hiyamizu's blog

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石田衣良『てのひらの迷路』を読む

2013年04月23日 | 読書2

石田衣良著『てのひらの迷路』(講談社文庫い-101、2007年12月い発行)を読んだ。

あなたに向かって話すようにゆっくりと解かりやすく書かれていて、人気作家の素顔を垣間見ることができる24の掌編集。
内容構成などは自由にしてよいと言われ、「久々に読者のことをまったく考えずに作った作品集である。」と語っている。
各掌編の前に著者自身の解説付き。



「ナンバーズ」:回復の見込みのない脳出血で入院した母の病室には、1、2桁の9個の数字が書かれていた。その数字は入院した患者の年齢で、いなくなると数字が消えた。著者は、このことをいつか小説に書こうと思う。26歳のときの話で、ガールフレンドが訪ねてくる部分だけがフィクションだという。結局、母の58(?)という数字は消えた。

「銀紙の星」:学生時代に軽い対人恐怖症で半ひきこもりになった著者は、青年にこう語らせる。
すべての人が立派に見えたり、次の瞬間これ以上なく貪欲にも見える。世界は冷酷無比で、自分が生きていく場所などないように感じられたりする。
自室に引きこもりの青年は、過眠、不眠を繰り返したあげく、本やCDをあらゆる順番に並べ直して時を過ごす。やがて、少しずつ小さく窓を開けて、・・・。

「片脚」:遠距離恋愛の彼女の片脚だけが、宅配便で送られてきて、彼女の片脚と夜を過ごす。パーツ・デート。川端康成の「片腕」を「片脚」に変えた試み。著者はこのため、十数冊の脚の細部が写っている写真集を購入して描写を工夫したという。

「左手」:片脚を送ってくれた彼女に、今度は彼の左手が届く。その夜、彼の左手は、・・・。

「I氏の生活と意見」:「作家になるのは簡単だが、作家であり続けるのはたいへんだ。果てしないのぼり坂がまっているのだから」30歳過ぎてフリーランスで広告の仕事をしているI氏。何もかもうまく行くI氏。筆者のデビュー前の状況。

「コンプレックス」: 「なぜ女性はあんなにみんなコンプレックスを持っているんだろうか。それもほとんど男性からは、意味不明な微細な部分ばかりであることが多いのだ。」すべて男と女の会話で構成。

「短編小説のレシピ」:次の作品「最期と。最期のひとつまえの嘘」のテーマ、構成を思いつくまでのあれこれ。直木賞受賞後、新聞などの取材が月に60本、一晩で50枚書くことは珍しくなくなった。

「最期と。最期のひとつまえの嘘」:男は愛人とホテルにいるときに倒れる。愛人には、「すぐこのまま逃げてくれ、そして嘘を突き通してくれ」と伝えたいが声がでない。なにしろ愛人は妻の友人なのだ。

「さよなら さよなら さよなら」:13歳で買ってもらい、7年間ポップスを聞き続けたラジカセ。毎日片道10キロを駆け抜けたプジョーのロードレーサー(自転車)。キャノンのワープロで書いた3作目の「池袋ウエストゲートパーク」が締切まで数日のところで、最初の半分42枚が操作ミスで消えた。追い詰められ一晩で42枚をほぼ完璧に再現した。二度目なので滑らかさが増し、勢いで後半の60枚にも手を入れた。そして、受賞した。

初出:「新刊展望」2003年7月号~2005年6月号、「左手」「小説現代」2004年1月号、2005年11月単行本



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

掌編小説というと、星新一風の技巧的なショートショートを思い出すが、私小説風のものも多く、自分のことを素直に語ってしみじみしたものが多い。ひらひらして、軽々しているような石田さんも、けっこういろいろあったんだな、と思う。

しかし、石田さんという人は、TVでのしゃべりを聞いていても、書き物を読んでも、気持ちの熱さが感じられない、いや、表に出さない人だ。特に話すときには、いかにも気持ちが入っていないようにしゃべる。
「ひとりぼっちの世界」で、女性から言われている。「真夜中に抱きあっていても、やっぱりあなたはひとりだった。」そして彼は答える。「きみが望むような形ではないかもしれないけど、きみのことは好きだった。でも、ぼくにはみんなのように人のことを好きになるというのが、よくわからないところがあるんだ。」


石田衣良(いしだ いら):本名は石平(いしだいら)
1960年東京生まれ。成蹊大学経済学部卒。フリーター、広告制作会社勤務(コピーライター)。
1997年『池袋ウエストゲートパーク』でオール読物推理小説新人賞受賞しデビュー
2003年『4TEEN(フォーティーン』で直木賞受賞
2006年『眠れぬ真珠』で島清恋愛文学賞受賞
他に、『下北沢サンディーズ』



以下、メモ

「旅する本」:拾って読んだ人に希望の光を灯すように内容が変わる本。 

「完璧な砂時計」:バーで出会った有能で冷静な30代初めのアナウンサー。彼女は何も見ずに正確に時を計ることができる、例えば3分を一秒もたがえずに。

「無職の空」:突然会社を辞めてしまい横浜の公園で本を読む青年。これは私小説だという著者は半年間横浜で遊んでいたことがあるという。

「ひとりぼっちの世界」:女性のセリフはかっこよく変えているが、横浜で同棲していたときの実話。「別れ話は夜の11時に始まった」で始まる。

「ウエイトレスの天才」:彼女は、以前ぼくらが頼んだ料理を正確に記憶していた。勤めて2年半、すべての客の注文を覚えているという。友人の妹というモデルがいる。

「0.03mm」:コンビニでバイトするぼくはコンドームを買う年上の女性から誘われ・・・

「書棚と旅する男」:客船で旅しながら世界でたった一冊の自分のための本を探す男。

「タクシー」:12人ほどのタクシー運転手の会話が並ぶ。

「終わりのない散歩」:街を歩いていて顔見知りになった老女が、ある日、不安そうな顔でぼくに声をかけてきた。

「レイン、レインレイン」:小学生から小説家になるまでの好きな雨との出会い。

「ジェラシー」:仲のいい夫婦に赤ん坊が生まれて、夫が壊れていく。

「オリンピックの人」:結納直前で男は突然婚約などしたくないと言い出す。そんな時に、4年に一度、偶然出逢う人に会った。そして、・・・女は、嘘だとわかっている人生に戻るだろうと思う。

「LOST IN 渋谷」:飲み会帰りに一人はぐれて渋谷の街をぶらぶらする夜の描写。

「地の精」:マンション住まいのぼくは、「人間が好んで住む条件というのは、縄文時代から変わらないということです」という不動産会社の営業部員の言葉に釣られ、貝塚の上という土地を衝動買いする。

「イン・ザ・カラオケボックス」:NHKのTV番組で出逢ったフリーターの彼女との会話。エキセントリックな格好をした彼女は、家を出ると3日くらい帰らないという。

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