hiyamizu's blog

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城アラキ『妻への十悔』を読む

2024年08月19日 | 読書2

 

城アラキ著『妻への十悔 あなたという時間を失った僕の、最後のラブレター』(2024年5月10日ブックマン社発行)を読んだ。

 

ブックマン社の内容紹介

淳子さん――。
僕があなたを失って14年が経った。
あの日、あなたに言われて約束したよね。
「無理心中なんて嫌だからね。後追い自殺もダメ」。
僕はまだ、生きている。あなたを失った時間を――。

……

『バーテンダー』など数々のヒット作を生み出した漫画原作家の城アラキは、最愛の妻から突然の余命宣告を受ける。
混乱して子供のように泣き出す夫と、どこまでも冷静な妻。
「ふたりだけのことだから、最後までふたりだけで生きたい」
妻の願いにより、残された数か月をほぼふたりきりで過ごす夫婦。
共に過ごした30年間の、更に濃密な3か月間。
愛して、愛して、愛した妻の、最期の言葉――。
「淳子さんの心の本当の奥底にあった孤独感は、 やはり僕には分からなかった」
妻を失って壊れた心は、簡単には戻らない。もう戻ることはないのかもしれない。
それでも、美しくて、強くて、聡明だった淳子さんを残したい。
同じように誰かを失くした、誰かのために。
城アラキが2年以上の歳月をかけ、悩み、迷いながら綴った、妻への愛と後悔のエッセイ。

 

 

第1章より

振り返ると青山アンデルセンの小さな袋を手にした淳子さんは、そのまま僕の前を横切り、左横に座りながら、それはあまりに突然の言葉だった。
「膵臓がんだって。もう一度正確な検査しないとハッキリしないけど、まず間違いないって。レントゲン見たけど、肝臓にも3か所転移があって、結構大きい。ステージⅣのbだから、手術するのも無理。助からないみたい」

「アンデルセンって、青山店だけはお店でパンを焼いてるんだって、だから美味しいのかな。美味しいよね。食べる?」

……

「何があっても無理心中なんで嫌だからね。後追い自殺もダメ」
横顔は穏やかに微笑んでいた。その口調は明るく、いつものようにどこかのんびり、おっとりとしていて他人事のようだ。

 

以下、ガン告知を受けてからの二人の闘病の歩みが語られ(全体の2/3)、そのあいだに、淳子さんが亡くなってから、あるいは二人の出会いからの城さんの思い出話(1/3)が字体の色を変えて挟まれる。

 

 

城アラキ(じょう・あらき)
漫画原作者。立教大学在学中からライター活動を始め、コピーライターを経て漫画原作者に転身。

テレビドラマ化・アニメ化された「バーテンダー」をはじめ酒と酒にまつわる人間関係を、コミックの巻数にして優に100を超えて描き続けている

漫画原作を手掛けた作品に、『ソムリエ』シリーズなど。

単著として『バーテンダーの流儀』『負けない筋トレ』など。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

闘病模様がかなり詳しく書かれていて、この部分は真剣に読む気にもならず、さらりと読んでしまった。

 

がん告知の当初から、あっさりと悟ったかのような言動の淳子さんに驚かされる。本心なのかはわからないのだが。ただただ混乱し、感情が乱高下する城さんを、しょうがない人ねと言う風に温かく見つめる淳子さんに感心する。

同時に、まるでダメな男の代表で、酒ばかり飲んでいる城さんにあきれるが、私が同じ立場だったら、毅然としていられるか自信がない。

 

地方都市・浜松で大切に育てられた典型的お嬢様で、美人だった淳子さんが、放埓な大学生活を送る城さんに惚れて、東京で一緒に暮らし、卒業後、別れて実家に戻り、結婚する。数年で婚家を飛び出して、東京の城さんの元に飛び込んでくる。この辺りの、当時の一つの典型的恋愛模様も簡潔に描かれていたので、面白く読めた。

 

 

目次

プロローグ 人生の地図
第1章 青山、1月。 「無理心中なんて嫌だからね」
第2章 八ヶ岳、2月。「あなたには、絶対に我慢できないくらいの痛み」
第3章 八ヶ岳、3月。「二人で共に有る」
第4章 浜松、3月。 「僕に、自殺の可能性はありますか?」
第5章 最後の部屋、4月。「愛おしくて、ならない」
第6章 「その後」を生きる
エピローグ 妻への十悔

 

 

メモ

予期悲嘆:悲しみを予想する。医療などでは、誰かの死を想った時から始まる、悲しみや別離の先取りを意味する。

 

葬儀の悲しみの違い:親戚は、子供たちも帰るべき日常の生活がある。その上での悲しみだ。しかし、妻を、夫を、子供を亡くした時、帰るべき家庭の日常そのものの形は変わってしまって、もう二度と戻りはしない。

 

下顎呼吸:死の直前に起こる呼吸。呼吸が苦しいのか少し喉をかきむしるように手を伸ばし、首を反らせて口を開け「ハッ、ハッ」と短い呼吸を繰り返す。

 

「大丈夫、死ぬことなんて怖がらなくていい。生きているうちは死は絶対に追いつけないんだから」(アキレスと亀のように)

 

コメント
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