語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】日本食品輸入規制強化の波紋 ~台北~

2015年06月03日 | 震災・原発事故
 (1)台湾は、5月15日から、東京電力福島第一原発事故を受けた日本産輸入食品に対する規制を強化した。
   (a)輸入するすべての食品について、都道府県別の産地証明を提出する。
   (b)一部の商品については、放射性物質の検査証明を提出する。

 (2)台湾は、2011年の東日本大震災発生後、原発事故が発生した福島を含めて、茨城、栃木、群馬、千葉の5県の産品について輸入を制限してきた。
 原発から4年経った今、なぜ規制を強化したのか。
 台湾当局の定める規制値は、370Bq/kgで、日本の100Bq/kgよりも緩やかだ。これまで日本から輸入した食品について「規制値を上回った」という報道はなかったはずだ。
 しかし、今年3月、前記5県で生産・製造された食品の一部が、産地などを明示せずに輸入されたことが明るみに出た。これが今回の措置の呼び水となった。台湾当局のもとに、消費者団体などから規制強化や検査徹底を求める声が寄せられたのだ。

 (3)「産地偽装は食品を輸入する台湾側業者がやったこと」【日系流通業者】という指摘もある。日本側は、今回の措置に対して、
    「科学的根拠に基づかない一方的な措置。極めて遺憾」【菅義偉・官房長官】【注】
    「世界貿易機関(WTO)への提訴も含め検討」【林芳正・農林水産相】
と、撤回要求、報復関税措置のほのめかしなど、強く反発している。

 (4)5月14日付け産経新聞は「日本食品全て輸入停止」と報じたが、事実と異なる。全面禁輸措置ではなく、台湾当局が求める証明書を提出すれば輸入できるのだ。さらに、台湾当局は「一次産品については検疫証明にある都道府県名の記載を証明として受け入れ、加工食品についても商工会議所の証明書に自治体名を表記したものでも認める姿勢を打ち出している。
 また、馬英九・総統は、5月18日の記者会見で、短期的措置であるとの見方を示している。「産地偽装は科学的問題ではなく法的問題。ともに協力して真相を究明し、再発防止のめどが立てば規制を解除する」と。

 (5)措置の影響で生鮮食品などの通関の遅れが見られるが、「騒ぎの大きさに比して、日本と台湾との経済関係に与 える影響は限定的」と地元経済紙記者は指摘する。
 日本の一部には、中台関係の緩和と拡大を進める馬英九を「親中反日」と決めつけ、今回の措置もその文脈で解釈しようとする者もいる。しかし、台湾当局や消費者団体の関係者によれば、「特定の国、自治体、企業、団体などをターゲットにしたものではない」とのこと。
 米国の食品医薬局(FDA)は5月から日本産食品に対する輸入規制をさらに厳格化している。日本政府がこの件で米国に反発したという報道はない。台湾にだけ譲歩を求めるのはおかしい。【ある反核団体の幹部】

 (6)昨年台湾で食の安全をめぐる騒動が頻発し、世論が食の安全にこれまで以上に敏感になっていることが、今回の措置の背景にある。廃油などを再利用したラード製品が、大手業者を通じて大量に流通していた・・・・という一連の事件は、ラードを日常的に使う台湾の消費者に大きな衝撃を与えた。
 監督不行き届きを指弾された政府の信用は大きく傷ついた。昨年11月の地方統一選挙で与党が大敗した要因の一つとも指摘される。

 (7)福島原発震災が発生し、竣工と実用化を控えた台湾電力公司の第四原子力発電所の安全性が不安視されるなど、台湾における反核世論の高まりを前に、当局は受け身の対応に終始した。
 これまでの流れから当局としても以上の課題について民意の趨勢に沿う以外に選択肢がなく、そこで下された回答の一つが日本からの食品輸入に対する規制強化だった。
 今のところ、当局の措置を正面から批判し、反対する声は、台湾国内からはほとんど出ていない。

 【注】菅官房長官は「科学的根拠」などと言っているが、そんなものは無い。「【原発】韓国をWTOに提訴した日本の愚 ~日本産の輸入停止~」参照。

□本田善彦(台北在住フリージャーナリスト)「日本食品輸入規制強化の波紋@台北 ~浮躁中国 81~」(「週刊金曜日」2015年5月29日号)
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 【参考】
【原発】韓国をWTOに提訴した日本の愚 ~日本産の輸入停止~



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