語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】“反東電知事”を潰した原発包囲網 柏崎刈羽再稼働で蠢く麻生vs.菅 暗躍した“原子力モンスター・システム”

2016年09月16日 | 震災・原発事故
 (1)泉田裕彦・新潟県知事(53)は、これまで事あるごとに東京電力がめざす柏崎刈羽原発の再稼働への動きに立ちふさがってきた。
   2007年7月 中越沖地震。被災した東京電力柏崎刈羽原発について「廃炉もあり得る」と発言
   2013年7月 東電が事前相談なしに柏崎刈羽原発の新規制基準への適合審査を申請すると決めたことを批判
 柏崎刈羽原発は、現在6、7号機が原子力規制庁の新規制基準への適合審査を申請中。今秋にも規制庁が「ゴーサイン」を出すと目されている。
 しかし、泉田氏は「再稼働の前に福島第一原発事故の検証・総括が必要」という考え方で、県として独自に安全性を判断するまでは再稼働を認めない姿勢を貫いていた。原発再稼働を国策とする安倍政権、東電にとって最大の障壁とみられていた。
 そんなキーマンが、再稼働をめぐる攻防を目前にした時期に、新潟県知事選(9月29日告示)への立候補表明を撤回した(8月30日)【注1】。

 (2)いったい何が起きているのか。
 原発再稼働については、実は自民党内が慎重派と積極派に分かれている。前者の代表は菅義偉・官房長官で、泉田氏が主張していた防災対策の整備などの手順をしっかり踏むべきという立場。後者の代表が麻生太郎・財務相で、反対論はねじ伏せてでも早く再稼働すべきだという立場。財務省は電力関連の税収さえ入ればいい。国に意見する泉田氏は以前から麻生氏周辺に目をつけられており、今年に入ってから猛烈な「泉田降ろし」が展開されていた。【新潟県政に詳しい関係者】
 2016年2月には4選出場を早々に表明したのだが、この頃から周辺では包囲網が粛々と敷かれていた。
 5月には県市長会と県町村会が、泉田県政の問題点26項目を指摘した文書を提出。この時、市長会の会長を務めていた森民夫・長岡市長(当時)はその後、泉田氏の対抗馬として県知事選への出馬を表明する。
 当初、泉田氏の対抗馬には大越健介・NHK前キャスター(県立新潟高校出身)など複数の有力者の名が挙がったが、皆、断ったそうだ。森氏は2004年にも知事選への出馬を模索したが、泉田氏が自公の推薦を得たため断念したという因縁がある人物で、以降もたびたび機をうかがっていた。県内の自民党原発再稼働推進派を口説き、出馬にこぎつけたと聞く。【前出関係者】
 7月にはかねて“反泉田”的論調とされる新潟日報(県内で6割のシェア/日に45万部)がフェリーの購入をめぐる県出資企業のトラブルについて、泉田氏の責任を問う報道を本格化させた。連日のように大きく紙面を展開する同紙に呼応するように、県議会最大勢力である自民党は調査委員会を設置。8月5日には議会閉鎖中にもかかわらず委員会を開き、泉田氏や担当の県庁職員を呼び、計12時間以上、“疑惑”を追求した。
 泉田氏に、さらに追い打ちが浴びせられた。泉田県政の後見人と言われた自民党重鎮の県議、星野伊佐夫・県連会長が失脚。7月の参院選で新潟の自民党候補が敗れた責任論が党内で噴出し、星野氏は8月6日に辞意を表明したのだ(後任は長島忠美・衆議院議員)。
 星野氏は田中角栄・元首相直系の古参議員で「越山会の三羽ガラス」と呼ばれた一人。他のベテランが政界から去り、星野氏に権力が集中する中で、泉田氏を守ってきた。県市長会、町村会の文書の件も星野氏の件も要は地元の権力闘争なのだが、新潟日報はいずれも知事サイドに厳しい視点で報じた。同社の小田敏三・社長は以前から泉田氏には批判的で【注2】、今回の「泉田降ろし」キャンペーンは特に凄まじかった。【自民党新潟県連関係者】
 8月10日には、森民夫氏が満を持して出馬を表明。泉田氏との一騎打ちの構図が生まれると、県医師会など4団体が早々に森氏推薦を表明。自民党も割れて分裂選挙になるとの見方が出ていた。

 (3)真綿で首を絞められるような包囲網に屈し、泉田氏が撤退したように見える。
 しかし、事実は違う、という。3選の実績で県民からの支持率は高く、情勢調査でも4選に挑んでも十分に勝算はあったというのだ。泉田氏も「必ず勝てる。情勢が厳しいから撤退するという判断はしていない」と記者団に語っている。
 本当の原因は何か。
 原発再稼働を望む勢力からのプレッシャーが日増しに強まる中で、仮に知事選で勝っても、その後も手を替え品を変え「泉田降ろし」の策謀が続くことは想像に難くない。それだけでなく、最悪、家族に危険が及ぶ事態まで想像されるような状況だったようだ。知事は巨大な利権で政官財がつながる「原子力モンスター・システム」に完全に包囲されてしまった。相当悩んだ末の決断だったようだ。【前出の県政に詳しい関係者】
 現在の東電は実質、経産省の管理下に置かれている。国は何としても柏崎刈羽原発を再稼働させて、少しでも東電に注ぎ込む資金を減らしたい。事故を起こしたのと同じ沸騰水型原子炉の再稼働はまだなく、ここで先例をつくる意図もあるのだろう。知事交代となれば、公共事業の大盤振る舞いと引き換えに、再稼働を認めさせることになろう。【飯田哲也・環境エネルギー政策研究所長】

 【注1】記事「「原子力防災、選挙の争点に」 泉田・新潟知事、出馬撤回の理由語る」(朝日新聞デジタル 2016年9月8日)
 【注2】泉田氏は、撤退表明後に、後援会ホームページ上に公開した文書の中で、<東京電力の広告は、今年5回掲載されていますが、国の原子力防災会議でも問題が認識されている原子力防災については、(中略)重要な論点の報道はありません>と、同紙と東電との“蜜月”を指摘している。

□「“反東電知事”を潰した原発包囲網 柏崎刈羽再稼働で蠢く麻生vs.菅 暗躍した“原子力モンスター・システム”」(「週刊朝日」 2016年9月16日)
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 【参考】「【原発】泉田裕彦・新潟県知事は語る ~立候補撤回の真相~


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