語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【加計学園疑惑】と官邸 ~「総理の意向」隠蔽か~

2017年05月30日 | 社会
 (1)2018年春に愛媛県今治市で獣医学部の開設を目指す「加計(かけ)学園」をめぐる問題が再浮上した。
 国家戦略特区の認定、新設学部の認可をめぐって内閣府職員が文部科学省の担当官に「総理の意向」をかざして手続きの加速化を求め、そのやりとりを記した文書が現れたのだ。
 この問題は、「森友学園」の「忖度」で済まされない問題をはらんでいる。

 (2)5月17日の衆議院文部科学委員会で文書の存在を明らかにした玉木雄一郎・衆院議員(民進党)の質問に、松野博一(ひろかず)・文部科学大臣は、学部新設について「設置時期をあらかじめ提示、書き込むようなことは審議会との関係においてどうなうのかと話した記憶がある」と答弁した。
 新設学部の認可は、文科省の諮問機関である大学設置・学校法人審議会において厳正に審査される。委員は大学関係者などから成り、審査内容は施設や教員の配置、カリキュラムの内容まで多岐にわたる。にわかに提出して通るものでは、到底ありえない。松野大臣は、そうした認可の手続きを念頭に、2016年1月に戦略特区認定、3月末に学部新設の申請、8月末に認可の判断提示というスケジュールから見て準備不足に陥るこtろはないのか、との真っ当な疑問を示した、と受け止められる。
 換言すれば、国家戦略特区という安倍内閣の「三本の矢」の一つである目玉政策だからといって、厳正な認可基準を曲げることはあってはならない、との懸念を示したもので、そう指摘せざるを得ない状況認識が存在したことを物語っている。

 (3)52年間認められてこなかった獣医学部の新設がほんとうに必要かどうかは、意見が分かれる。百歩譲って獣医師の増員は必要で、さらに今治市が国家戦略特区に認定するに相応(ふさわ)しいとしても、そのことと開学を前提として日程を区切り、あたかも大学設置基準を「緩和」してでも間に合わせろ、というのは本末転倒だ。
 「総理の意向」の有無はさて措き、内閣府が主導する日程ありきの進め方は、文部科学行政の公正な進め方とは相容れない。松野大臣の答弁かr、安倍政権の目玉政策という「大義」を掲げて、適正な行政の執行をねじ曲げることを強要するかのような振る舞いが、霞が関の内部にあることが明らかになった。

 (4)さらに重大なことがある。
 先の委員会で「文書が作成された可能性はある」と答弁した松野文科大臣に対し、菅義偉・官房長官は5月17日の会見で、「文書の作成日時や作成部局が明確になっていない」などと述べ、「怪文書の類い」と決めつけた。
 松野大臣が言及した「存在の可能性」についての調査は19日に行われたが、関係者7人から1人当たりわずか10~30分の聞き取りで済まされ、「確認できなかった」との結論に終わっている。
 菅官房長官が「怪文書」と頭ごなしに決めつけたものに、松野大臣が異論を唱えられるはずもない。

 (5)懸念すべきは、菅官房大臣をはじめとする安倍官邸の霞が関に対する「恐怖政治」ともいえる「統制」であり、安倍首相周辺が絡む事案によって、行政の公平性がねじ曲げられようとしている事実だ。
 だが、そうした手法への反感も、霞が関内に燻(くすぶ)っていることは、図らずも松野大臣の答弁から明らかになった。
 政党政治を否定するかのような安倍首相の改憲提案も併せ、「安倍一強政治」の歪みが露わになりつつある。

□佐藤甲一(ジャーナリスト)「加計学園疑惑と官邸 「総理の意向」隠蔽か ~政治時評~」(「週刊金曜日」2017年5月26日号)
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 【参考】
【加計学園疑惑】「忖度」ではなく首相の直接指示か ~首相主導の“官製談合”~
【後藤謙次】共謀罪に加計学園問題まで炎上 ~予想以上に高い「6月の壁」~


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【加計学園疑惑】「忖度」ではなく首相の直接指示か ~首相主導の“官製談合”~

2017年05月30日 | 社会
 (1)民進党の「加計(かけ)学園疑惑調査チーム」(共同座長:今井雅人・衆議院議員&桜井満・参院議員)の衆参院議員6名は5月19日、獣医学部が設置される加計学園の建設現場(愛媛県今治市)など現地視察した。
 調査チームは、「朝日新聞」が安倍首相の指示を示唆する内部文書を報じた5月17日に発足。17日と18日、関連部署の官僚に対するヒアリングを行い、発足3日目には疑惑の現場を訪ねたのだ。
 桜井議員は、愛媛県庁で、視察の狙いをこう語った。
 <一番大きいのは知事の発言。「国家戦略特区で出したらどうか」というアドバイスが内閣府からあって、それからトントン拍子で進んだ(許可がおりた)という知事の発言がありました。ところが、昨日(18日)に私が農水委員会で(内閣府で国家戦略特区担当の)藤原豊審議官に質問をした時には「内閣府からそういう働きかけをしたことはない」と答弁。知事発言と食い違っていたので、確認をさせていただきに来ました>
 実際、中村時広(ときひろ)・愛媛県知事は4月12日の会見で内閣府の助言について、次のように明言していた。
 <(加計学園の獣医学部予定地は)今治が古くから教育機関の誘致を図って、幾度となく挫折をし、私も就任以降、構造改革特区で提出をし続けて、ことごとくだめで、途中で「これはもう無理じゃないか」と感じた>
 <途中で内閣府から助言があって、「国家戦略特区で出したらどうか」ということだったので、出したら許可が下りた>
 また、桜井議員は、民進党の福田剛・県議からも「内閣府の方から県地域政策課の担当者に説明があった」という情報を得ていた。

 (2)そこで、調査チームは県知事や地域政策課の担当者と面談、藤原審議官の国会答弁との食い違いについて事実を確認しようとしたのだ。
 しかし、知事も副知事も担当者も不在。話を聞けず、文書で質問状を送って回答を得ることになった。
 なお、県は当初「調整中」だったが、最後は「会えない」と対応が変わった、という。「官邸から圧力がかったのだろう」【桜井議員】

 (3)続いて今治市役所を訪問したが、ここでも市長や副市長や担当者から話を聞けず、文書で質問状を送る、と告げるにとどまった。

 (4)最後に調査チームは、獣医学部の建設現場を視察。駆けつけた市民団体「今治加計獣医学部を考える会」の黒田篤彦・共同代表から驚くべき実態を告げられた。
  (a)市民の半数以上が「国が大学を作ってくれるから嬉しい。大半のお金を出してくれる」と思っている。しかし、実際は「市税96億円を拠出(歳出の12%)」。一方、獣医学部開学の税収増は年間3,000万円程度で、回収には320年かかる。しかも、市民への説明会は、工事が始まった後だった。
  (b)獣医学部には細菌などの生物災害の危険度(BSL)3施設を設置する計画だが、市民には「危険度2程度の研究しかない」と一段階低いリスクであるかのように説明。
  (c)市役所のどの担当課に聞いても「『急げ』『急げ』と言われてきている」「平成30年開学をしないといけないから、この日程なのです」と話している。急がせている主体は内閣府しか考えられない。
  (d)私有地が加計学園に無償譲渡される前にボーリング調査を実施。

 (5)黒田共同代表は、「『だまし討ちを受けた』という気持を持っている。96億円を地場産業振興に使う選択肢もあったはず」とも説明。
 加計学園疑惑は、“国家的詐欺事件”の性格を帯びると同時に、首相主導の“官製談合”の様相も呈してきた。
 視察後の囲み取材で、今井議員は、「官邸の意向が働いて内閣府主導で話が進んだ疑念がある」「森友は官僚の忖度だろうが、加計学園疑惑は首相の直接指示の可能性がある」と強調。朴槿恵・前韓国大統領事件とも重ね合わせた。

 (6)木内高胤(たかたね)・衆院議員も、加計学園の競合相手だった京都産業大学が新たな条件付加で排除された選考課程を「公正中立な決定とは言えない」と問題視。
 国家戦略会議議長の安倍首相が「天の声」を発動して本命が決まった“官製談合”疑惑が浮上した、といえる。
 中央と地方、両面からの追求が行われる(はずだ)。

□横田一(ジャーナリスト)「「忖度」ではなく首相の直接指示か 民主党の加計学園疑惑調査チームが現地を視察し浮上」(「週刊金曜日」2017年5月26日号)
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 【参考】
【後藤謙次】共謀罪に加計学園問題まで炎上 ~予想以上に高い「6月の壁」~
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