中島京子著『やさしい猫』(2021年8月25日中央公論新社発行)を読んだ。
シングルマザーの保育士ミユキさんが心ひかれたのは、八歳年下の自動車整備士クマさん。出会って、好きになって、この人とずっと一緒にいたいと願う。当たり前の幸せが奪われたのは、彼がスリランカ出身の外国人だったから。大きな事件に見舞われた小さな家族を暖かく見守るように描く長編小説。
第56回吉川英治文学賞受賞。
2023年6月24日から土曜日(全5話)、NHKでドラマ化された。
シングルマザーで32歳の保育士のミユキは小3だった娘のマヤを鶴岡の祖母に託し、震災ボランティアに行っき、スリランカ人で24歳のクマさん(クマラ)と出会う。
一年後、盗難自転車だと疑われて警官に呼び止められていたクマさんをミユキが偶然に見かけ、2人は次第に惹かれあっていく。真面目で、あかるいクマさんは、マヤに「やさしい猫」などのスリランカの話を聞かせ、すぐに仲良くなった。クマさんは結婚したいと言ったが、ミユキはそんなこと今は考えられないと答えたが、やがて3人は一緒に暮らし始める。
婚姻届を提出した直後、クマさんは警察の職務質問を受け、オーバーステイ状態になっていたことから入管施設に収容された。在留特別許可を勝ち取って、母国への強制送還を防ぐために、2%の成功率といわれる裁判に訴え、弁護士のめぐみ(恵)・ハムスター先生を頼る。国、入管局を相手どった戦いが始まる。
初出:「読売新聞」2020年5月7日~2021年4月17日、夕刊連載
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
テーマは、日本の入国管理行政が外国人を迫害している問題だ。この点については、普通の生活では意識しないこの問題を、物語を読む中でごく自然に理解させてくれる。問題提起は小説の一つの役割だろうし、演説や、論文と違い、ごく自然に、楽しみながら理解させ、共感させる力がこの小説にはある。
青少年向けともとれるわかりやすい内容で、読みやすいのは良いのだけれど、冗長だ。小さな活字で400頁を越える。年寄りにはこのような大部の本はきつい。
余談(p291)
70年代にソ連のチェスチャンピオンのスパスキーを破って世界チャンピオンになったボビー・フィッシャーは、経済制裁中のユーゴスラヴィアでスパスキーとチェスをしたことでアメリカ政府を怒らせて国籍を剥奪された。2004年成田空港で逮捕され、牛久の入管に収容された。
スパスキーは「ブッシュ米大統領殿 もしフィッシャー氏が罪に問われるなら自分も同罪です。どうぞ私も刑務所に。そのときは彼と同房にして、チェス盤を差し入れてくださいね」と手紙を書いた。
将棋の羽生善治さんも小泉首相に嘆願のメールを出した。
結果的には、アイスランドが市民権を与えて、出国した。
入管問題に関する中島京子氏の講演が吉祥寺であり受講した。
講演
何故この本を書くことになったか?
新聞小説は3,4年前に連載することが決まる。新聞だから社会的問題を含むテーマが良いと思っていて、友人の弁護士からヴェトナムの人(?)が入管で死んだことを聞いて、何人かの弁護士、元入管職員などと話し合い、本も読んで、0から勉強した。ただ、それだけでは小説にならないが、ミユキとマヤとクマさんの話を作ってから小説を書き始めた。取材、インタビューし、入管訪問も3回したところで、コロナ騒動となり取材は困難になってしまった。
日本の入管は人を無期限に拘留できるし、司法判断なしに自分達だけで拘留などの判断ができるという諸外国にはない絶大な権力を持っている。
何を考えたか不明だが、オリンピック前に何かあるとまずいということで、入管施設が溢れるほどどんどん拘留した。コロナでクラスターが出て中断した。
このままでは済むはずがない。必ず変わっていく
話を聞いて私が考える入管問題の根っこ
日本人であることがいやになるほど入管は残忍だし、こんなことは変えなくてはならない。甘いのかもしれないが、日本人がこんな残酷なことをするというのは、どこか組織の在り方に問題があるのではないか?
入管という組織は、外国から来た人の悪事防止だけを目的とする組織になっているのではないか。それならば、少しでも疑わしい人は拘留すれば良いという判断になってしまう。
そんなことをした時の損失について考える官庁組織はないのか? 外務省?
外国からの労働者は、労働不足を補い、税金も納めている。世界から有能な多くの人が集まり、彼らが気持ちよく暮らし、より貢献してくれるためにどうしたらよいかを考え、実施する組織を入管(名称変更する)に作って、自らバランスをとるようにすべきでは?