hiyamizu's blog

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姜尚中「在日」を読む

2008年04月12日 | 読書
姜 尚中(カン・サンジュン)「在日」集英社文庫 2008年1月発行を読んだ。この本は2004年3月に講談社から出た単行本に大幅加筆して文庫化したものだ。

著者は朝鮮戦争のさなかの1950年、韓国・朝鮮人二世として熊本市に生まれ、早稲田大学政治学研究科博士課程修了。現在、東京大学情報学環教授。

姜尚中の在日としての半生を語った自伝である。

前半は韓国・朝鮮人集落で暮らす父親、母親、同居人のおじさんなど悲惨ともいうべき身近な在日一世の境遇と、その中で愛情を注がれた子供時代が淡々と語られる。

青年期には、激しく変わる韓国、北朝鮮の状況に翻弄されながら、日本名「永野鉄男」を捨て、「姜尚中」を名乗り、在日としておずおずと政治活動に携っていく。その結果、政治の季節の終焉とともに挫折し、やがて学究の徒として留学し、結婚もする。

後半では、大学で教えるようになり、そしてTVなどに出だしてからは少数派の在日として意見を、ためらいながらもしっかり主張する。例えば、北朝鮮バッシングの中で、六カ国協議でしか北朝鮮問題を解決できないことを主張する。




私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)。TVの討論番組などでお馴染みにように、冷静で穏やかに、淡々と極めて困難な状況を語っているので読みやすい。


私の理解として、在日の問題は、排他的な日本の中の外国人としての立場だけではなく、韓国、北朝鮮の人からも疎外され、反日と反朝鮮のハザマにはまり込んでしまう点にあると思う。
韓国の政治情勢は激しく動き、暴力的であり、北朝鮮にいたっては狂信的で、日本人の共感を得るには程遠い。同時に、日本人の嫌朝鮮の感情を、日本により悲惨な被害を被った韓国、北朝鮮の人に伝えることもより難しい。

ただ、姜尚中はまちがいなく頭が良く、勉強もし、在日で東大教授になるという超エリートだ。したがって、この本は、多くの在日の人の苦しみを知るための本としては十分なものではないだろう。


ひとつだけご紹介。

埼玉県で指紋押捺拒否第一号になって運動の象徴になるが、苦しんだ末、生活上から降りることにした。ことのとき、上尾合同教会の土門一雄牧師は言う。

――――以下引用――――

「わたしは姜さんがどんな決定をしても、それを支持したいですね。もともと私たちの運動は市民の運動です。市民の運動はね、国家権力と対峙するとき、敗北するに決まっているんです。でもそれをただ敗北とだけ受け止める必要はないと思いますよ。負けて、負けて、負け続けて、しかしいつの日か勝てないけれど、負けてもいない、そんなときがくるはずですよ。だから姜さん、今あなたが犠牲を被る必要はないんです。だれもそれを姜さんに求めることはできないし、求めてはダメなんです。姜さんがこんなふうに悩まなければならない状況を作っている私たち日本人にこそ、問題があるのですから」

――――以上引用終わり――――

姜尚中は土門牧師への尊敬の思いで、洗礼を受ける。







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