生活費を受け取りながら、保険制度下の介護報酬もしっかりもらえる。つまるところ、儲けているところと、良心的な業者で、格差が生じているのだ。
 アベノミクスの謳うところでは、医療・介護分野は第三の矢の成長産業なのだそうだ。なかでも介護は10年後に20兆円産業になるという。
 そのわりに、制度設計がまるでできていない。

□森功「報酬の大幅減額で浮き彫りになった介護保険制度の「矛盾」 ~ジャーナリストの目 第237回~」(「週刊現代」2015年2月7日号)
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