hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

浅田次郎『おもかげ』を読む

2018年04月26日 | 読書2

 

浅田次郎著『おもかげ』(2017年11月21日毎日新聞出版発行)を読んだ。


主人公の竹脇正一(まさかず)は、関連会社の社長として5年務め、退任した。送別会から帰宅途中の地下鉄丸ノ内線車内で倒れ、病院へ緊急搬送される。意識がないまま集中治療室のベッドに眠る。

竹脇は昭和26(1951)年生まれの捨て子で、養護施設で育つ。成績はよく、一流企業に就職。両親が離婚・再婚し、祖母に育てられた節子と結婚する。

妻の節子が見守る中に、今や本社の社長で同期の堀田憲雄が訪れる。
正一の施設からの親友で、土木関連の親方の永山徹のところで働く大野武志タケシ)は正一の娘・(あかね)と結婚し、二人の娘がいる。シングルマザーの母親はタケシの面倒をみずに男のところで好き勝手し、タケシは少年院入りするが、親方のお陰で、まっとうな生活ができるようになった。


美人だが独身の看護師・児島直子は、竹脇と通勤電車で20年来の顔なじみでもあった。

正一節子の長男・春哉は交通事故後肺炎を起こし4歳で死んだ。は乳飲み子だった。火葬場で骨を拾ってくれたのは堀田夫婦だけだった。堀田は危うくなった竹脇夫婦につらい説諭をしてくれた。
「なかったことにしろ。忘れたふりでいいんだ。ちゃんを片親にするつもりか」

竹脇はベッドに横たわる自分を見ながら、マダム・ネージュ(雪)と名乗る老女と食事に行き、と名付けた女性と夏の入り江で語り、集中治療室の隣のベッドの患者・榊原勝男と銭湯に行き、屋台で酒を飲み、東京大空襲後、戦災孤児グループのリーダー格だった峰子が初恋の人だったと語る。さらに、大学で1年だけ恋人だった古賀文月と語り、竹脇の15歳年上の峰子と歩き回る。


以下、過去出会った人など色々な人が竹脇の分身を連れだし、昔に帰って語り合い、おもかげで胸いっぱいにする。


初出:『毎日新聞』2016年12月13日~2017年7月31日

  

私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)


相変わらず、しみじみとした話が続き、同じ東京育ちで十年ほど先輩の私の育った時代と重なることもあり、手練れの著者に乗せられるのは幾分くやしさもあるが、思わず自らを振り返ってしまう。

地下鉄銀座線内で母に捨てられ、捨て子というもっとも悲惨な人生のスタートを切った竹脇が、息子を亡くすという不幸を乗り越え、そんなことをまったく思わせないように、爽やかな様子で、誠実な人生を送る。しかし、これから妻と旅行でも楽しもうかというときに丸の内線内で突然倒れる。

寝たきりの彼の分身が走馬燈のように、過去縁のあった人々に会い、しみじみとおもかげを訪ね、自らの人生を振り返り、最後に自分を捨てた母と、亡くなった息子と語る。

主人公が波乱の生い立ちにもかかわらず、その後は破綻がなく、性格も〇〇まじめで温厚過ぎて、話が淡々と進み過ぎるので、幾分物足りなくはある。



浅田次郎の略歴と既読本リスト

 

 

親方のお言葉

「いいか、タケシ。義理は義務だぞ」・・・血の繋がった親子ならテキトーにやったって許されるけど、義理の仲なら何だって義務だ、・・・。

いいか、タケシ。一人の女を幸せにするのは、世界中から戦争をなくすのと同じぐれぇ難しいんだぞ。


漢字の勉強!

振り仮名がふってあるのだが、なんとなく意味は分かるが、読めない難しい漢字がよく出てくる。

諾(うべな)う、怯懦(きょうだ)、矍鑠(かくしゃく)、交誼(こうぎ)、帳(とばり)、斑(まだら)、汀(みぎわ)、瞭(あきら)か、鶴嘴(つるはし)、棕櫚(しゅろ)、琺瑯(ほうろう)、分を弁(わきまえ)て、梳(くしけず)って、眦(まなじり)

 

以下、ネタバレで白字。

ふいに視界が暗くなって、命を繋ぐ機械が不穏な警報を鳴らし始めた。ドクターは家族にご連絡くださいという。

彼は地下鉄の車内にいた。・・・彼は捨てられたが、乗客など多くの人の祝福を一身に享けて、地下鉄で生まれたのだと思った。地下鉄のホームにいた息子の春哉は、迎えに来たのかと聞く竹脇に、「おかあさんと茜のそばにいてやってよ。」と言い、丸の内線に乗って去っていった。竹脇は、よし。生きるぞ。苦労の釣銭はまだ残っている。節子をみなし子にはさせない。誰も泣かせはしないと思う。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 谷川茸を食す | トップ | 武蔵野マルシェ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書2」カテゴリの最新記事