五社英雄、村川透につづく、映画監督評伝シリーズ第三弾。
業界騒然の書。業界とは、AVだけにとどまらず、映画界、芸能界すべてにおよぶ。村西とおるがいかに影響力を持っていたか、いかに破滅的な人生を歩んできたかがこの本で思い知らされる。
「お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません」
の名文句で知られる村西監督の自作自演(それはほとんどが本番ファックということだけど)シリーズが、いかにして生まれたか。奇矯な性格と独特のトークにはどのような背景があったのか。かつて盟友だった著者の本橋信宏の筆致は時に冷たく、時に血がほとばしるほど村西に寄り添っている。
極貧の福島時代。英語教材のセールスマンとして無類の才能を発揮し、日本一の売り上げを記録。独特の嗅覚でビニール本の販売に手を染め、ひたすら儲け、そして破産。AVへの進出、逮捕、復活……
世にこれほど数奇な人生を送った人はいないだろう。天国を知り、地獄を味わい、性懲りもなくふたたび天国をめざす。
事業欲、というものがどうしても捨てきれない人はいる。団鬼六がまさしくそうだった。耽美的な情愛小説に安住していれば団には違った評価があったかもしれず、村西にしても軽妙な味わいのAVを安直に製作していれば、少なくとも数十億の借金を背負うこともなかった。それでも彼らは、宿痾のように事業に走る。地方公務員には考えも及ばない世界。
黒木香、松坂季実子など、看板女優たちとの“交流”もすごい。セックスの有無がまったく意味をなさない世界における恋愛とは。
残念なことに、わたしは彼の作品を一本も見たことがなく(本当なんです)、だから実はAVフリークの半分もこの評伝を楽しめなかったのだろう。それでも驚愕の面白さ。女性にもおすすめできます。これを手に取るのは勇気がいるだろうけれども。
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