hiyamizu's blog

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中脇初枝『きみはいい子』を読む

2014年05月12日 | 読書2

中脇初枝著『きみはいい子』(2012年5月ポプラ社発行)を読んだ。

児童虐待をテーマとしたこの本は5万部を超える話題作となり、坪田譲治文学賞を受賞。胸を打つ5編が並ぶ。

サンタさんの来ない家
大学を出てはじめての着任した小学校で、岡野匡(ただし)は一年生を担任する。授業中に女の子がおもらしをする。次々とおもらしする子が出て、母親から電話を受け、副校長からも指導を受けた岡野は子供たちに優しく接するようにする。すると、トイレに行きたがる子供が続出し、学級崩壊が始まる。

翌年は四年生の担任になり、ひととき安心する。乱暴な男子・大熊さんと、派手な女子・星さんのグループが結託してクラスは収拾のつかない状態になる。
やせっぽちなのに給食をおかわりする神田さんは、給食費を払っていないのにと大熊さんに非難される。神田さんは言う。「ぼくがわるい子だから、おとうさんが怒るんだ。」「ぼくがわるい子だから、うちにはサンタさんが来ないんだ。」「どうしたら、いい子になれるのかなあ。」「ぼく、わからないんだ」

女子グループに属していない清水さんがいじめられて、登校しなくなった。家庭に問題を抱える大熊さんは授業に茶々を入れ、母親がいない星さんたちの女子グループはおしゃべりをやめなかった。
そこで、岡野は宿題を出す。「その宿題は、家族に抱きしめられてくること、です」

けんかもいじめもとめられない、なさけないだめ教師の岡野は、よせあつめのこどもたちを救えないが、・・・。

べっぴんさ
母親から虐待を受け、自分の子に虐待をすることを恐れていたが、夫に望まれ娘・あやねを出産。夫のタイ単身赴任を機会に、あやねへの虐待がやめられなくなる。
あやねを連れて行く公園には、笑顔を貼り付けたママ友がいっぱい。自分と同じく家では虐待をしているに違いないのにと思う。あやねが何かやらかす度に、心の中のよどんだ水がぼちゃぼちゃと音をたてはじめる。

はなちゃんのママも同じだった。しかし、彼女には会うたびにべっぴんさんと言ってくれるおばあさんがいた。

うそつき
自営業の杉山には、妻・ミキと長男・優介、妹の美咲がいた。早生まれの中でも最終の4月1日生まれの幼い優介は、友達がいなかった。なぜか転校生の山崎大貴という親友が出来るが、中学は別々になる。
幼い頃、黒人とのハーフのもっちゃんが親友だった杉山は、「たとえ別れても、二度と会わなくても、一緒にいた場所がなくなってしまったとしても、幸せなひとときがあった記憶が、それからの人生を支えてくれる。」と思う。

こんにちは、さようなら
80歳のあきこは、両親の遺した家に一人暮らし。家の前を通学する小学生の櫻井弘也だけが彼女に「こんにちは、さようなら」と言ってくれる。自宅の鍵を落としてしまってウロウロする拡也を家にあげる。迎えに来た母親は、彼に障碍があるという。「障害?」とあきこは聞く。

うばすて山
雑誌編集長・かよは、母親から虐待を受けて育った。妹・みわは虐待を受けなかった。母は父親が亡くなり養女にだされていじめられた。必死に勉強して教師になったが、かよが生まれて辞めざるを得なくなった。
その母の痴呆が進み、子供を抱えながらみわが長く介護していたが、施設入居準備のため3日間だけかよが母を預かることになる。 母はすっかり6歳に戻ってしまっていた。

「うばすて山に捨てるようなものだよね。」というみわに、かよは「あのひとは捨てられて当然じゃない? それだけのことはしたんだから。」と返す。
みわの家に送っていく途中、母を置き去りにしてしまおうとするが・・・。


私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

虐待される子供の話は多く、なんでそんなことするのだと腹が立つ。いくら自分が子供の頃に虐待されていたからといえ、なんで虐待が連鎖するのかと思う。その答えを教えてくれる記事、小説はしらない。
この本には、虐待する側の心の動きにも触れている。もちろん理解できる訳ではないが。そもそも、子供なんてもともと親の思うとおりになんかならないものだと思うのに、大きな声で感情むき出しで叱っている母親を見ることがある。イライラするのは分かるけど、子供の顔や動作を見れば、可愛さで、まあしかたないかと思うだろうに。

しかし、子供の頃に虐待を受けた人は、自分が悪い子だったからという過去を抱えていて、思うとおりにならない我が子の顔に、幼いころの自分を見て、・・・う~ん、わからない。この本に、「自分で自分がかわいいと思えなくて、こどもがかわいいっておもえるわけないよ。」とあった。


中脇初枝(なかわき・はつえ)
1974年1月1日徳島県に生まれ、高知県中村市(現・四万十市)に育つ。小説家、児童文学作家。
高知県立中村高等学校、筑波大学卒業。
高校在学中の1992年に『魚のように』で坊ちゃん文学賞を受賞し、17歳でデビュー。
1997年、『稲荷の家』
2001年、『あかい花』
2004年、『祈祷師の娘』
2012年、本書『きみはいい子』、2013年 坪田譲治文学賞を受賞
2014年、『わたしをみつけて』で山本周五郎賞候補
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