hiyamizu's blog

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加藤周一『三大噺』を読む

2014年05月05日 | 読書2

加藤周一著『三大噺』(ちくま文庫2010年1月筑摩書房発行)を読んだ。

詩仙堂を造った石川丈山や、一休宗純、江戸の学者富永仲基に関する少ない史実を創造で補う3つの短編小説からなる。

詩仙堂志
58歳で官を辞して三十余年、江戸時代初期、京都詩仙堂に住んだ日々の暮し。日常生活の些事に徹底し、工夫に徹し、小さな喜びのためにすべてを犠牲にした石川丈山の処世。彼は自らの人生に「こだわり」を持って生きていた。

狂雲森春雨(くるいぐももりのはるさめ)」
室町時代、頓智で名高い一休禅師を盲目の愛人森女の目から描いている。僧侶の身ながら森女との生を積極的にすすんだ一休宗純の森女との官能的人生。

仲基後語(こうご)」
大阪(大坂)の儒者富永仲基と関わりのあった人々の「証言」。富永仲基は、江戸時代の夭折した特異な思想家で、『翁の文』『出定後語』を著し、儒教・仏教・神道を批判した知性あふれる江戸の学者だ。
経典に関する彼の考え方は以下のように合理的だ。
仏教の多くの経典の説は互いに矛盾する。そこで、第一は、どの経典が一番優れているか「最勝」を判断する(天台教学)。第二は、魂の救いにどれが一番役立つかを「選択」する(法然)。第三は、経典の歴史的発展を知って、内面的論理をたどる(富永仲基の加上の考え方)。

文庫化にあたり「二人一休」、湯川秀樹氏との対談「言に人あり」を新たに収録。


私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

知的な好奇心を呼び起こしてくれる本である。

三作品それぞれ文体を違え、史伝体、一人称の語り、霊媒に呼び寄せられた仲基とその周辺の人物たちの霊と記者との対話という形を取っている。それぞれに日常的・官能的・知的に徹した三人の人生の断面を鋭く切りとり、自らの人生のテーマと共に描いている。

その「こだわり」の中で、石川丈山では、自分の中の他者、一休では、彼が愛した森女、富永仲基では、親族や大坂奉行所の役人、ひいては異端の思想家・安藤昌益に至るまで他者との「かかわり」にまで描写は広がっていく。


加藤周一(かとう・しゅういち)
1919年(大正8年)東京生まれ。 2008年(平成20年)死去。評論家。医学博士。
1943年に東京帝国大学医学部卒業、医院を開業。
1956年にはそれらの成果を『雑種文化』にまとめて刊行した。雑種文化論は、日本文化に対する問題提起として大きな議論を呼び、1958年に医業を廃し、以後評論家として独立した。
妻は評論家・翻訳家の矢島翠。
上智大学教授、イェール大学講師、ブリティッシュ・コロンビア大学教授、立命館大学国際関係学部客員教授、立命館大学国際平和ミュージアム館長などを歴任。哲学者の鶴見俊輔、作家の大江健三郎らと結成した「九条の会」の呼びかけ人。
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