語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】エミリー・ディキンソン「成功はすばらしく思われる」

2015年06月19日 | 詩歌
 成功はすばらしく思われる
 いちども成功しない人たちには
 蜜の味がわかるには
 はげしい飢えがいる

 今日旗をうばった
 深紅の部隊のだれひとり
 勝利の意味をはっきりと
 告げることはできない

 いま敗れて死にかけている
 あの聞こえない耳に痛ましくはっきりと
 遠くの歓呼の声が湧きあがる
 兵士のように 

 Success is counted sweetest
 By those who ne'er succeed.
 To comprehend a nectar
 Requires sorest need.

 Not one of all the purple host
 Who took the flag to-day
 Can tell the definition,
 So clear, of victory,

 As he, defeated, dying,
 On whose forbidden ear
 The distant strains of triumph
 Break, agonized and clear.

 *

 エミリー・エリザベス・ディキンソン(Emily Elizabeth Dickinson)は1830年12月10日生、1886年5月15日没。残した詩作品は1,700篇以上。
 生前は無名だったが、今や、「ウォルト・ホイットマン(Walter Whitman)と並んで、アメリカを代表する詩人であることに、異論をはさむ人はほとんどいないであろう」【亀井俊介】。

□エミリー・ディキンソン「成功はすばらしく思われる」(『ディキンソン・フロスト・サンドバーグ詩集 ~世界詩人全集12~』、新潮社、1968)
□亀井俊介編『対訳 ディキンソン詩集 ~アメリカ詩人選(3)』(岩波文庫、1998)
□MABEL LOOMS TODD & T.W.HIGGINSON “Collected Poem of EMILY DICKINSON”,Crown Publishers,Inc.1982

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【メディア】安倍首相の「人身売買」発言 ~騙しのテクニック~

2015年06月19日 | 批評・思想
 (1)「ゴーマニズム宣言」の小林よしのりは、『戦争論』(1998年)でネット右翼を作ったなどと言われているが、「右に寄らせすぎたと言うなら、真ん中まで戻す戦いをする」と語ったという【2015年3月31日付け「朝日新聞」夕刊】
 その「戦い」の一つに『SAPIO』2015年6月号の連載における問題提起がある。
 連載の本題に入る前の冒頭2ページで、安倍晋三・首相の「人身売買」発言のからくりを暴いている。

 (2)3月27日付け「ワシントン・ポスト」(紙面および電子版)は、安倍首相との単独インタビュー記事を掲載した。
 「歴史修正主義者と呼ばれることもあるようだが」という問いに、首相の方から「慰安婦問題」に言及し、
   「人身売買( human trafficking )の犠牲となり、筆舌に尽くしがたい辛苦を経験した方々のことを思うと心が痛む」
といった。英文での報道だったが、後日、安倍首相自身も「人身売買」という単語を用いたと認め、明確になった。

 (3)その後、「慰安婦問題」を「人身売買( human trafficking )」の語で論じることの適否が、国内ではほとんど行われていない。
 一方で、同紙の報道とほぼ同時に、安倍首相の米国両院合同会議で演説することが正式に決定した旨、一斉に報道された。
 4月29日の同演説に係る米国議会の反応は総じて好意的だった。歴史修正主義者ではないか、という批判の声はわずかだった。
 米下院は、2007年に「慰安婦問題」認識うぃ重視する決議をしている。なぜ様変わりとなったのか。
 この点について、小林よしのりは、「人身売買」という語を用いた安倍首相の戦略が成功した結果だ、と分析している。

 (4)日本国内では、「慰安婦」について戦前の娼婦のイメージが強い。前借金などによる年期制に縛られていた状況を「人身売買」と表現することもある。
 安倍首相は、相変わらず「『慰安婦』を強制連行した証拠はなく」一種の商行為だった、という従来の主張を繰り返したにすぎない・・・・と多くのマスコミには受け止められた。新機軸の内容ではなく、議論は必要ではない、とされた。

 (5)だが、小林よしのりは言う。
 米国で「人身売買」は黒人奴隷を意味し、「前借金で娘を業者に売る行為」は欧米では「奴隷制」になり、売春をさせる場を提供すると「性奴隷」となる。「つまり、安倍首相はアメリカで慰安婦は『性奴隷』だったと(略)認めたから、米議会で演説できたのだ」
 小林は、さらに言う。
 「それにしても外務官僚は巧妙な言葉のマジックを使うものだ。自国民を騙すのがうまい!」
 マスコミも、簡単に騙されていることに気づいているのか、疑わしい。
 小林は、最後に強調する。
 「アメリカで安倍首相が認めてしまった見解なのだから」、中学歴史教科書にまた「従軍慰安婦」の記述が「復活するかもしれぬ」

□高嶋伸欣(琉球大学名誉教授)「「人身売買」首相発言 騙しのテクニックを暴いた小林よしのり」(「週刊金曜日」2015年6月12日号)
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