新川帆立著『縁切り上等! 離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル』(2023年6月30日新潮社発行)を読んだ。
夫のモラハラと浮気に耐えられなくなり家を飛び出した聡美が北鎌倉で出会ったのは、縁切寺の娘で弁護士の松岡紬。勢い込んで離婚相談をするも、思いがけないことを言われ……。上手に縁を切る方法、教えます。温かなヒューマンドラマにして、前を向く元気をもらえる、痛快リーガル小説。
松岡紬(つむぎ):離婚専門の弁護士。北鎌倉にある700年以上縁切寺として有名な東慶寺(本書では東衛寺)に「松岡法律事務所」を構えている。小柄で西洋人形のような美人。30歳過ぎだが結婚する気なし。
松岡玄太郎:紬の父。65歳で引退し、長男悠太に東衛寺の住職を譲った。十数年前に時希子と離婚。
出雲啓介:事務所専属の探偵。紬の幼馴染。想いは?
小山田聡美:第一話の依頼人で後に事務員として働く。牧田亮介から離婚して小山田に。息子は幼児の翔。
第一話 くやしくば尋ね来て見よ松ヶ岡
聡美は専業主婦。夫・亮介は、家事はもちろん出産時にもまったく助けてくれなかった。家事や育児の手伝いを頼むと、「じゃあお前は、俺の仕事を手伝ってくれるわけ?」と言う。
浮気の影を見つけたので、聡美は亮介に追いかけられながら、北鎌倉の実家へ翔を抱いて必死に逃げる。途中、紬に事務所へ招き入れられ、紆余曲折を経てなんとか亮介の浮気の証拠をつかみ、無事離婚できた。職を探す聡美は事務所の事務員となる。
第二話 松ヶ岡男を見ると犬がほえ
依頼人の鷹田晃彦42歳は「妻(麻衣子)が浮気した末に、子供をつれて家を出ていったのです」と訴え、子供の親権にこだわる。しかし、なぜか警察は妻の行方不明者届を受理しなかったという。夫婦の真相は?
第三話 星月夜あきれるほど見て縁が切れ
山岸花枝はあと1年で退職金が入る夫・宏とどうしてもすぐに離婚したいという。
第四話 松ヶ岡寝そびれた夜のぐち競べ
11歳の娘・樹里がいて専業主婦の田井中愛理は「不倫したうちの人と離婚したい。しかし、信託銀行勤務のうちの妻は、法律上の義務はないし、一円も払わない」と言っているという。うちの妻とは冴子という女性パートナーだった。
第五話 またいびりたくば鎌倉までおいで
弁護士の間城が来て、聡美の元夫の亮介がうつ病になり月15万円の養育費を5千円に変更させて欲しいと申し入れた。
初出:「小説新潮」2022年8月号~2023年2月号
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
文章は明快、簡潔で、構成も論理的でわかりやすい。登場人物のキャラも立っていて、ユーモアもある。
半面、風景描写や情緒や潤いのある文章ではなく、ミステリーはそれで良いともいえるが、深みには欠け、読み応えがない。
スムーズに離婚成立するのは第一話のみ。相手側の主張の裏事情を探る展開が大部分。しかし、その第一話も続きがあって、第5話になって、続きが始まる。
離婚のためにあらかじめ何を用意する必要があるかがわかった。私(たち?)には不要な知識だが。