hiyamizu's blog

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奥田英朗「オリンピックの身代金」を読む

2010年03月19日 | 読書2

角川書店のHPの宣伝文句はこうだ。

昭和39年夏、オリンピック開催に沸きかえる東京で警察を狙った爆発事件が発生した。しかし、そのことが国民に伝わることはなかった。これは一人の若者が国に挑んだ反逆の狼煙だった。著者渾身のサスペンス大作!


1964年アジアで初めて開催されるオリンピックに向け、東京は大変身しつつあった。千駄ヶ谷から青山にかけては別世界になった。そして、新幹線、モノレール、高速道路(名神、首都高??)が出来つつあった。日本国民のだれもが、敗戦から立ち上がり、未来への希望としてオリンピックに期待し、熱烈に支持した。
そして、この物語では、警察を狙った爆破事件が起こり、「東京オリンピックを妨害する」という脅迫状が届く。日本でのオリンピックに対し不安を抱かれることを極度に恐れた警察はこの事実をひた隠しにしたまま、大規模な捜査を続ける。そして、色白で歌舞伎役者のような東大院生が捜査線上に浮かぶ。

本書は、「野性時代」2006年7月号―2008年10月号の連載作品に加筆・修正したものだ。



私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)

本を開くと、いきなり昭和39年当時の国立競技場、神宮野球場などの地図がある。私の高校はこのあたりにあったので土地勘があり、冒頭から懐かしく引き込まれてしまった。1959年生れの奥田英朗が、日本が未来に向けて盛り上がっていた60年代をえがく。巻末の参考文献リストを見ると、かっての東京を懐かしんだ本や写真集が並ぶ。60年代や昭和30年代は今や勉強して知る時代になってしまったのだ。
それにしても、「・・・何たべようか」・・・「不二家?資生堂パーラー?」とか、「シャボン玉ホリデー」「若大将」など懐かしい事柄が出てくるが、なんとなくわざとらしく思える。

主人公は秋田の貧しい農家から、金と人を集め発展していく東京に出てくる。その東京の中でも、未来都市めいた千駄ヶ谷周辺と、主人公が飛び込む飯場の悲惨な環境が交互に描かれる。主人公はこれらの光と影に引き裂かれる。
東京にしか住んだことのない私は、あの時代の東京と地方の差がそんなにも大きかったのかと思う。当時、私は東京で浮かれていたが、身近にあった空地や古めかしい家がどんどんなくなって、人工的なコンクリート環境になっていくのを見て何か漠然とした不安を持った。

この小説では、起こったことをそのまま、あるいは警察の側から描き、あとの方で時間をさかのぼって、同じ事柄を犯人の側から描いていく。日付が書かれているのだがタイムラグが素直に頭に入らずに混乱する。見る視座によって大きく事実がことなるなら、そんな書き方も面白いが、冗長になっている。
意外性のある展開がなく、しっかりとしてはいるが、淡々と話は進むので、520ページは正直長い。奥田英朗の本領は、『重力ピエロ』のような軽妙洒脱な短編小説にあるのではないかと思ってしまう。



奥田英朗(おくだひでお)は、1959年岐阜県生まれ。雑誌編集者、プランナー、コピーライターを経て、1997年「ウランバーナの森」で作家デビュー。第2作の「最悪」がベストセラーになる。2002年「邪魔」で大藪春彦賞、2004年「空中ブランコ」で直木賞、2007年本書「家日和」で柴田錬三郎賞、2009年「オリンピックの身代金」で吉川英治文学賞受賞。その他、「イン・ザ・プール」「町長選挙」「マドンナ」「ガール」「サウスバウンド」など。



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