hiyamizu's blog

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アントニオ・タブッキ『インド夜想曲』を読む

2012年07月06日 | 読書
アントニオ・タブッキ著、須賀敦子訳『インド夜想曲』白水Uブックス99、1993年10月白水社発行、を読んだ。

主人公はインドで失踪した友人シャビエル(ザビエル)を追って、ボンベイ、マドラス、ゴアを巡る。実際にあるスラム街の宿、厚顔無恥なほど豪華なホテル、悲惨で不潔な夜の病院、謎の神智学協会など幻想と瞑想に充ちた世界を描くインドに実在の場所を巡る12の物語。
そして最終到達地、ゴアの高級ホテルで彼が見たものとは?

友人を探していると言ったら、医者はいう。
「インドで失踪する人は、たくさんいます。インドは そのためにあるような国です」・・・床にはまっくろになるほどのゴキブリがいて、・・・僕達の靴の下で、小さな破裂音をたてた。・・・「壁にびっしり卵がついていて、病院そのものをとりこわさない限り、どうにもなりません」


夜中のバス停の待合室で会った美しい目の少年の肩には恐ろしい形をした生き物、兄が乗っていた。兄は預言者で「あなたはマーヤー(この世の仮の姿)にすぎない」など禅問答を繰り広げる。

アントニオ・タブッキ Antonio Tabucchi
1943年イタリア・ピサ生まれ。今年3月68才で死亡。
作家で大学教授(ポルトガル文学研究、詩人フェルナンド・ペソアの紹介者)。
本書は、フランスのメディシス賞外国小説部門賞を受賞
「供述によるとペレイラは・・・・」はイタリアのカンピエッロ賞とスーパー・ヴィアレッジョ賞を同時受賞。

須賀敦子
1929年(昭和4年)兵庫県に生まれ。
1951年に聖心女子大学文学部を卒業。慶応の大学院を中退し、フランス留学。
1958年にイタリア留学し、1961年、コルシア書店の中心者の一人であるペッピーノ・リッカと結婚。
1967年に夫は急逝し、1971年日本に帰国。
大学の非常勤講師をしながらイタリア語の翻訳者。上智大学の助教授、教授となる。
1990年『ミラノ 霧の風景 』を刊行、翌年女流文学賞、講談社エッセイ賞受賞。
コルシア書店の仲間たち』単行本5冊、翻訳6冊を出版。
1998年69歳で死去。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

インドの深い謎の風土の中で、底抜けの貧困、贅を極めたホテルといった環境、そして出会う人々は不可思議。非現実的な出来事が起こるわけではないのに幻影の中で浮遊している感じになり、読んでいる自分の立ち位置が不明になりそうになる。
そのうち、友人探しは謎が深まるばかりで進展せず、『僕』の行く先々での体験、不思議な人々との出会いに比重は傾いていく。

私には原文は読めないのだが、タブッキという稀有な作者と須賀敦子という名代の理解者、文章家の才能の乗算なのだろう。


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