hiyamizu's blog

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乙川優三郎『脊梁山脈』を読む

2014年05月15日 | 読書2

乙川優三郎著『脊梁山脈』(2013年4月新潮社発行)を読んだ。

著者初の現代小説で、大佛次郎賞受賞作。
上海から復員して佐世保に上陸した23歳の矢田部信幸は、復員列車で小椋康造(おぐらこうぞう)に介抱される。彼は、山に籠ってもう二度と町へは下りてこないつもりだ、と語る。

信幸は実家に戻り、母を助けて畑つくりに励む。父や伯父のおかげで、生活に困らぬ金を手にした信幸は、助けられた男・康造を探す。彼は伝統的な手法で木工品を造る木地師だった。信幸は、彼を探しながら木地師の源流を訪ねて山村を渡り歩く。いかに生き直すかを探りながら。

御徒町のガード下でスタンドバー「月の夜」を営み画家でもある佳江と、木地師の娘で清楚で心優しいが、芸者になる多岐子が絡む。

表紙にある英語 “Life is much more successfully looked at from a single window, after all.”は、本文にあるように、ニック・キャラウェイの「結局、人生はひとつの窓から眺めた方がほどよく見える」という意味らしい。「信幸は窓が多すぎて却って展望がきかない」と、佳江に指摘されてしまう。

初出:小説新潮2012年1月号~11月号


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

敗戦で荒れた国土から、苦しくもたくましく復興に向かう時代の空気感が良く書けている。1953年生まれの著者に良く書けたと思うほどだ。当時の東京を思い出し、目に浮かべる事ができた。

力作なのだが、木地師の歴史に深く入り込み、おまけにその中で、秦一族、聖徳太子などやたら素人の歴史探訪が続き、うんざり。確かによく資料を調べ、取材しているのだが、もっと捨ててほしかった。


乙川優三郎(おとかわ・ゆうざぶろう)
1953年東京都生まれ、すぐに千葉県へ。ホテル・観光業の専門学校卒業後、国内外のホテルに勤務。会社経営や機械翻訳の下請を経て、
1996年『藪燕』でオール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。
1997年『霧の橋』時代小説大賞
2001年『五年の梅』山本周五郎賞、
2002年『生きる』直木賞、
2004年『武家用心集』中山義秀文学賞
2013年 本書『脊梁山脈』で大佛次郎賞 を受賞。
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